【識者の眼】「敗血症およびCOVID-19重症患者のリハビリテーション─PICSを理解して患者に向き合うために」川村雄介
川村雄介 (公立昭和病院リハビリテーション科・理学療法士)
Web医事新報登録日: 2021-06-03
敗血症患者に対するリハビリテーション(以下、リハ)は、全身状態が安定したことを確認し、可及的早期に運動療法と離床を実施する。また、神経筋電気刺激やエルゴメータによる運動が選択される場合もある。このように、多様な方法でリハが行われるようになってきた。一方、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症患者に対しても可及的早期にリハを行うことが重要である。運動療法も必要であるが、ここでは早期から積極的に肺機能の改善を図ることを強調したい。すなわち、腹臥位の実施のみならず、適応を見極めて積極的に排痰手技を行うことが重要である。現在、急性期を乗り越えた後の転帰は不明な部分が多く、今後の研究が待たれる。
敗血症とCOVID-19重症患者ともに、集中治療後症候群(post intensive care syndrome:PICS)発症のリスクは高く、予防策を講じる必要がある。しかしながら、PICSは幅広い疾患概念であり、評価方法は多様であることからもPICSの患者に関わらなければ障害を理解しにくい。
筆者の体験を述べる。多発外傷で数回の手術を受けた40代男性のリハを担当した。ICUで11日間治療し、2カ月後に自宅退院した。約1年後の外来診察時にICUまで来てくださった。男性は療養していたベッドを見た途端に、顔面蒼白で震えながら「気分が悪くなってきた」と訴え、急に身体が反応したと困惑されていた。いわゆるフラッシュバックであろう。筆者にとって衝撃的であり、メンタルヘルスに対する意識はより高まった。
医療従事者がPICSの理解を深めるには院内で周知することが必要である。院内で一斉にPICS対策を開始できればこの上ないが、時間をかけて患者に向き合い、経験を重ねて多職種で理解を深め合うことが望ましい。同時に、ICU退室後の患者の経過を把握して、リハの効果検証を重ねるべきである。
近年は、疾患あるいは臓器別で「〜リハ」と細分化され、リハの専門性がさらに高まっている。病態を理解し、臨床経験に基づいて診療ガイドラインを応用し、患者の個別性と統合することで、より質の高いリハを提供することができる。患者やその家族の問題を的確に捉え、目標と課題を多職種と共有することは欠かせない。言葉が独り歩きして、漫然とリハを提供するだけでは真の問題は解決できないであろう。敗血症やCOVID-19重症患者のリハを行う上で、患者や家族の問題を解決するために今何をすべきかが問われている。
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