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県外からの進学希望者が増え、教員の働き方改革にも効果。岩手県教委のnote活用事例
岩手県教育委員会は、初めてすべての県立高校にnote proを一括導入した教育委員会です。
各校の特色ある学びを中学生や地域住民に届けたいと、全県立高校63校(令和4年度当初)のnote proアカウントを開設。各校の記事をまとめる県教育委員会のメディアをnoteで構築しました。
岩手県内の全県立高校がnoteで発信をはじめてから2年以上が経過し、各学校ではさまざまな良い変化が起きています。
教員からは、
学校ホームページ更新の手間が減って担当教員の働き方改革につながった
生徒も教員も学校の良い部分に注目する習慣ができて学校の雰囲気がよくなった
県外から進学を希望する中学生が増えた
といった声もあがっており、学校が実感できる効果がうまれています。
そんな岩手県の取り組みを、学校の情報発信の好事例として参考にする教育委員会も増えています。
このnoteでは岩手県教育委員会 学校教育室 高校改革担当の方に、導入までの経緯や工夫した点、高校側がnote導入をどう思っているのか、その具体的な成果について聞きました。
——前例がない中、note proをすべての県立高校に導入するというのは簡単な意思決定ではなかったと思います。どのような経緯で導入が決まったのでしょうか。
岩手県では高校魅力化の取り組みが進み、各校が特色ある探究学習に取り組んでいます。
その魅力について進学先を検討する中学生や地域の方々に届けたいのですが、十分に伝えきれていないという課題を感じていました。
高校のホームページは各校で異なるレイアウトを採用しているので、県全体としての統一感がありません。一番伝えたい学校の魅力や特色が伝わるページにたどり着くまでに時間がかかったり、導線が複雑になっている場合もあります。
特に課題感をもっていたのは、スマートフォンでの閲覧に最適化していないケースが多いことでした。
今は中学生もスマートフォンで進学先の情報を集めるので、デザイン面の改善は必須だと感じていました。
運用面では、ホームページを更新できるのが特定の教員に限られており、発信の頻度を増やすことに無理があるという課題がありました。
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各学校が独自性を保ちながら発信ができて、でもデザインの統一感はあって、中学生や地域の方々にとって読みやすく、専門性がなくても誰でも簡単に記事をつくることができる。
そんな情報発信の体制を県として整えたいと思ったときに、noteなら実現できるのではないかと考えました。
早速noteさんに相談すると、協定を元に、全県立高校へのnote pro一括導入と県教育委員会のメディア構築を無償で支援していただけることになりました。
県教育委員会と全県立高校の高校魅力化の取り組みの記事を一つのプラットフォームに集めることで、各校が取り組む探究的な学びの様子や最新の情報を、これまで以上に分かりやすく素早く伝えていきたいと考えています。
——記事を書くことになる教職員のみなさんは、職員室で座っている時間がほとんどないほどお忙しいですよね。そんなみなさんに活用いただくにあたって、気をつけたことはありますか?
教員の働き方改革を進めようとする中で、noteの運用という新しい取り組みをはじめることになります。
学校や教員の義務感や負担感がなるべく出ないように配慮することはとても重要でした。すべての県立高校にアカウントは付与するものの、必須で運用するものとはせずにスタートさせています。
それに正直なところ、当時はnoteというサービスを聞いたことも使ったこともない、という教員がほとんどです。どういうサービスなのか、なぜ導入するのかを丁寧に伝える必要がありました。
そこでまず、「noteを活用した高校魅力化の情報発信に係る説明会」を実施して、noteの基本的な使い方から記事作成のコツなど、noteディレクターにレクチャーしていただく時間をつくりました。
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note社には翌年度の「岩手県立高等学校高校魅力化フォーラム」でも、noteを有効に活用している高校の事例紹介を含めて、講演会を実施していただいています。
導入2年目からは「いわて高校魅力化PRアワード」の開催もはじめました。
良い事例を表彰して、各校の特色ある情報発信を奨励したい、県立高校の魅力ある学校づくりと情報発信の取り組みを県内外のみなさんにも届けたいと考えたためです。
大賞の教育長賞を受賞した高校には、生徒3名(引率教員1名)へ教育旅行を授与して、東京でnote社の見学や記事作成講座を実施しています。
導入時点で「なんとなく分からないから使わない」とならないように説明の機会をつくること、良い事例の紹介や表彰制度で更新しようと思ってもらう仕掛けをつくること。この2つが工夫したポイントになっていると思います。
——岩手県のすべての県立高校でnoteの活用がはじまって、2年以上が経過しました。noteを導入してよかったことや成果につながっていると感じることはありますか?
ホームページと比べるとnoteは投稿がしやすいので、高校の情報発信の量は飛躍的に増加したと感じています。
ほとんどの教員がnoteのことを知らなかったにも関わらず、操作方法が分からないという問い合わせはほとんどありませんでした。
県外からの生徒募集(いわて留学)でも、生徒や保護者が進学先を決めるときの重要な情報の1つになっています。
各校の探究の記事や県外募集(いわて留学)の記事をマガジンにまとめているので、県教育委員会としても各校の取り組みをリアルタイムに把握しやすくなりました。
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noteを導入したことによる具体的な成果や学校の変化について、県内のいくつかの高校に聞き取りを行ってみました。
わたしたちが思った以上に多様な視点の回答がありました。
学校の情報発信の変化・生徒の変化・教員の変化・保護者への発信・学校外からの反応の5つの観点で、ご紹介したいと思います。
学校の情報発信の変化
noteを導入することで学校の情報発信の煩雑さが解消
noteの新規投稿を高校のホームページに自動的に反映できるようにした結果、ホームページ更新の手間が格段に減って、運用を担当する教員の働き方改革につながりました。
学校の情報発信は「学校ホームページ」と「note」とあるが、すべての情報を学校ホームページからnoteに移行したことで、学校情報が得やすく(見やすく)なりました。
既存のホームページでは、「更新しづらい」「見づらい」「スマートフォンのサイズに合わない」などの課題を抱えていましたが、noteを導入することで情報発信の煩雑さが解消されて更新頻度が上がり、タイムリーな情報提供ができるようになりました。
生徒の活動内容など、生徒・学校の魅力を発信する機会が増えました。学校の様子をホームページより即時的かつ視覚的に伝えやすくなりました。
卒業生の記事もあり、卒業後の生徒の活躍を校内外に広めることができています。
学校の雰囲気や生徒の活動が具体的に伝わることで、定時制・通信制課程についての認知度も高まることを期待しています。
生徒の変化
生徒の意欲・連帯感・協力意識が高まり、学校の雰囲気が良くなった
校内外の活動や成果が公開されることで、生徒が自信を持ち、学習や課外活動に対する意欲が高まっています。
自分たちの活動が共有されることで、生徒同士の連帯感や協力意識が高まり、学校全体の雰囲気が良くなっています。
自ら記事を作成して学校の公式記事として投稿したいという生徒が出てきました。
大会の記事をnoteから発信することで生徒の当事者意識が高まり、大会への意識の向上が認められました。
「自分たちの活躍ぶりを地域に発信して欲しい」と、生徒自らnote掲載を要望するようになりました。
noteが導入されたことで、生徒による情報発信が容易になりました。
生徒が記事を書く場合もあるのですが、生徒自身が活動を振り返る機会となり、表現力の向上につながっています。
教員の変化
生徒や学校の良い所に注目する習慣がつき、前向きな文化が醸成された
noteへの投稿をきっかけに、生徒・職員それぞれが学校の良い部分に注目する習慣がつきました。様々な視点で学校・生徒・地域の良い部分を発信しようという、前向きな文化が醸成されてきています。
積極的に記事を投稿することで、教職員・生徒・保護者間で教育活動に関する情報共有が進みました。学校教育活動の記録も容易になっています。
noteを導入してから、学校行事や部活動での生徒の取り組みの様子などの学校情報を、教職員が発信することに意欲的になったと感じています。
記事を書くことで、今まで気付かなかった学校生活の小さなことや、生徒の行動を発見することができています。
投稿数を増やしたことで、本校職員が積極的に記事を作成し、情報を発信する体制が整ってきています。
保護者への発信
これまでは伝えられなかった学校の様子を、保護者に伝えられるようになった
学校行事や大会の後に記事を公開すると保護者・生徒に認知されるようになったので、アクセス数が増加しています。
「学校の様子を知りたい」という保護者の要望に応えることができています。修学旅行のレポート記事のアクセス数は、平常時の5倍以上でありました。
学校のnoteは保護者もよく閲覧しており、学校運営協議会の様子や季節の話題など、これまでは伝えられなかったところも伝えることができるようになりました。
保護者との面談の際に、学校のnoteに保護者から反響があり、共通の話題を増やすことができてコミュニケーションにも役立ちました。
学校外からの反応
学校の魅力を広く届けられるようになって、県外からの進学希望者が増えた
卒業生のフォロー数が年々増加しています。
一般の方からnoteの記事について問い合わせがあり、多くの人にアクセスされているなと感じています。
フォロワーが多くなるにつれ、学校の魅力を広く全国に周知できるようになりました。
本校ではnoteの更新は地域連携コーディネーターが担当しています。教員以外が担当することで、活動の目的や意義を丁寧に取り上げることができ、記事や文に独自性が生まれ、外部の方に本校を理解いただく際に非常に有効なツールとなっています。
県内外から多くの反響があり、生徒のためにと毎年手作りリースを届けてくれる方もいます。
県外の中高生も閲覧できるため、山村留学(県外募集)に興味を持つ中学生が増えています。
県外の学校からフォローされており、今後学校間の交流の機会創出につなげられる可能性が出てきています。
中学生への高校説明会で、生徒の日常を説明するために活用できています。
noteを通じて学校の魅力や特色が広く伝わり、地域社会や他の教育機関への認知度が高まっています。
本校のnoteの記事を、中学生や中学校関係者が閲覧して進路選びの参考にしています。
ほかにも、県内のある教職員からはこんな声も出ています。
noteの発信を続けることで、学校の中のストーリーを外に向けて語ろうとする文化ができてきたと感じます。
教職員同士なにかあったときは「じゃあそれnoteに書こうかな」と会話することが日常になっています。
ストーリーを語るには、生徒一人ひとりを深く理解する洞察力が必要です。
情報発信といえば外への効果に目が向きがちですが、ストーリーを発信する文化をつくることは、確実に学校の教育力そのものに返ってくると感じています 。
——noteをはじめたことで学校の文化づくりにまで影響があったというのは驚きました。
もしほかの教育委員会や学校にもnoteの活用を進めるとしたら、どんな点がおすすめのポイントになりそうでしょうか?
noteは広告が掲載されず、note proはコメントもオフにできるので、公立高校でも比較的安心して活用できる情報発信プラットフォームだと思います。
マガジンを作成することで、探究や部活動などテーマに関連する記事をまとめることもできるので、学校の活動情報の全体を発信しやすいです。
県教育委員会が一括導入を決めて県立高校が使う発信ツールを統一すれば、教員が異動でどの学校に行っても、操作方法が同じで記事の編集・投稿が簡単です。
原稿と画像があれば、それを貼り付けるだけで読みやすい記事ができるので、noteの編集方法を知らない人からの作成依頼にも応えやすくなっています。
下書き記事を非公開のままリンクで共有すれば、印刷しなくても管理職に確認してもらうこともできます。大会や修学旅行などの出張先からも、教員はタイムリーに記事の投稿ができるようになっています。
岩手では、今はまだ教員以外が記事を投稿している学校は少ない状況です。
今後コーディネーターや生徒が投稿しやすくなれば、違った視点の記事が投稿されるうえに、教員の負担が軽減されると考えられます。
また多くの高校でホームページとnoteを併用していますが、noteだけでホームページの機能を果たせるようになると、更新の負担が軽減されるのではないでしょうか。
引き続きnoteの活用を推進して、各校の特色ある学びを中学生や地域住民に届けていきたいと考えています。
岩手県教委が紹介する注目の学校アカウント
遠野高校
遠野高校は令和5年度「いわて高校魅力化PRアワード」で、的確な解説や写真を用いた分かりやすい構成で、大賞「教育長賞」を受賞しました。探究内容とともに高校の特色・魅力への理解が深まる記事が評価されました。投稿数や記事に対する「スキ」の数が多くなっています。探究活動、部活動等の学校活動だけではなく、日常の風景、地域や学校の歴史など、さまざまなジャンルの記事が投稿されています。
杜陵高校
生徒・職員・専門家が撮影した写真に加え、ドローン撮影の動画やダイジェスト動画を効果的に使っています。分かりやすい文章の記事で、生徒の日々の活動を積極的に発信しています。学校のアカウントは1つですが、本校・定時制、本校・通信制、奥州校・定時制、奥州校・通信制の4つの校舎・課程があるので、トップ画像のテーマカラーをそれぞれオレンジ、青、緑、紫とすることで、どの校舎・課程の記事なのかが分かりやすいように工夫しています。
葛巻高校
卒業生へのインタビューや県外留学生の生活など、生徒(卒業生)目線で高校の魅力が伝わる記事を公開しています。高校の学びが卒業後の進路にどのように繋がるのか、具体的に分かる記事が投稿されているので、県内の中学生だけでなく、県外募集を考えている中学生・保護者にとっても参考になると思います。
沼宮内高校
地域連携コーディネーターが記事を作成しています。魅力的な画像をたくさん使って、学校の活動について外部の方が知りたい部分を丁寧に説明しています。教員が書くものとはまた違った視点の記事が多く投稿されています。