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中国神話の世界がデジタル技術で蘇る―『山海経』デジタルアート展―

 紀元前4世紀から紀元前2世紀にかけて編纂された、中国古代の地理書『山海経(せんがいきょう)』 をご存知でしょうか。山や川、動植物、鉱物、神話的な生物や奇妙な出来事が詳細に記録されている書物です。
 中国や隣接する地域の山岳、河川、海洋についての詳細な説明が含まれていますが、実際の地理とは異なり、神話的・空想的な記述も多くあります。生物の中には九尾の狐なども描かれており、後世の文学や芸術などにも大きな影響を与えました。古代中国の宗教観や文化・風俗の参考となる貴重な資料です。

 先日、南京市文化芸術センターで「「尋迹之山海経」光影芸術展」という『山海経』の足跡をたどるアート展が開催されました。今回は、その時の様子をご紹介します。

「尋迹之山海経」光影芸術展 会場入り口

 この展示では『山海経』に出てくる生物や人物などを、様々なデジタル技術で現代のキャラクター風に表現しています。見ていて楽しく、観覧客が参加して楽しめる体験型のコンテンツも多く、お子様連れのお客様がとても多かったです。

 さて、受付でチケットのシールをもらい、中へ入ってみましょう。

「菌狗」という神獣がプリントされた入場券

入り口を入ってすぐのところに、庭園らしきものが現れます。壁のモニター映像と実物の竹が融合して、美しい庭園の一角が再現されています。

神獣と記念写真が撮れる

 足元のマークを踏むと、様々な神獣がランダムに現れるので、踏んでみました。

「禺強」という神獣が現れた


 さらに中へ進むと、様々な映像で表現された神話の世界が登場します。映像は天井や床にも広がっており、子供たちが神話の体験して楽しんでいました。 

 その奥には大型モニターが組み合わせて配置され、立体的な神話世界の映像が映し出されていました。

「山海経」の中の記述抜粋
その記述により現れる扶桑の木

 そして、両サイドの壁にはタッチパネルが設置され、様々な体験コンテンツがずらりと並んでいます。

神話世界の人物体系図
一番トップに立つ、天地開闢の創世神ー盤古(ばんこ)
后羿(こうげい)が太陽を打ち落とすゲーム
手で左右に動かし、正面に止まった山の名称が表示される
鳳凰涅槃
絵巻の紙資料に合わせ、『山海経』に登場する植物の紹介
山海経の世界感を華やかに演出

 更に進むと、大きなシアタールームがありました。『山海経』に出てくる神獣たちが登場し、ストーリーに合わせ、神獣の特徴などが紹介されました。両側の壁や床にも投影された映像が広がり、音楽やナレーションと共に、迫力のある臨場感で、より神話の世界を楽しめます。

 映像の最後には、壁中にトランプのようなカードが並びました。それぞれのカードはチケットのシールと連動しており、占いのような感覚で、自分が持つ神獣の属性情報が分かるという演出です。

「山海経」の記述:青い獣で兎に似る、菌狗という


 ほかにも、昔の地図当てゲームや、神獣を養う育成型ゲーム、地域毎の美食配置図など、来場者が古代中国の世界を楽しめるコンテンツが満載でした。

古代地図のパズル合わせ
可愛い神獣の育成
古代瑠璃塔の構造説明


 場内で行列が途切れないほど最も人気だったのが、無料のVR体験でした。二人で同時に体験できる仕組みでしたが、一回の体験に数分ほどかかるようで、順番待ちの方々が多かったです。

子どもを体験させるために並ぶ大人たち

 素晴らしいデジタルでしたが、デジタル故のトラブルも見かけました。システムのエラーなのか、画面がうまく動かないような展示が何点かありました。(展示にこういった不具合を見かけるのも、中国博物館のあるあるだったりします)

映らなくなったモニターを再起動するスタッフ
VR体験設備の故障も発生

 最後に、ミュージアムショップでは二種類の塗り絵が置かれていました。昔の兵士の服装に自由に色を塗り、スキャナー画像で読み取って、その人物を絵の中で再現させることができます。大人も子供も楽しく体験していました。

勇士たちが絵の中で歩いたり、走ったりします
筆者が色塗りした勇士
決めポーズが何種類かあり、立体的に再現されていました


 中国の博物館のデジタル展示、いかがだったでしょうか。資料が陳列されているのではなく、全体を通して体験型のテーマパークのような展示で、デジタルな手法は、日本の展示の参考にもなると感じました。文献をこのように魅せることができるのか、と興味深く楽しみながら『山海経』の世界を鑑賞できました。


 この「山海経」デジタル展は中国のサイトでも多く取り上げられていました。南京市以外の都市で巡回されたときの紹介記事はこちら:


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南京市芸術文化センター 外観

「尋迹之山海経」光影芸術展 in 南京市文化芸術センター

・チケット料金:99元~/人

・展示期間:2024年7月15日~2024年10月15日

・展示場所:南京市文化芸術センター2階展示ホール(玄武区長江路101号)