【趣味】昭和を彩った漫画雑誌「ガロ」を知っていますか?
退廃的な芸術性、言葉に言い表せないアンニュイな世界観、「エロ」を躊躇なく描く先進性、どこか引き込まれてしまう絵、他にはない雑誌の紙触り。
昭和のアンダーグラウンドを代表する漫画雑誌「ガロ」。
私は若干23歳ですが、ガロに出会った瞬間に、自由やシュールを体現したその世界観に引き込まれてしまいました。
みなさんにも魅力を知ってもらいたい。
そこで今回は、
について解説していく。
漫画雑誌「ガロ」とは?
ガロとは1964年(昭和39年)から2002年頃まで青林堂から発刊された月刊漫画雑誌。
ガロから輩出される新人漫画家は、「ガロ系」と呼ばれるほど、一大派閥を生み出した。
ガロ第一期
元は「カムイ伝」の作者で知られる、白土三平の漫画を掲載する目的で作られ、発刊当時は、紙面の多くを白土漫画が飾っており、他を水木しげるなどが飾る構成となっていた。
手塚治虫もガロに触発され、「COM」というガロに対抗した雑誌を発刊し、そこで名作「火の鳥」を連載したという歴史もある。(1967年にはじまり、1973年に休刊。)
ガロ第二期
1971年にカムイ伝が終了すると、ガロは第二期に突入する。
70年代は日米安保条約の延長が決定し、全共闘運動などの学生運動は鎮静化しつつあった。
一方で、三島由紀夫の自衛隊乱入や、「よど号」ハイジャック事件」など大きな事件が起こったのもこの年代で、日本にはどこか退廃的な空気が流れていた。
そんな中、漫画市場は拡大し、ガロは更に実験的な色を強めていく。
林静一にはじまる「四畳半フォーク」や「ノンセンスギャグ」の世界観が広がったのもこの時期だ。
ガロ第三期〜廃刊
その後の1980年代には、テレビやラジオが流行し、約3000部の売り上げに落ちてしまう。
結果、ガロは原稿料0円の時代も経験する。
それでも、みうらじゅんをはじめ、蛭子能収のような近代的ヒューマニズム(神の神秘的なものではなく、人間の理性を中心に据えようとする思想)を批判するような作家を輩出するなど、常に前衛的な空気を帯び続けたのだ。
しかし、売上が落ちた結果、2002年を最後に廃刊になったのだ。
ガロ出身の漫画家たち
ここからはガロで人気を博した漫画家とその作品を紹介していく。
白土三平
まずは白土三平だ。彼の作品といえば、言わずと知れた「カムイ伝」。
最下層階級に生まれた主人公のカムイが自由を求めて、相手と闘う物語で、忍者バトルものの元祖とも言われている。
当時社会にあった階級構造や差別化を徹底的に描いており、多くの登場人物や動物たちが呆気なく死んでいく描写が特徴的だ。
この作品は、当時の学生運動に見える、社会の矛盾への違和感を反映しており、階級闘争の色を帯びている点で、多くの若者を熱狂させた。
カムイ伝は、YouTubeにも公開されているので気になる方はぜひ見てもらいたい。
つげ義春
つげ義春も、白土三平と並んでガロを代表する作家だ。
当時は水木しげるのアシスタントとして活動していたが、のちに作家デビュー。
「ねじ式」や「ゲンセンカン主人」「紅い花」といった名作を生み出した。
つげ作品の一つである「無能の人」は映画化もされ、シュールな世界観が表現されている。
水木しげる
水木しげるは「ガロ」がはじまった当初から白土三平とともに紙面を飾った作家。
「ゲゲゲの鬼太郎」など多くの連載漫画をガロで発表し、のちにNHKのテレビ小説「ゲゲゲの女房」が発表されると大きなブームとなり、漫画史に名を刻む作家となった。
前衛的漫画家「つげ義春」
最後に、漫画史に大きな影響を与えたつげ義春について紹介したい。
彼の作品はリアルと空想を行き来するような独特なシュルレアリスム的世界観を表現し、漫画家だけでなく、文学作家や映画作家にもおおきな影響を与えている。
白土三平の作品が世相を反映するリアリズム的な作品だとすると、つげ義春の作品は、夢や空想を描いたシュルレアリスム的で哲学的な作品ともいえるだろう。
つげ義春は「起承転結の転で終わりにできないか」と語り、つげの短編小説は結を見せずに、解釈が求められる作品が多い。
全く理解できないのが、また彼の作品の良いところなのだ。
そんな彼の代表作は「ねじ式」。この作品はメメクラゲに左腕を刺されて血が出る主人公が医者を探す物語で、作中の絵一つ一つに深い解釈の余地があり、読み応えのある一作だ。
最後の終わり方も正直よくわからないので、個々によって解釈が全く違っている。
こうしたシュールでどこか惹きつけられる世界観こそが、のちの漫画家に大きな影響を与え、「ガロ系」というジャンルを確立したのだ。
最後に
今回紹介した作家以外にも、
など様々な著名作家がいるので、ぜひガロを読んで好きな作品・作家を見つけてもらいたい。
個人的には、70年代のガロがどこの古本屋でも見つからないので、見つけた方はご一報願いたい。