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【識者の眼】「厚労省と財務省の壁を越えて」草場鉄周

草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)
Web医事新報登録日: 2021-11-15

立場上、国の行政を司る官僚の皆さんと意見交換をする機会は多い。中でも医療を所管する厚労省の方とは医学教育、臨床研修、プライマリ・ケア推進、診療報酬、医療制度のあり方など、いつも多岐にわたる議論をさせて頂いているが、日本の医療の過去・現在、そして未来へと現場の状況に基づく、実に細やかな政策を提案する力には感銘を受けることが多い。

また、医療が日本社会に与えるインパクトは医療費という側面でも大変大きく、財務省や経産省の関心も非常に大きい。特に財務省は国全体の歳入/歳出を管理する責務を負うこともあり、近年の社会保障費の急激な増加と、それに伴う赤字国債の発行についての懸念は強く、毎年、予算編成にあたっての建議を発出しているのはご存じの通りである。

今年5月に発出された「財政健全化に向けた建議」では、医療について「医療提供体制の改革なくして診療報酬の改定なし」と印象的な表現がある。そして、総合診療に関連するテーマとしてかかりつけ医の制度化と診療報酬の包括化に対する言及がある。また、フリーアクセスを「必要なときに必要な医療にアクセスできる」という意味にとらえ直すべきであるという主張もある。論理的に考えると妥当なものも多い。

ただ、毎年のように提示される財務省の提案が厚労省の具体的な政策に反映される印象は乏しく、結局言いっぱなしの印象がある。厚労省も「そうは言っても、現場の反発は強く、性急な改革は難しい」と現場の意見をベースに突っぱねる印象がある。両省共に問題意識は近いが、立ちすくんだまま、いたずらに時が過ぎていく。

コロナ禍を経て、明らかに時代は次のステージに突入しつつある。そろそろ、こうした議論を次の段階に進めていき、21世紀中盤の日本の医療が財務的にも制度的にも堅牢なものとなるように両省が手を携えていくべきだろう。今こそ千載一遇のチャンスだ。

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