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東郷提督のアメリカ探訪⑤ 〜ワシントンD.C.周辺視察、ニューヨークへ移動〜

 以下は1911年8月8日から8月11日までの東郷提督の訪米時の旅程をまとめたものである。この期間の提督の写真いついては掲載できる資料がほとんど残っていない。
 訪米中の視察については、アメリカ政府による東郷提督への特別な配慮が伺える。海軍工廠や造船所での見学は、本来なら軍事機密に当たるような軍艦や設備等までアメリカは視察を許しており、提督が希望するものは極力見せるという方針で接遇に望んだとされる。
 8月12日以降の予定については、ウエストポイント陸軍士官学校視察、セオドア・ルーズベルト元大統領表敬、ブルックリン海軍工廠視察、ハーバード大学訪問などが予定されている。

1 8月8日

1918年のワシントン海軍工廠(引用:Naval History and Heritage Command

 東郷提督はこの日、ワシントン海軍工廠を訪問し次世代軍艦の試作模型や14インチ砲を視察した。提督は新型軍艦の模型について特に強い関心を示していたという。また連邦議会両院を訪問し、通常外国の賓客には与えられない議場での歓迎を受けた。その後、ウィルソン国務次官補夫妻の自宅で催された昼食会に出席する。

「白い大艦隊」を指揮したスペリー提督(引用:Wikipedia

 午後からは、アーリントン墓地を訪問し、「白い大艦隊(the Great White Fleet)」を指揮して日本を訪問した、チャールズ・S・スペリー提督の墓地に献花している。またメトロポリタン・クラブで行われたウインスロップ海軍次官補主催の夕食会、陸軍・海軍クラブでのレセプションに出席した。

2 8月9日

1950年代のボルチモアの鉄工所全景(引用:Explore Baltimore Heritage

 ボルチモアを訪問し、製鉄所や鋳造所などの見学や、チェサピーク湾でのクルージング、市内の自動車ツアーも行われた。そののち翌日の海軍工廠見学のため、フィラデルフィアに向かい市民から歓迎を受けた。フィラデルフィアでは多くの市民が沿道に詰めかけ、騎馬隊に護衛されてホテルに向かう提督一行の車列を見守った。
 この日、提督は訪米後初めて午後以降の行事に出席せず休息を取った。訪米以降の過密スケジュールにより、周囲も提督の疲労の色を感じたようだ。

3 8月10日

フィラデルフィア市庁舎に掲げられた訪問を歓迎の装飾(引用:The Philly History Blog

 この日はフィラデルフィア市庁舎に市長を表敬後、フィラデルフィア海軍工廠を視察した。ここで、乾ドックに入っていた戦艦「ミネソタ」や「キアサージ」を視察し、海軍大佐A.W.グラント工廠長主催の昼食会に出席した。

1911年、海上公試中の戦艦「ユタ」(引用:Navy History and Heritage Command

 その後一行はデラウウェア川を上り、ニューヨーク造船会社造船所を訪問し、米海軍向けに建造中の戦艦「ユタ」、「アーカンソー」やアルゼンチン政府が発注したリバダビア級戦艦「モレノ(Moreno)」等を視察した。

 デラウウェア川を移動中、東郷提督はアナポリス海軍兵学校に留学していた日本人将校について、彼らが日本海軍で顕著な成果を上げていることを記者団に強調している。

4 8月11日

1910年代、ニューヨークの玄関口「ペン・ステーション」(引用:Wikipedia

 東郷提督は、ペンシルバニア鉄道を利用してフィラデルフィアからニューヨークへ移動し、ホテル・ニッカボッカーに宿泊した。この日、提督はホテル内で終日休息を取ったようである。午後からプライベートでニューヨークの劇場を観覧する予定のようである。

5 東郷提督のアメリカの印象

 東郷提督はペンシルバニア鉄道でニューヨクに移動中、アメリカの印象について記者の質問に以下のように回答している。

・大統領に対する印象: 「理想的 (Ideal)」
・アナポリス海軍兵学校: 「壮大 (Magnificent)」
・議会: 「素晴らしい (Grand)」
・マウント・バーノン: 「美しい (Beautiful)」
・アメリカの戦艦(戦艦「ユタ」): 「優れている (Excellent)」
・新型14インチ砲: 「強力 (Powerful)」
・海軍工廠: 「非常に良い (Very good)」
・アメリカの鉄道: 「快適 (Comfortable)」
・アメリカのホテル: 「最新式 (Up to date)」
・アメリカでの歓迎: 「非常に温かく、感謝している (Very warm, for which I am grateful)」
・アメリカの新聞写真家: 「非常に積極的 (Very enterprising)」
・タフト大統領の明治天皇への言及について
 ・日本への影響: 「非常に良い (Very good)
 ・日米両国の友好関係の強化: 「それ以外ありえない (Cannot be otherwise)」

参考資料
・The New York Times "NAVY PLANS AWE TOGO" August 9, 1911.
・The New York Times "TOGO BEGINS TOUR TO END AT NIAGARA" August 10, 1911.
・The New York Times "TOGO SEES NEW SHIPS" August 11, 1911.
・The New York Times "TOGO BACK TO-DAY" August 12, 1911.
・The New York Times "TAFT IS IDEAL, TOGO TELLS TIMES August 12, 1911.

つづく


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