正義と悪を天秤に載せて
【私の漫画棚 - No.001】
作品:ワンパンマン
原作:ONE 作画:村田 雄介
出版:集英社(2012〜)
ある日テレビを点けたら、人気のアニメ特集をやっており、「ワンパンマン」が取り上げられていた。
ひな壇に座る誰かが「なんでもワンパンで倒しちゃうんですよ!スカッとします!超面白いですよ!!!」って言う書評をしていてうんざりしていたところに、『我々の世代はガンダムだよ!話をすすめるほどに相手にも立場があり、戦わなければならない理由があるっていうことがわかってくるんだ。ただ単純に、敵が敵でいるわけじゃない。そこがいいんだよ!』と反論じみた返しを飛ばす司会者。
あぁ…この手のバラエティ番組なんか見なければよかった、と心底思った。もっと物語をたくさん読もうよ。歩み寄ろうよ。
それを見たのは1年以上前のお話。いずれ、この作品の魅力をちゃんと書きたいなぁとその時に思ったまま、ずっともやもやとしていたのでここに書こうと思う。
漫画「ワンパンマン」。アニメ化もされている。
主人公「サイタマ」は強い。
あまりにも強い。きっと歴代最強クラスのヒーローだろう。
それゆえ、自身の「強さ」への虚しさを抱えながら、ワンパンチで片付く戦闘と、血のついた手袋を洗う日々を過ごしている。
主人公「サイタマ」はダサい。
2つ名が「ハゲマント」である。
その圧倒的な強さにも関わらず、ひどくダサい。ピチピチの真っ黄色な全身タイツに、真っ赤なマント。ハゲ頭。素朴すぎる顔立ち。
ヒーローとしての人気や知名度を得ることに全くの無関心だったため、かつて無いほどの最強ヒーローは、かつてないほどに無名なのである。サイタマがヒーロー協会に入り、ハゲマントというヒーローネームをもらうところから徐々に物語は動き出すが、2020年10月現在22巻。未だに彼は無名である。
主人公のサイタマは、明らかに浮いている。作画を担当する変態作画マン、村田先生もサイタマを書くのが一番難しいと言っているほどに、作画からして既に浮いた存在なのだ。というか、異次元の強さを暗に示すためにわざと浮かせている。異様な密度の作画に、異様に線の少ない主人公が立ちはだかるのだ。得体の知れない怖さである。怖い。
▲「ワンパンマン 1巻・9巻」作中より
原作者のONE先生は、サイタマの強さを示すために、かなり早い段階で宇宙最強の生物と対峙させ、本気を出すこともなく圧勝させている。「お前は強すぎた…」という敵の最期のセリフには何処か絶望感がある。
▲「ワンパンマン 7巻」作中より
ワンパンマンの魅力は「強さ」だ。
圧倒的存在であるサイタマのせいで、単純な「力」という強さはサイタマの前にすべて霞んでしまう。サイタマが(一応)所属しているヒーロー協会には、「C級20位」などの序列がある。高い順位こそが名誉であり、協会より支払われる報酬も高額になるため、所属ヒーローは、市民に脅威を与える怪人たちに立ち向かいながら昇格を目指す。その一方、ただ目立つことが目的のヒーロー活動や、手柄の横取り、熾烈な派閥争いが繰り広げられいく。ここは戦略と謀略が蔓延るそんな世界でもあるのだ。
だが、サイタマは違う。彼はそういうものに全く興味がない。そんなものはムダで、どうでも良いと、背中で語っているかのように、サイタマはただマイペースに人々を救っていく。そんな彼の周りには、その強さに惹きつけられた仲間たちが集っていく。が、やはりサイタマは浮いているのだ。
これまで述べたサイタマの強さだが、実は作中そこまで発揮されない。物語を進めていくのは、主人公であるサイタマではなく、むしろ他のキャラクターたちである。サイタマというジョーカーの存在は、周囲のキャラクターが輝き出すためのトリガーになっているのだ。果たして、「強さとは何か」「ヒーローとは何か」。それらを考えさせられるのだ。
強い心。引けぬ戦い。ヒーローとしての誇り。仲間を気遣う想い。
「正義執行」なんていいながらも、そう単純じゃない「正義」を個性あふれるキャラクターたちの人間ドラマによって描ききっている傑作です。
単行本4巻の無免ライダーVS深海王は大好きなエピソードです。誰よりも「強いヒーロー」がそこにいます。ナイスファイト!
▲「ワンパンマン 4巻」作中より
ワンパンマン
原作:ONE 作画:村田 雄介
出版:集英社(2012〜)
その他の代表作
ONE : モブサイコ100(小学館/2012~2018)
村田雄介 : アイシールド21(小学館/2002~2014)