【識者の眼】「論文博士の制度を廃止せよ」岡本悦司
岡本悦司 (福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科教授)
Web医事新報登録日: 2021-08-03
おそらくは諸外国には見られない、わが国独特であろうと思われる制度に論文博士がある。学士、修士といった学位はそれぞれ4年制大学や大学院修士課程を修了しないと授与されない。博士号も博士課程の大学院を修了し、博士論文の審査に合格することが原則だが、わが国の学校教育法(第104条4項)には例外が規定されており、大学院を経ることなく博士号を取得できる。
わが国独特のこの制度はいつどのような事情で誕生したのか? 検索したが、その経緯ははっきりしない。想像だが、かつて大学院が少なく、大学教員も学部卒業後に助手として採用され、その後、講師、助教授そして教授と昇任してゆくキャリアパスが中心だった時代に、現に大学教員として勤務している者に、今さら退職して大学院に入り直せ、というわけにもゆかないから、大学院を修了しなくても大学教員としての業績を有する者のためにこのような制度がつくられたのではないだろうか。
今日、いたるところに大学院ができ定員割れのところさえある。大学教員や研究者をめざす者はまず大学院に進んで博士を取得してから採用されることが普通になった。論文博士の制度はもう歴史的使命を終えたのではないか?
論文博士の問題(利点!?)は、大学院に在籍したことがなくても「博士号取得見込」と記載できることだ。「見込」とは、4月採用予定で既に博士論文の審査を終えており3月末に授与される…ような状態を指すのが常識だと思うのだが、論文博士なら「近く取得する予定」というだけで取得見込として通ってしまう。そう言って採用されたが何年たっても未取得という例は少なくない。
「重大な経歴詐称」は解雇の理由になる、と就業規則に定める大学や企業は多い。でも「見込」や「予定」というのはくせもので、その通りにならなかったからといって詐称にはならない。いきおい、履歴書や面接では、強気で記載したり回答する者は有利となり、正直に「予定はありません」と回答する者は不利となる。学位の有無はとくに教員や研究者の選考や評価では重視されるだけに矛盾を感じる。
問題は人ではなく制度の方にある。歴史的役割を終えた制度はいっそ廃止すべきである。
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