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343.もはや新しい時代には、プロはいらない。ましてや専門化もいらない。新しい時代は素人というプロが制する時代。

1.これ以上の失敗は許されない。しかし希望をもつ誰も知らない「通勤快足」物語


「通勤快足」といえば大ヒット商品。
ネーミングの素晴らしさもさることながら、世の中の男性陣の悩みを一挙に解決。特に夏場の靴下の中はまさにサウナ状態、言葉にならない。
サラリーマンにとって座敷きでの大切な商談や、一般の家庭におじゃまする時に思わずあせってしまう重大な問題。

㈱レナウンの「通勤快足」は、そんなサラリーマンの救世主として誕生。

1981年。レナウンは抗菌防臭靴下の第一号「フレッシュライフ」を発売。この靴下の特徴は、抗菌効果を持続させることができる。
これは、帝人㈱係の医薬品メーカー帝三製薬㈱が開発した薬品を繊維に浸し、糸の芯まで染み込ませ、それを靴下の足底部分に編み込むという画期的なもの。

今までの抗菌防臭靴下は、完成した靴下自体を薬品に浸けたものが一般的だった。でも洗濯を重ねると薬品が水と一緒に流れ落ちてしまい効果が持続しないという難点があった。

発売後の反響を抜いた、初年度の売上はなんと2億円を突破。
これで爆発的なヒット商品として誰もが後世にその名を刻むかと思われていた。が、ブームは一時的、一過性商品特有の下降線をたどり、1983年には売上は半分以下に落ち込み、急降下。
さらに1986年にはさらに9000万円以下にダウンした。

ビームス ジャパン、レナウンとのコラボレーションによる高機能ソックスを発売

当然このままでは商品撤退の決断をせざる得ない状況下となる。
しかし、具体的な打開策も生まれない。
㈱レナウン開発部、営業部、役員等の話し合いは続く、それはなぜかという原因究明・・・・・・・・。

「研究に研究をあれだけ重ね、市場調査も充分にし、サラリーマンのニーズにも充分答えてきている商品のはず、欠点は見当たらない。」とある幹部は嘆く。

「これだけ素晴らしいアイデアで売れなくなる訳がない。」

「どうしてだろう・・・・・。」

このような問題点に、コンサルタントやさまざまな人達に意見を求めるが原因がまったくつかめない。

「あとは何の努力をすればいいのか・・・・・。」

そんな時、ある社員の個人的悩みが会社を救うこととなるとは誰が考えられただろうか。

「夏場になると水虫がひどくて薬を塗らないと痛みが止まらなくて困っている。そんな時、社内の売店で『フレッシュライフ』を買って履いてみたら、その夏は水虫に悩まされなかったよ。」

この人は当時、広報宣伝部課長の前成三さん、社内で遅まきながらフレッシュライフの存在を知り、実際に試し、「これはすごい靴下だ」と思っていた。当然、友人や知人にも率先して薦めていたが、意外と愛用者も多いことに気づいた。

しかし売上は下降をたどる一方。
商品撤退の決断も迫られていた。

なぜ売れないのか。

疑問の解明に前さんも頭を悩ませる日々が続いた。そしてある問題点が浮かび上がってきた。

「それは自分と同じ水虫で悩んでいる一般顧客に愛用されないのは、商品のどこかに欠陥があるに違いないと考えた」という。

その問題点は二つ。
ひとつは、抗菌防臭商品が市場で市民権を得ていないため、売り場の隅に追いやられがちであることと、もうひとつは、ネーミングにあると考えたのだ。

この二つの問題点を社内会議に提案。
しかし、靴下という地味な商品という会社の体質と、これ以上宣伝にお金をかけて無駄に終ってしまったらどうするのか、それでも売れなかったらどうするのかという当り前の意見に囲まれてしまった。

しかし、前さんの意志は堅かった。
その理由は、自分自身が体験し、水虫の悩みを解決したという自信、商品に絶対の自信をもっていたからだ。

早速、社長に直接談判。
この情熱が通じたのか、社長からのOKを取った。
そこでなぜ簡単にOKが出たのかと疑問を抱く人も多いだろう。

しかしそれにはちゃんとした理由があった。
社長自身が、前さんと同じ悩みを持つ同志だったからだ。
つまり社長自身が、このフレッシュライフの愛用者だったことが幸いした理由だった。

そこで前さんの出番。
まずはネーミングの変更から始まった。
社内のコピーライター、制作のスタッフを集め総動員して、思いついた名前を列挙してもらうことにした。

「清潔太郎」「あしクリン」「におワン」等々と百種類以上の案が上がる。1人点考えれば、人で百点以上は可能。その中にひときわ輝いて見えたネーミングが「通勤」と「快速」。

「一度聞いたら忘れられないインパクト。通勤快速と異色融合、サラリーマンの〆—児にピッタリだと思い決定したんですよ」とコメント。

そして次は市民権を得ることだ。
百貨店やスーパーに営業に出向き、テレビコマーシャルをするということを前提理由に、今まで売り場の隅にあった商品を日の当たる場所へ移動することを懇願した。

そしてコマーシャルが流れる。
通勤電車の車内に向かって、先輩サラリーマンが、こんなことをいう、「通勤快速で通っていることが恥ずかしいことじゃあないんだ」と連呼し、新人サラリーマンを励ますという不可思議なコマーシャルが登場。

レナウン 通勤快足

1987年にテレビ放映開始の背水の陣。

コマーシャルの宣伝効果のインパクトは強い、百貨店には長蛇の列ができ、それをまたテレビで紹介されるといった具合。

しかし、これには裏話もある。
宣伝だけでは限界もあると前さんは考えていた。
つまり、たくさんのサクラを雇ったのである。
「テレビでやってる通勤快足はありませんか」という問い合せをバイヤー達に一斉攻撃を仕掛けるのである。

するとその反響がすごいと錯覚したバイヤー達は、一斉に在庫の量を増やし、販売に力を入れる。実際に顧客も足を運ぶので品切れ状態のないまま売り上げに結びつくといった具合。

この努力と相乗効果もあって、1988年の売上げは8億円を突破し、ピーク時には億円に達する見事な復活劇を成功させた。
現在も当然、この不況化の中でも安定している商品となる。


一度ダメになった商品、一度低迷しかけた商品に、新たな可能性を委ねることはとても難しい。

どんなに素晴らしく、いい商品であっても、宣伝の仕方や問題意識のとらえ方を間違っているとヒット商品は誕生しない。

「通勤快足」の場合、個人的な悩みと重なり、問題意識は強かったことと、自分だけではなく、みんなも悩んでいるとの着眼と情熱。
この貧欲な姿勢がこの戦略を生んだ。つまり、後がない、これ以上の失敗は許されない。しかし希望をもつ。それが市民権を獲得した。

現実はとても地道な努力の積み重ねしかない。
人間がいて、資金があり、いい発想だけでは、ヒットし用品は生まれない。

新しい発見やアイデアはこうして生まれ、育ち、成人を迎える。アイデアや発想の共通点はすべて、固定観念を必要としていない。
むしろさまざまな体験から生まれる、わずかな言葉によって発想のスイッチが押される。

その発想のスイッチは誰もがもっている。が、固定観念で縛られ、意識することを忘れたものにはそのスイッチさえ気づかない。

そのスイッチは、小さなこども達の言葉(体験)であったり、ある時何気なく耳にする女性の会話(体験)であったり、友達の助言(体験)であったりする。それらはすべて顧客や消費者(素人)の言葉(体験)から生まれている。

だからわたし達はプロと呼ばれたり、プロになってはならない。

プロになれば、プロになるほど、いつのまにか、知らず知らずに固定観念のカタマリになってしまう。
そのカタマリになると人の意見を聞く耳をもてなくなってしまうか、その意見すら意味のわからないまま終ってしまう。

もはや新しい時代には、プロはいらない。
ましてや専門化もいらない。
新しい時代は素人というプロが制する時代。

なぜならば、わたし達は、プロを相手にするのではなく、一般の消費者、一般の顧客を相手にするからだ。つまり、相手の心や、気持、痛みや喜びを共感することのできるビジネスが本来の知的財産権だからだ。

CM レナウン 通勤快足

ネーミングって、大切だね~



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