盗作

「我々が生きるのはただ美を発見するがためであり、他は1種の待機である」
とある天文学者の言葉で、私が最近で1番好きな言葉です。私はこの言葉がものすごく端的に世界を表してると思っていて、例えばその「美」はある人にとっては絵画かもしれない、数式かもしれない、地層かもしれない。きっと、盗作の主人公にとっての「美」は音楽だったのだろうなと思います。

私にとっては、今回のアルバム「盗作」が発見すべき「美」でした。

①音楽泥棒の自白
音楽に一切詳しくないため間違っていたら申し訳ないのですが、ピアノ、歌声、ノイズ、様々な音が重なって不穏な空気感でアルバムがはじまります。そのときにこれは「独白」ではなく「自白」なのだと私たちは理解させられます。

②昼鳶
そんな不穏な音楽とうってかわって軽快な始まりをするのが次曲、昼鳶です。
妬みを中心に組み立てられた曲で、個人的には君の全部妬ましい、の部分が好きです。普段は透明感のあるsuisさんの歌声から憎しみや怨嗟のような感情が伝わってきてとても素敵だと思います。それでも、やっぱり最後に「何も無いから僕は欲しい」と子供の我儘のように言うところにどうしようもなさを感じてしまいます。

③春ひさぎ
こちらの曲ではYouTubeのコメント欄で解説されていましたね。
昼鳶と同じように軽快な音楽だと思います。忘れておくんなまし、など歌詞の言い回しが特徴的な曲です。私はこの曲のMVがとても好きで、最初は音楽を楽しむように警戒に踊ったりしていたキャラクターが段々と音楽を食べ始め、人間の見た目から離れていき、軽快な踊りもぎこちないダンスになり、最後にはもうほとんど「化け物」のようになっていく様がなんとも言えない気持ちになってしまいます。それに対して、ジャズのような曲調ですから私はどうやってこの曲を聞けばいいのか今でも分からないでいます。

③爆弾魔
「死んだ目で爆弾片手に口を開く」
衝撃的な歌い出しで1番初めに聞いた時は心臓が飛び出でる思い出した。攻撃的な歌詞に反して泣きそうな歌い方(と感じました)で悲しくなる1曲です。
ずっと泣けないのも、ずっと笑えないのもきっと辛いと思います。爆弾魔が1番爆破したかったのは誰なんでしょうか、何だったんでしょうか。多分、自分だったんじゃないかな、なんて勝手に私は思っていました。
私は許されるならこの曲を抱きしめてあげたいです。

④青年期、空き巣
おしゃれな曲です。インスト曲というのでしょうか。空き巣、というにはあまりにもかけ離れている印象を受ける曲です。

⑤レプリカント
出だしがとてもかっこいい曲です。
歌詞がとても好きで、たしかにわたしたちは作り物だったのかもしれない、と考えてしまいます。私たちがしている選択は脳が決めていて、私たちは選択ではなくそれを選択した理由を考えているだけ、という話を昔してもらったことがあります。真偽は分からないのですが、それを思い出しました。私たちが感じているこの曲が素晴らしいという感情は偽りではないことを祈るばかりです。

⑥花人局
美しい曲だと思います。ヨルシカの言葉選びはいつも美しいと思うのですが、これは特別言葉選びが好きです。最初は昨日の夜を覚えていないと言っていたのに段々と思い出していく、真実を話していく、真実を受け入れていく、そんな段階を踏んで私たちも花人局をされた男性とこころが重なっていきます。曲が終わる頃には歌い手と同じように、春の匂いがする貴方が部屋に戻ってくるのを待たずにはいられない曲だと思います。

⑦朱夏期、音楽泥棒
穏やかな1曲です。ヨルシカのアルバムは他のアルバムよりも歌のない曲が多いですよね。途中の咳で孤独を想起させられて物悲しい気持ちになりました。緩やかに、眠っていくような曲です。

⑧盗作
アルバムのタイトルになっているだけあって物語性の強い1曲になっています。
メッセージ性の強い歌詞は力強い歌い方がとても映えますよね。

⑨思想犯
言葉が美しい曲です。ヨルシカの曲は攻撃性が高い歌詞ほどどこか崩れてしまいそうな脆さを感じてしまい、切ない気持ちになります。この曲もやはり、さよならが待っているんですね。MVにある視界の狭い世界はどれほど息苦しいのでしょうか。

⑩逃亡
強い言葉もないのに胸に刺さる曲だと思います。私はこの曲が流れるといつも祖母のことを思い出します。愛しい人とのもう戻らない思い出を見ているみたいで悲しくて、それでも優しい曲です。

⑪幼年期、思い出の中
澄んだ水のなかにいる気持ちになります。こんなに綺麗な思い出ならばいつまでも抱きしめて離さないでいたいと思いますが、綺麗でも切ない気持ちになるのはこれがもう戻らない思い出だからなのでしょうね。
素敵な曲です。

⑫夜行
幼年期、思い出の中の雰囲気を崩さないまま穏やかな曲が始まります。ここで私たちはアルバム内で朝から夜の時間をなぞっているのたと実感しました。
朝から夜になる、子供から大人になる、出会いから別れる。そんな時間の流れを大切に噛み砕いた曲が夜行なのだと思います。

⑬花に亡霊
優しい歌い方が魅力的な曲です。誰かに語りかけるような、やわらかな雰囲気がとても好きです。「僕は亡霊だ」とありますが、ヨルシカはよく自分と世界を切り離すようなことを言いますよね。それでもヨルシカの描く世界は美しくて愛しいと思います。


素敵な曲が詰まったアルバムをありがとうございます。これからも大切に聞いていけたらと思います。

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