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数をかぞえる
編み物をするのに必要なこと。数を数えること。
編み物をしない人から見たら、ゆったり暇そうに手を動かしているように見えるかもしれないが、めちゃくちゃ数を数えている。なので途中で声を掛けられてもすぐ返事することはできない。
次の模様まで12目、模様が18目、表編みが6目、また模様が18目、一段の終わりまでが12目、といった具合だ。
それに加えて、今何段目を編んでいるか?という数も数える。段数マーカーや段数カウンターというものもある。だが、毎段マーカーをつけると余計わからなくなる(大抵5-10段ごとにつける)し、カウンターは使ったことはないがカウンターを押す時が段を始めた時なのか終わった時なのかで一段ずれる。
私は大抵表が奇数段、裏が偶数段と決めているので、殆ど間違えない。というのは嘘で20年以上編んでてもめちゃくちゃ間違える。そしてめちゃくちゃ解く。1日分なんて平気で全部解く。
私は結構編み直すのは好きだ。
半年前癌の手術をしたが、少し動けるようになったらここぞとばかりに編んでいた。個室だから誰にも邪魔されない。編み物を思う存分できることは嬉しかった。
まだ夏前だったのでかぎ針編みのワンピースを編んでいた。ひたすら編んだ。右腋のリンパ節郭清をしたものの指には影響はない。
術後主治医が来て思ったより病状が良くなかったことを伝えられた。病院は静かだ。個室だからもっと静か。そのとき編み物をしていたとしたら、糸を綴る音が聞こえたかもしれない。
ひとりになって、かぎ針を手に取る。
長編みを2回、細編みを3目、長編みを一目、また細編みを3目…
編んでいれば数を数えなければならないので、他の余計なことは考えなくて済む。
編めば編むほど大きい編み地になっていく。いわば時間の具現化だ。流れていく時間を捕まえて1目1目を形にしていく。
編み物がずっと好きだった。
小学校4年生の時初めてマフラーを編んだ。ガタガタで酷いものだったが楽しかった。
高校生になってレース針を叔母から貰った。教えてくれる人がいなくて、独学でなんとか頑張っていたがなかなか上手く編めなくて挫折した。
仕方ないので棒針を編み始めた。マフラー、帽子、靴下、手袋。どんどん編めるようになり、普通のかぎ針編みもできるようになった。
かぎ針編みができれば、レース編みもできる。レースのような美しいものをただの一本の糸から生み出せることに喜びを感じ、その後数年はレース編みに熱中した。
そしてレース編みもかぎ針編みも棒針編みも、糸に合わせて作るものに合わせて使えるようになった。
今は編み図や本を見なくても作ることができる。(さすがにレース編みは編み図があったほうが良いが)
編む時の、血圧が下がっていく感じが好きだ。数を数えていると鼓動と重なるような気がする。
何も考えなくて良いし、逆に何を考えても良い、私だけの時間。その時間がきちんと形になる。
この半年、私は幾つ数をかぞえたんだろう?
そしてこれからどのくらい、数を数えることができるのだろう?