【識者の眼】「コロナで考えたこと(その1)─総合診療医を増やさなくっちゃ!!」邉見公雄
邉見公雄 (全国公私病院連盟会長)
Web医事新報登録日: 2021-07-29
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ではデジタル後進国、ワクチン敗戦、感染防御に必要な物品の海外依存など国全体としての色々な弱さも曝露されたが、医療界での課題も多く明らかとなった。
その1つが感染症やICUの担当医が少ないということ。また、ゲートキーパー役のかかりつけ医が機能しなかった地域も見られた。各分野の専門医を育てるのも重要ではあるが、こういう時には総合診療医の出番と愚考している。新専門医制度の目玉の一つは、19番目の基本領域として総合診療が加わったことである。しかし年間9000人余りの応募者のうち総合診療は制度開始後の4年間、200人前後である。内科が3000人近いのでその10分の1以下。欧米では医師全体の3割以上が総合診療というのが標準で、多い所は5割というのだから1桁違う数である。
何故だろうか? 1つは医育機関に総合診療学がない所や、あってもカリキュラムが少なく良いリーダーがいないという指摘もある。そもそも総合診療はフィールドが地域にあることが多く、教室での座学には限界がある。母校の京都大学では割と早い時期に福井次矢先生がこの講座を開設。地方病院長としてその発展を期待したが数年で消えてしまった。専門重視の他の内科学講座からの違和感、大学のコンセプトに合致しなかったとか色々な噂を仄聞したが真相は判らない。
2つ目は、医学生はもとより社会全体の専門医志向である。人口の多くを占める東京圏や新幹線沿線には医師が多く、どうしても専門医でないとやっていけないという思いが強いのであろう。メディアも手術数のランキングや「神の手」などで視聴率稼ぎに走る。細かい話になるが、総合診療に基本学会がないのが原因だとか2階にあたるサブスペシャリティ領域がないとの指摘もある。ある後輩から、2階のない1階に入らないのは偏差値が高い上昇志向の強い今時の医学生気質を知れば当然だ、と嘲笑されたこともある。
今回のCOVID-19のような新しい病気に専門医は余り役に立たず、呼吸器はもちろん後遺症や心、家庭生活までをも全体的にみることができる総合診療医、そして高度経済成長前には日本中どこにでもいた「町医者」こそ本当に必要とされる。超高齢社会や核家族、独居が進む今こそ総合診療医を増やすことは待ったなしである。
そこで提案。医学部に地域枠と同じように総合診療医枠を是非とも設けていただきたい。定員の1割程度を目途に、である。読者諸兄姉のお考えや如何。
【関連記事】
▶【識者の眼】「内野か外野か?─大学トップの選考方法」邉見公雄
▶【識者の眼】「ワクチン敗戦に思う」邉見公雄
▶【識者の眼】「コロナワクチン接種を終えて─副反応経験と国家百年の計」邉見公雄
▶最新のWeb医事新報「識者の眼」はこちら
医師、コメディカルスタッフ向けの最新ニュース、日常臨床に役立つ情報を毎日更新!
日本医事新報社公式ウェブサイトはこちら