【識者の眼】「重篤な疾患を持つ児の治療拒否と医療ネグレクト」小橋孝介
小橋孝介 (松戸市立総合医療センター小児科副部長)
Web医事新報登録日: 2021-06-09
染色体異常症に合併する重い先天性心疾患など重篤な疾患を持つ児の治療拒否について、どのような場合に医療ネグレクトとして対応するのか、悩むことが少なくない。
医療ネグレクトの定義には、コンセンサスの得られたものはない。日本子ども虐待医学会のワーキンググループが公開している『医療ネグレクトへの対応手引き平成25年改訂版』では、「その医療行為をしない場合、子どもの生命・身体・精神に重大な被害(死亡、身体的後遺症、自傷、他害)が生じる可能性が高」く、民法・児童福祉法に基づく親権停止の申し立ても含む対応の検討を要するものを、狭義のネグレクトと定義し、その具体的な対応が解説されている。
医療ネグレクトを疑った際に重要なのは、早い段階から、院内の子ども虐待対応組織(child protection team:CPT)を含めた複数の異なる立場の者で議論を行い、客観的な情報に基づく医学的な判断と治療を整理し対応を協議することである。さらに、それと並行して繰り返し家族との対話を重ね、その中で「子どもの最善の利益」をお互いが目指していることを前提として、保護者と医療者の相互の信頼関係の構築と治療に関する合意形成を図ることである。
日本小児科学会の倫理委員会小児終末期医療ガイドラインワーキンググループが作成した『重篤な疾患を持つ子どもの医療をめぐる話し合いのガイドライン』や日本新生児成育医学会が作成した『重篤な疾患を持つ新生児の家族と医療スタッフの話し合いのガイドライン』等は、先の医療ネグレクトへの対応手引きと合わせて保護者との対話において参考になる。
重篤な疾患を持つ子どもの保護者は、その状況を受容する過程のなかで思いが揺れ動くことが稀ではない。医療者として忘れてはならない第一の原則は、常に「子どもを主語」として考えることであるが、重篤な疾患を持つ子どもの治療拒否の場面では、保護者との対話を通して保護者の治療に対する葛藤に寄り添うことも必要である。
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