テンペスト魔女をやったらFDもやりなさい感想
重厚なシナリオが好評を博しているダークファンタジーADV『even if TEMPEST 宵闇にかく語りき魔女』とその後日談にあたるファンディスク『even if TEMPEST 連なるときの暁』をGWでスピードクリアした。
全く熱が収まらず気が狂いそうなのでここに上記2作品のネタバレ無し&有りの感想を残したい。
なぜ二者を残すのかといえば、『even if TEMPEST 宵闇にかく語りき魔女(以降、テン魔女本編)』でかなり優等生なゲームだが人狼ゲー(もしくは推理ゲー)で面白い作品はもっとあるし……とかいう感想を抱いた驕り高ぶった私馬鹿ボケカスゲーマーを乙女ゲーム純愛パンチで正気にさせたのが『even if TEMPEST 連なるときの暁(以降、テン魔女FD)』だからである。
この記事はテン魔女本編はやったがイマイチ肌にあわなかったという過去の私へ向けて、その不満はFDですべて解消されるし、緑色の古川慎に意味がわからないほど萌えていますという論旨の元に書いています。
(5/12 修正と加筆・VFB感想を追記しました)
(6/3 再修正をしました)
【ネタバレ無】本編『even if TEMPEST 宵闇にかく語りき魔女』
簡単な概要
あらすじ
継母から虐待を受け使用人からも無視される。生きる価値を見いだせないような毎日だが、ある日王子様が迎えに来た。しかしそれは新たな地獄が始まる合図でしかなかった。
主人公は"魔女裁判"にかけられ火炙りで処刑される。その絶望を胸に"死に戻り"をして復讐を果たそうとするのだが……。
プレイ時間:16時間ほど
シナリオの面白さ:人狼系ADVを未体験の方にはおすすめ
シナリオの糖度:ceroB程度(ほどほど、キスはあり)
システムの快適さ:次の選択肢までスキップの機能があれば完璧
おすすめ攻略順:どちらでも良いかと思いますが、しいて言うならばクライオス(STRENGTH)だと世界観に馴染みやすいかも?
簡単なレビュー
シナリオの良い乙女ゲームでは必ず名を連ねるであろう本作。
私には既存作品との差別化が甘かった点がひっかかったが、それは他社作品を研究し堅実に作り上げたとも表現できる。人狼✕ループや探偵✕ループという特殊なジャンルを乙女ゲームに馴染ませたという点は評価すべきとも思う。
やはり上記ジャンルをプレイしたことのない方にはネタバレを踏まずにご購入いただき、ジェットコースターのような物語に翻弄され、号泣し、胃を痛めてほしい。
いやらしい文句をネチネチと書き連ねているが、本作のライターである潮文音先生の筆力は本物。緻密に設定を組み上げたダークファンタジーを舞台に登場人物たちが運命に立ち向かう様を手に汗握って見守りました。面白かったです。
不満点としては前述した既存作品との差別化と、恋愛色が強くはない点。十分な理由や物語は与えられているのだが読了時に乙女ゲームでなくてもよかったのではと思ってしまったのも事実。←まあこれほんとファンディスクをやれば手のひらを返す要素です、テンペスト魔女は最高の乙女ゲームです。あなたの乙女ゲーム人生を豊かにする。やるべき。
ゲーム開始から1時間程度で主人公が火炙りにされて物語の歯車がまわりはじめるため、多少の流血・監禁・殺人描写は大丈夫だが一方的に主人公がいじめられる"嫌われ"は苦手なんだよね……という繊細な人も安心してプレイしてほしい。
テン魔女を未プレイかつ多少なりとも興味のある方。よりゲーム体験を楽しいものにするためにネタバレの閲覧は推奨しません。アクスタ4枚分の価格(半額セールだとなんとアクスタ2枚分!)ですので購入をご検討ください。
【ネタバレ無】FD『even if TEMPEST 連なるときの暁』
簡単な概略
あらすじ
"死"を繰り返し最善の結末を目指した少女が"生"を選び、愛する人と過ごす喜びに満ちた日々。心の傷が癒えることはないけれど、貴方と、私と一緒ならこれからも幸せになれるよ!それに幸せじゃなくたっていいよ!な後日談。
プレイ時間:16時間ほど
シナリオの面白さ:前作で残された謎やキャラたちの境遇が回収されていく爽快感あり
シナリオの糖度:チュッチュチュッチュしています(かなり甘い)
システムの快適さ:次の選択肢までスキップの機能があれば完璧
簡単なレビュー
"テンペスト魔女"の解像度を上げ、唯一無二の作品に昇華させた本作。
後日談FDなんてイチャコラする出汁として事件が起きるものという偏見が私の中であるが、本作は違う。前作をやってもや……っとした要素に向き合ってくれる。
前作の最後に開放されるイシュシナリオをやり、昔のゲームでよくあった作者代理のキャラクターが本編で描ききれなかった設定を解説してくれるやつ!と無邪気に喜びつつ物足りなさを感じていた人こそやってほしい。
それへの意趣返しといわんばかりに、各攻略キャラクターたちの物語で”死に戻り”で失われてしまったものへそれぞれ向き合う。
魔女とのゲームに打ち勝ち、クライオス(や他のキャラ)と結ばれたがそれはハッピーエンドなのか?今主人公へ愛を囁いている彼は救いたかったティレル(やクライオス)ではない。謝りたい人はこのルーシェン(や他のキャラ)ではない。
それでも日常は続いていく。凄惨な事件の後にも、天変地異のような災害のあとにも、愛する人との日々を重ねていく。
その中で向き合わなくてはならないものに直面し、二人の絆を深めていき、ようやく”死に戻り"後の"彼ら"と対話できるようになるのがFDなのだ。
血の通った、人肌のぬくもりを覚えるような、熱い吐息の湿度を感じ取れるような、ああ、やっぱり彼って素敵だ。恋しちゃうな。
本FDを通してキャラクターを物語の機構としてではなく、一人の人間として受け止めることができるようになる。まさしく乙女ゲームに必要なもの。テン魔女は乙女ゲーム。
とはいえ、ヒストリカの建国物語や衝撃の舞台設定が語られますし、厨二心くすぐられるのも事実。本編では語られなかったキャラたちの細やかな設定も出てきますし、いかに一作目が洗練されたものだったのかと驚くばかりです。
『even if TEMPEST 宵闇にかく語りき魔女』が好きだった方には必ずやってほしいFDですし、私のようにあまり……という方も新作乙女ゲームを買う気概でFDに触れていただけると良い余暇になるかと思います。ルーシェン殿下のFDシナリオを本編に入れないのは世界の損失すぎ。
以下は完全にネタバレしていくので、本編をやられていない方はモチベーションを削がれるかもしれません。ゲーム体験としては間違いなく上位に入る作品ですので、攻略サイトなども最初は見ずに進めると楽しいですし思い出に残るものになると思いますよ!
【ネタバレ有】本編『even if TEMPEST 宵闇にかく語りき魔女』
シナリオ面
ネタバレ無しレビューで書いたことに尽きるのですが、入門には良いかもという印象でした。人狼ものシナリオの定番を踏襲しており、ゼン√の展開もルーシェン√もいつものやつきましたわね状態だった。それだけ世の中にはループもの・探偵ものの傑作が溢れており、人狼もやりつくされてTRPGシナリオが山ほどある。前例が多すぎるなんて作品を生み出しにくい嫌な世の中です。
しかしながらとても丁寧に緻密に本作は作られています、初めて人狼や探偵もの・ループものに触れた方には相当な衝撃を与えるのではないでしょうか。良作シナリオに挙げられることに納得のいく作品です。
だからこそ乙女ゲームの特色(濃密な人間関係を描ける)を活かし突き抜けた作品にすべきだったということが不満でした。でもFDで完全解消されたのでOKです(?)
この世の不幸は、テン魔女本編とFDが分かれて発売されていること。本編で満足した人も間を置かずにFDに触れれば更に”テン魔女”を楽しめただろうにと思います。
キャラクター面
本編の感想すらFDと紐づけて書いてしまいそうなので、短めに。
・クライオス
ゼン√冒頭の酒屋でクライオスとティレルに再開するシーンなど、アナスタシアに抱きつかれた団長(副団長)は「そうかそうか。よほど怖い夢だったんだな。落ち着くまで胸を貸すから、無理するな」とニコニコなのである、なんなんだ。世の中には親愛と情愛の境界がゆるい人と、はっきりと断絶している人に分かれるわけだが、彼は前者なのだ。良い悪いではなく、彼にとってアナスタシアの真っ直ぐな瞳はそれほどに生きざまに深く刻まれているんだろうと思わせる。アナスタシアの騎士道をクライオスが導いたように、クライオスもアナスタシアに騎士道を支えられていた。相思相愛ってこと……?マブすぎんか。この二人のことを一生書き綴れそう、中断します。
・ティレル
歴代一優秀な異端審問官であるティレル様のこと嫌いなやついる?いねぇよな、わはは。頭脳明晰すぎて己のことを完全把握している彼を象徴するティレルEDの「確かに貴女が抱いているほどの強い想いは、まだ俺の中にはありません。しかし、自分の心がどう転ぶかということは、国の未来よりも簡単に見通せる」がよすぎる。FD後だとしみじみとする。あまりに完璧すぎる彼に神はちょっと性格に難があるという設定を付け加えた。
この流れ爆笑しました。
話の毛色が変わるがティレル√1回目裁判でサミーを糾弾するシーンで10分程悩んで部屋をウロウロした。たとえフィクションであっても子どもを自発的にそうする選択はしたくないし、その上海外だと少年兵へのキル描写で問題になりゲーム発売が延期になるほどなので、R18要素すぎます。しかも裁判には影響を及ぼさない選択肢らしく、ちょっと悲しいね。
・ゼン
いい男すぎる。ゼンが隣にいないメンブルム側勝利をアナスタシアは達成できないだろう。やはり1回目裁判で心折れそうなアナスタシアに「オレが保証する。……お前は大丈夫だ」「……もう一度、言って。大丈夫だって」「大丈夫だ」「もう一度……」「お前は大丈夫だ……アナスタシア」と慰めたシーン、良い。同系列のシーンでティレルの「俺たちは最善を尽くした。だからって全てを救えるわけじゃない」もクライオスの「何も言わなくていい。……今はただ、思う存分泣けばいい」も最高なのですが、アナスタシアが彼に甘えて強請ってセリフを引き出したところが良い。ゼンの抱える諸問題はFDで驚きの顛末を迎えるためゼンが好きな人にこそFDやってほしい。またクライオス・ティレルに挟まれるゼン(かわいそう)と更にかき乱すルーシェン殿下が面白すぎなのでテン魔女はドラマCDなど発売してくださいませんか。
・ルーシェン
殿下√での大喧嘩にルーシェンやアナスタシアの成長を垣間見れてよかった。ふたりとも一周目ならば喧嘩にならなかったので。SADENDの「彼女を好きになったのは僕が最初だったのになぜ他の男に奪われなきゃいけないんだ?」からの「(……良かった。気持ちを伝える前で。)」には震えた。殿下があまりに奥手すぎる。ルーシェンはFDシナリオをやってこそ、むしろFDシナリオが本編に付属してこその筆頭なので、ルーシェンが好きな人・あまり好きになれなかった人両者にプレイしてほしい。
【ネタバレ有】FD『even if TEMPEST 連なるときの暁』
シナリオ面
不満点が解消された以上の面白さがありました。このゲームに出会えてよかったです。万物に感謝、ありがとうございます、大地、空気、地球、ボルテージ。
全肯定bot状態なのでシナリオ?全部神だが?以上の感想がかけない。どうする?とりあえずクライオスとティレルによる家への誘い方別画像稚魚でもネットの海に放流しますか……。
前作のわりとあっさりとしたエンディングに虚をつかれたこともあり、本FDの濃厚さには恐れをなして萌えさせていただきました。
主人公は無鉄砲ながら善良な人間なので本編での地獄のような狂乱の中、心は癒えることのない傷を負っていて、強い罪の意識を抱いている。また魔女を打ち負かしたおとぎ話のハッピーエンドの続きを彼女は生きていかなくてはならない。
冒頭こそ攻略キャラたちも浮かれているのでもういちゃいちゃしているわけですが、”死に戻り”で失われたものの大きさに囚われる主人公のために、苦悩する。乙女ゲームは攻略対象と主人公が互いを大切にしあっている信頼関係が見て取れるような作品が好きで、本作もまさにそうだと思います。命をかけるだけが相手を愛する方法でなく、悲しんでいるときに胸を貸し、時に涙の理由を問わないことも愛なんだ。
また各√独立して展開していくため飽きなかった。また謎という謎、気になっていた設定、どしどしどし明かされていったので夢中になってプレイしました。
キャラクター面
クライオス・キャソロック
フェロモンお兄さん系古川慎キャラ。このゲームは声優とキャラのマッチング度が高すぎるあまり立ち絵から声がする。さすがは世の女性の口座残高を減らしてきたボルテージである。
「確かに恋はしていなかった。それでも愛ではあったと思うよ。お前はずっと、俺にとって大切な存在だった」と述べ、騎士団の戸を叩いた当時8歳のアナスタシアの教育係になり揺れる十代だった自分にとって真っ直ぐに慕う彼女は安定剤だったのだと話す。またマヤSSでティレルは「アイツの振る舞いは、やっぱお前の影響なんだよな?……あー胸糞悪い」等、マヤは「もっともお嬢様に影響を与えた……私の大事なお嬢様を、騎士に変えてしまった人だから」彼が嫌いだと語り、アナスタシアの男性顔負けのイケメン仕草を仕込んだのはクライオスという、決定的事実が、存在する。気が狂いそう。
アナスタシアは無邪気に彼を慕っているわけだが、当のクライオスといえばFDルーシェン√で「そういえば、装飾品に興味がないのにピアスをつけてるんだな。よく似合っているが、つけ始めたときは意外に思ったのを覚えてる」とファーストピアスマウントをし、FDティレル√で「それはよくないな。俺はお前の髪が好きなんだ」と自分√で語った長い髪を切らせてしまったとき暫く本気で落ち込んだことを思い返させるようなセリフをいい、FDゼン√では幼女アナスタシアにめろめろ、4股√(?)ではアナスタシアの描いた魔法陣を「見ているだけで癒やされる。愛おしさがこみ上げるよ。執務室に飾りたい」と紙を懐にしまい、なんかやりたい放題なのである。メンブルムだった時よりもFD他√の方が欲に忠実なのである。
メンブルム時については「だからお前を愛したんだろうな。歯止めが効かなかったんなら、そういう展開になるのは自然か」と語る。しかし実際は「自分のことを、一番に考えるんだぞ」「お前は……背負いすぎるところがあるから、心配だ」と愛の言葉をささやくよりもアナスタシアの行く末を最期まで案じ、FDゼン√で判明する当時ゼンへ語ったことは「でももうダメだな。アイツが、可愛くて仕方ない。蓋をし続けるには、大きくなりすぎた」「ただ、もし『魔女の道化―メンブルム―』になることがなく、この病も治すことができたら」「その時はアイツに、想いを伝えてもいいんだろうか」と切実な想いを吐露している。
クライオスは我欲が薄いところもあり、それは遺伝性の病のせいでもあるが、結局のところアナスタシアを優先する。ゼン√でメンブルム側勝利を掲げクライオスの処刑が決まった時、彼は「生きたいと願う者が生き残る。信念のある者がこの先に進むべきだろう」と受け入れる。
その際の独白である『私を愛してくれた貴方はいない。貴方が愛してくれた私はいない。』がFDシナリオ途中に突然ぶっこまれた時、脳汁が、出ました。印象に残っていた文章だった上、クライオス√の方向性が突然露わになり心底驚いた。
アナスタシアは自分を大切に育ててくれたマヤやクライオスに大変恩義を感じている。そんな二人を作為的に処刑したことを悔いて、悔いて、苦しんでいる。一度はそのこともあり歩みを止めたがルーシェンや仲間たちと共に魔女へ打ち勝つことができた。
クライオスと過ごす穏やかな日常の中で、犯してしまった"罪"と向き合った時、彼を失うことへの恐怖を思い出す。
クライオスもアナスタシアが急に従順に、自分のすることをなんでも受け入れてしまうようになり、それは何らかの"罪悪感"に起因するものではないかと不安になる。
……というシリアスな問題が二人の深層心理上で発生しているのに対し、表で行われているのは、"アナスタシアがキスを嫌がった…"と"団長がキスをしてくれなくなった…"なの、この二人って一体なんなんだ!??!?!?お似合いすぎか……?
気が狂いそう。キスを解禁した途端にクライオスが名前呼びを強請ったことも、すごい。名前を呼ぼうと「ク、ク、クラ……」と初々しくどもったアナスタシアの唇を熱いKISSでふさいでコマンドキャンセルしたくだり、あまりに好きすぎる。
クライオスは前作のエンディングにて「なぁ、アナスタシア。俺にもっと聞かせてくれ。俺とお前の間に起きたことを」と語り、FD作中でも「『死に戻り』の記憶がなくても、話を聞けばお前のことをもっと好きになる……前にそう言ったが、やっぱりその通りになったな」「お前のことが愛しくてしょうがない。どうにかなりそうだ」と彼女とその過去を肯定する。
しかしどうやらアナスタシアにとって語る言葉すら負担であるのだと察し、それを相談したゼンから「アイツが何を見て、何に傷つき、何を失って生きたか。全部知りたいんだろう」「クライオス、お前まで『死に戻り』の闇に引きずり込まれてどうする?」と叱責され、彼は諦めるのだ。
彼女を想い、過去を辿ることをやめたクライオスは「そもそもの話、俺だってお前に見せていない部分がまだたくさんあるよ」と伝える。
彼女を想えば知りたくてたまらないその"未可視部分"すら諦めようと思う、これって愛だよ。彼は独占欲の塊だから悲恋EDではアナスタシアの全てを欲しがった。それもあってこの結論は好きです。
まあこの後に「俺が、覆しようのない過去の色事を許せない狭量な男だと……」「お前が理解しているということは、たまらなく興奮するな」という性癖宣言があります。愛しいですね。
FDクライオス√の全く本筋ではない枝葉萌え語りですら2200字も書いてしまい、怖い。ここまでにします。
ティレル・I・レスター
頭のキレる毒舌家で掴みどころのない飄々とした態度をとる系杉山紀彰。最高すぎる。
本編ティレル√で「……俺が誘ったら、お前はついてきてくれるか?」と語りその後彼は……なのですが、FDでは「俺はお前と、この国で生きていきたい」「この花たちみたいに根を張って、日なたで生きたいたい」とアナスタシアへ決意を語る。この心境の変化のためにFDはあったのだなとすら思う。
ティレル様の面白さは独自の言語センスにもあり、そこそこシリアスなシーンで「なのに、一生を捧げる相手が、主で、恋人でって……一挙両得意外の何者でもねえ」「一挙両得……」「俺が何よりも好きな言葉だ、許せ」とのたまうわけ。
またクライオスやゼン達との小気味よいセリフの応酬も楽しくてこの作品の魅力を底上げしている。ドラマCD制作をご検討ください(T_T)
国庫開けてこいのシーン、"死に戻り"前のティレルも同じことを話した!とアナスタシアが喜ぶと、「そりゃ同じ人間なんだから、言うこともかぶるだろ」「他のやつはどうか知らねぇが、俺はまったく気にならない。むしろ面白いと思っている」と楽しそうである。反省気味のクライオスとは対照的である。ちなみに私の好きな杉山さんのキャラソンは「黄金の光」です。
ティレル様って面白くてかっこよくてなんでもできてしまって、でもちょっと脆い。「私はティレル様が大好きですよ。嫌いになんて絶対になりません」「確かに私は貴方の気高さと強さに憧れ、お慕いするようになりましたが」「貴方の弱さも醜さもまるごと愛したいと思ってる」とアナスタシアは伝える。それに「……お前のことが欲しくなった」と答えるティレル良い、これ照れ隠しではなくて、”抱く”の発露であるところがいい。
この二人の精神的支え合いはルーシェンとアナスタシアとの関係にも似て、しかし成長途中のため諍うこともある彼らに比べ、より互いを傷つけない優しいものである。それをティレルは「なーんかよぅ、俺たちってどこまでも似てるよなぁ。傷の舐め合いなんて不毛なこと、したくなかったんだが」「けど、案外悪くない気もしてきた。休みの日とかやることないときにピッタリじゃね?肌がふやけるまで舐め合おうぜ」と茶化したりもする。
ティレル視点の花言葉ストーリー(?)での『詮索してこないし、否定もしてこない。一緒にいて不快にならない、心地よささえある。人間として信頼できる、歩調が合う』という文章、とてもいい。特に"歩調が合う"がすごくいい。相性の良いカップルってコレなんだろう。
ティレル様は尊大すぎる態度とは対象的に不憫な境遇が染み付いていて、子どもをあやす才能がありながらも「どれだけ愛しても愛されても、一番に考えてやれないんだぜ?間違って子供でもできたら……」という悲しいことも言う。『完璧に見えた鎧の中にいたのは、赤子のように無垢で繊細な人。そんなこの人のことを、私は愛しく思う』なのでアナスタシアにちゃんと愛してもらい、幸せになってください。
ゼン・ソルフィールド
大柄で褐色肌の少しぶっきらぼうなイケメンを想像したときに脳内で響く声帯であろう武内駿輔さんが担当されている。このゲームのキャスティングはとんでもない。
ゼンとアナスタシアの出会いを"運命的"だとルーンは表現したが、作為的なものであったと詳細がFDでは語られる……正直、とてもワクワクして読んだ。
そもそもテン魔女においてゼンの存在は必須である。彼からの支えがなければアナスタシアはイシュに屈しただろう。彼のなんだかんだ人に手を貸してしまう人柄を「君の最大の長所は、その柔軟性だ。己の価値観に固執せず、他者を尊ぶ」とお父さまは表現した。それはクライオスやティレルと友人になれた特性でもあり、マヤからはその姿勢から「貴方は善行の方が多いようですね」「そういう人なら……私の大切なお嬢様を任せられる」と評価した。
本編√ではアナスタシアが大量虐殺を引き起こしたと警戒し距離を取るも、メンブルムとしての役割に耐えきれない様子の彼女に絆され、傍にいることを選ぶ。あまりにお人好しすぎる……。
本編√のゼンはなにがあっても寄り添ってくれる。「お前は無理をし続けたいんだな。自分の心を、身体を、命さえ投げ出していいって……本気で思ってたんだな」「その思考、狂ってるし、病んでるよ。人身御供かって。前時代過ぎて鼻水出るわ」「……けどそれがお前なら付き合ってやる」なんてもう究極すぎ、この根底に流れているのは愛です、愛。
悲恋EDでは「オレがほかのヤツらの分までお前を愛してやる」「お前を守るのは、幸せにするのは……オレの役目だ」と語るのですが、FDによってゼンはクライオスとティレルからそれぞれの恋愛相談を受けていたことが判明するのでさらに味わい深くなりました。花言葉SS(?)にて『皆のアナスタシアから、オレだけのアナスタシアに。そんな幼稚な我が侭』という独白があることからも、友人たちがアナスタシアに惚れていた頃を知っている罪悪感から中々抜け出せない。優しすぎるよ、ゼン。
前述の二人からは(クライオスなんて恐ろしく嫉妬深いのに・ティレルは嫉妬という感情を持たないと思っていたがどうやらあるらしいと語るが)意外と嫉妬の言葉は出ないのだが、ゼンはバチバチに意識している。「でもオレほど、お前を知っている人間はいない」「お前の悲鳴も、泣き顔も、流れる血の匂いも、全部覚えてる。お前を殺してやれるくらい愛しているのは、オレだけだ」とんでもない口説き文句をアナスタシアに伝える。
FDのゼンは基本野獣である。糖度だけで言えば一番高いのでは?クライオス団長も糖度高め勢ではあるが、キスの指南を「俺がいつもしているのと同じ動きをすればいい。ほら」と実践させてみせるプレイをするし、ゼンは4股√(?)で「水着が嫌いな男はいねぇよ」と言うオープンすけべなので種類の違うものである。いろんなすけべがある。
花言葉SSでの独白で『一緒に地獄に行くことはできる』『(でもオレは、お前を引っ張り上げることはできない。……できなかった)』とあり、FDクライオス√では「クライオス、お前まで『死に戻り』の闇に引きずり込まれてどうする?」「そっから引っ張り上げることが、お前の役目だろうが」と叱咤するんだけど、ゼンにとって”引っ張り上げる”ことが主眼であることがわかる。そして彼はアナスタシアの心を完全に癒やすことができないことを悔い、それは澱となって思考の底へ張り付いている。アナスタシアはずっと傍にいてあげてください。
ルーシェン・ノイシュバーン
ルーシェン殿下は絵に描いたような王子様の風貌であらせられ、本編冒頭にアナスタシアを迎えに来てくれたところなどは好印象すぎます。まあ、そのしばらく後にアナスタシアに言い負かされ男泣きしてドン引きされるイベントがあるので面白い。
アナスタシアから手紙を貰った以降のルーシェンはいつでも彼女の助けになれるようにと気高く強い王子たらんと努力する。そこをゼンと彼女に疑われているのもループものの妙で面白いですね。本編ルーシェン√でクライオスにアナスタシアと鷹揚さが似ていることを指摘され「……似ているところがあって当然だ。幼い頃から私は、彼女ならどう動くだろうと考えて過ごしてきたのだから」「(本当の僕はもっと臆病で、卑怯で……どうしようもないやつだ。彼女の真似をして、強くなったフリをしているだけ)」と答える。たった一時だけ出会った女の子のために、たった一通の手紙で励ましてくれただけなのに、ここまで頑張れるルーシェン殿下一途すぎ。
ルーシェンとアナスタシアは年齢が同じこともあって小競り合いをするのもいい。いつまでもウジウジと引きこもるアナスタシアに「バカ!」「貴女に心というものはないのか!」と大喧嘩をし、『ゼン、クライオス団長、ティレル様。彼らは私が泣けば三者三様の言葉で慰めてくれて、間違えば正してくれた。私は私で彼らに後れをとるまいと、幼さを封じ込めてきた』『同い年だから、先ほどのようにお互い手加減する必要なく、ぶつかることができたのかもしれない』とアナスタシアは振り返る。彼女を年相応の女の子にしてくれるのはお姫様扱いしてくれる年上の男性ではなくいつも頑張っている同い年の男の子という事実、萌え。
FD√では「『死に戻り』中、それで何度もゼンには怒られて……」「考え無しに行動するな、動く前にまず相談しろと。ティレル様からは馬鹿とかウスノロとか……」とアナスタシアがしおしおになって話す出来事を、ルーシェンは爆笑で返し、『私は抗議の意を込めて彼の身体を叩いた。』りされ、他三人の前では見られない18歳の二人の姿に萌え萌えである。
FDでルーシェンの掘り下げ、というかもはや本編にすべきほど彼の魅力を活き活きと描いていてよかった。FDルーシェン√をテン魔女ユーザーの必履修科目にできませんか。
このゲームの良いところは、本編やFDを問わず、一見肩透かしで終わったような行動もゆくゆくは解決への糸口となること。FDルーシェン√でリンゼル家へアナスタシアが赴くもルーシェンへの支持を取り付けられなかったが、その際に揉めたオーラから後日支持を表明されたこと。宝石のアイディアをコンラッドに横取りされたが、ルーシェンが唆し(?)C級品をメイルが買い占めていたことにより、幾分か彼側の勝利に貢献したこと。ただの徒労にならないところいい。登場人物たちへの愛を感じる作品である。
とりわけルーシェンを愛するアナスタシアは男前度が増すため「どうかよい夢を……私の可愛い王子様」や「私は殿下の子を育てたいと思いますよ」やら「貴女に似合うと思って、受け取っていただけますか?」と花束を渡し、殿下を"可愛い"と愛で、不機嫌になりつつも喜ぶルーシェンも良い。男気を発揮して残念スイーツであるラナーモを食べて気分が悪くなりアナスタシアに心配されるのもいい。
カップリングにおいて断れないお願い事プレイが好きなのでこのFDで1番興奮したのは「ねぇ、ダメですか……?アナスタシア……って、僕も呼びたいです」「これからいっぱい呼びますね。僕が一番貴女の名前を呼ぶんです」とFDクライオス√名前コマンドキャンセル時の「唇を、ふさがれたら何も言えません」「ごめん。待ちきれなくて(←悪びれもなく、嬉しそうに)」です。
マヤ・カークランド
マヤの献身的な支えがあっての本作だと、しみじみ感じ入ります。
本編ティレル√でメンブルムになり虐殺を引き起こしたマヤを否定するでも肯定するでもなく「お前は愚かじゃないよ」「全部、私のためにやってくれたんだろう?私がふがいないばかりに……すまなかった」「大好きだよ、マヤ」と抱きしめたアナスタシアに、どれだけマヤは救われただろうかと、泣けます。大切な人が味方でいてくれることの心強さはアナスタシアを通して我々は知っているわけで、マヤからその安心や幸福を取り上げなかったことに、本作に流れる深い人間愛に胸打たれます。
マヤの話とはずれるけれど、FDゼン√で本編軸クライオスは「……正しくなければ裁かれる世界で、過ちや弱さを受け入れてくれる友人に出会えただけ、俺の人生は恵まれたものだった」と語るのですが、善悪の可否を超越した、複雑で愛おしい人間関係を描いており好きなんだ。死にゲーというところに焦点を置いて語られるとモヤつく程度にはテン魔女が好きです。
FDゼン√においてマヤは「貴方のことだけじゃない。私の大切なお嬢様を変えてしまう、連れて行ってしまう者は皆……許せない。私にとってお嬢様は、たった1人の家族ですから」と伝えるし、他FD√でもアナスタシアの婿候補達に容赦ない姑仕草をみせる。しかしお嬢様が大切だからこそ、FDティレル√のように「コイツが盾を必要とすることがあれば、俺が盾になる。戦わなければならないなら剣になるし、平穏を求めるなら安寧の場所を作ろう」「一生をかけて幸せにする。だから認めてほしい、コイツの隣にいることを」と誠意を見せれば許してしまう。いやほんと、このティレル様のセリフいいな。
マヤはアナスタシアにとって母であり姉でもある。FDマヤSSでは彼女の母に受けた恩義が語られるが「それはキッカケの1つであって、理由ではありませんね、私たちが家族になれたのは……」「お互い見栄っ張りだからです」なのである。アナスタシアにとって"死に戻り"後の8年間は通過点でもある。しかしながらマヤにとって愛情を育むには十分な時間が流れていて、それこそアナスタシアがメンブルムであることを確信してなお彼女の信念に命を賭すことができるほどに大切に想っている。団長といい、アナスタシアの実直さが人の心を動かしている典型例である。
他キャラ
・コンラッド殿下
殿下SSを4股√後に読み、爆笑した。「君がそうしたいなら構わないが、彼らは嫌がるんじゃないか?自分たちの抜け殻の上で、君が抱かれるというのは……」←すごすぎ、彼らの有り余って溢れる愛シナリオを読み終わって4股後に触れる人が多いであろうSSで、これ以上のバッドエンドはないです。潮文音先生は本当にいい性癖をしています。
コンラッドには悪役の美学がありますが、なんだかんだ本編ゼン√でコンラッドを殺した後の「(なのに何だ、このむなしさは)」がアナスタシアにとっての復讐の全てなのだと思う。
・三馬鹿
初見時はクライオス√ではじめたこともあり、この愉快な三馬鹿とアナスタシアの仲良しである様子に楽しませてもらっていたのだが、その後その後その後その後がしんどくて、私は泣いた。善良な人が善良なままいられる世の中になってほしい。
・エヴェリーナ
本編時点でアナスタシア母との親密な関係を匂わせていましたね。SSすごかった。クライオスとエヴェリーナの違いは、発症した時期もあるでしょうが、彼は姉たちや父の愛を受けて育ち、彼女は結局のところ孤独だった。それだけなんですよね。レシティア、生きていてほしかった。
・イシュ
最初の不気味さが鳴りを潜め、次第に可愛い奴めとなるヒール。クロムやお父さまを知るとイシュがいかに人間が好きで寄り添っていた存在なのかがわかりますね。愛憎って反転しやすい感情だ。
【ネタバレ有】FDをやったらビジュアルファンブックも買いなさい
上記2作品の情報+書き下ろしをたっぷり収録した『even if TEMPEST series 公式ビジュアルファンブック/FROM DUSK TILL DAWN』を購入させていただきました。
とにかく紙面が細かい字でビッチリと埋めつくされているため読了後には本当に208ページだったのかと疑いました。読了に4時間かかりました。狂気本だよ。
以下、どんな情報が記載されているのかわかるようにしつつ軽くネタバレ感想です。
・宵闇メインイラスト?でアナスタシアの隣りにいる怪物の意図ってそうなんだ……
・本ゲームのコンセプトは◯◯だった!?(←乙女ゲーではインディーズを含めても数が少なさそう、ジャンルがずれるけれどマブラヴオルタや素晴らしき日々とかの方向性でみたいです)
・クライオスの苦手なこと(最新)が我慢で笑い、苦手なこと(過去)が……そりゃティレル様も趣味が悪いと指摘します
・テン魔女ってこんなにSSを書いてくださっているんだな……と嬉しくて涙こぼれる。マジ、ありがたいコンテンツです
・好きな収録SS発表ドラゴン『ルーシェン書き下ろし♪宵闇クライオス√淫夢♪宵闇ゼン√ティレル視点♪』
・これまでのビズログ企画物インタビューを収録(←画期的過ぎる、神、こんなにも恵んでいただけていいんでしょうか?KADOKAWAとボルテージの株を買えばいい?)
・潮先生による超詳細な本作解説ページ(←上手く表現できる語彙がない、とにかく超解説である。twitterでFFシリーズのアルティマニア(攻略本)のお話をされていたがまさにそうで乙女ゲーFBでは類をみないほど)
・クライオスがああいう性格でああいう行動をするのかを一言で表現されており感動した。暁で『この人の優しさに裏も表もない。心地よい言葉に、身を任せて良いのだ。』という独白があるんだけれどより沁みました。
・ティレル様の解説ページも理解深まるというか、ティレル様ってほんと……となる
・Q&Aはもとよりこの書籍を読めば読むほど団長って独身貴族すぎて草となります。
・こんなにも充実した書籍を手に入れられるテン魔女ユーザーは幸せ者すぎます。FDまでやった熱心な方は買いましょう。
ここまで読んでくださった方がもしいましたら萌え語りに付き合ってくださりありがとうございました。私の乙女ゲーム人生においてかけがえのない作品になりました。ノルンノネットをやります。