“生活者に選ばれる”ための企業ブランディングとはーーパナソニックがnoteとVoicyで呼びかけた想い
パナソニックさんとnoteは、2020年より「はたらく」に関するコンテストを複数回にわたり実施してきました。その結果をまとめたのが、トレンドレポート『「はたらく」のいまとこれから2022』です。
また、レポートをリリースしたタイミングでブランディング支援メニュー「share your story」の投稿企画を開催。「はたらく」について改めて考えるきっかけとなるよう、テーマは「#私にとってはたらくとは 」に設定しました。
そもそもなぜパナソニックはnoteを選んだのか。「share your story」に協賛してくれたのか。「share your story」を経てどのような変化があったのか。
2017年から2022年10月までパナソニックグループの採用ブランディングを担当し、2022年11月からはパナソニック コネクト株式会社の採用マーケティングを担当する河野安里沙さん、Voicyの事業開発責任者・長谷部祐樹さん、そしてnoteのブランドソリューションリーダー・児島周平さんに話を聞きました。
パナソニックがnoteを使い続ける理由
——前提として、パナソニックさんがnoteを選んだ理由から教えてください。
河野さん 生活者でもある求職者のみなさんとの双方向のコミュニケーションを実践したいと思ったからです。当社も採用文脈で双方向のコミュニケーションを実践しようと挑戦してきましたが、「生活者、求職者のみなさんと一緒に考え、共に創造していきたい」と思っても、なかなか成果として表れていないのが実情でした。
しかし、当社のブランド部門と私たち採用部門が協同しながら、noteでの発信やコンテストの企画などを通じて、生活者のみなさんの「一人ひとりのリアルな想い」……つまり「パナソニック」や「はたらくこと」などに対してどのように考えているかについて、少しずつ受け取れるようになってきています。まだまだ課題は多くありますが、コミュニケーションの形が変わろうとしている点は大きな進化だと思います。
パナソニック コネクト株式会社 マーケティング本部 コーポレートブランディング部
河野 安里沙 さん
新卒でパナソニックに入社し、国内家電領域の経理を担当。その後、株式会社リクルートキャリアへ転職。営業として3年間従事した後、人事としてパナソニックに戻る。採用ブランディングの立ち上げ、推進を経て、現在はパナソニック コネクト株式会社にてマーケティング部門から採用マーケティングの推進を行う。
——noteを運用するにあたって気をつけていることはありますか?
河野さん 気をつけていたことは2点です。まず、私たちは何のために採用サイトなどのオウンドメディアに加えてnoteというプラットフォームを使って発信するのか、という目的を明確に持つこと。それを運営するメンバーで共有して、意識し続けながら運用していくことです。
もう1点は、自分たちのやり方やトンマナを押し付けるのではなく、noteのやり方にチューニングして、「共につくる」という姿勢を体現するということを意識していました。
例えば、noteアカウント名は「パナソニック_ソウゾウノート」とし、<あしたのソウゾウが響き合う>をコンセプトに、毎日の営みのなかでこれからの道をソウゾウ(想像・創造)していく場所としています。
noteだからこそ描けるコミュニケーションの在り方を、生活者のみなさんと一緒に「ソウゾウ」したいと考えています。
——生活者のみなさんとの双方向のコミュニケーションによって、プラスの影響は出ていますか?
河野さん noteの活用による最大の成果は、「採用ブランディングに対する社内の理解促進」かもしれませんね。私たちのチームでは採用領域にマーケティングやブランディングの手法を取り入れているので、従来の採用では取り組んだことのない手法や用語が常に飛び交っています。従来の採用業務に携わっている人事からすると、「あの人たちは何をやっているの?」と不思議な存在でした。その中でnoteの取り組みを通じて、特にUGC(User Generated Content)という手法について私たち採用ブランディングのチーム以外の採用メンバーの理解がかなり進みました。
そして、これまでnoteで「はたらく」をテーマに実施してきたコンテストをまとめたトレンドレポート『「はたらく」のいまとこれから2022』を作成する過程で、コンテストに寄せられた作品に対して従来の採用業務に携わっている人事ともディスカッションをして共に「ソウゾウ」することで、私たちの取り組みに対してさらに理解を深めるきっかけになったと捉えています。
——レポート結果を踏まえて、河野さん自身に気づきはありましたか?
河野さん 今まで自分も考えていたけれど、言語化できていなかった価値観を言語化してもらえた感覚はあります。
たとえば、「最近の新入社員は転職が当たり前」というような発言をよく聞くと思うのですが、実は「転職が当たり前」なのではなく「転職という選択肢を持つことが当たり前」なんですよね。「絶対に転職する」というわけではなく「別にしなくてもいいけれど先の見えない時代だから手札はたくさん持っておきたい」という。
そのあたりの表面上だけで言語化されてきた価値観のニュアンスを理解できたのは、大きかったです。ニュアンスの違いを把握しきれないまま情報を発信していたら、受け手の方たちに「このひとたち、なんか違うんだよな」と思われてしまうコミュニケーションを取ってしまっていました。
——noteはパナソニックさんとどのようなコミュニケーションをとっているのでしょうか。
児島さん 基本的にはパナソニックさんにお任せしています。今回のレポートについては、コンテストに集まった投稿にすごくいいものが多かったので、私たちは「まとめてレポートにしたら大きな資産になるし、人事担当者はもちろん、働き方に悩んでいるひとに対してポジティブな影響を与えられるのではないか」と提案させていただきました。
先ほど河野さんもお話ししていましたが、パナソニックさんがブランドとして見事だったのは、自分たちが言いたいことだけをテーマやハッシュタグに設定しなかったことです。世の中のひとたちが記事を書きやすいハッシュタグ(#私にとってはたらくとは )を検討し、企画したことで投稿数が増えました。これが、いい投稿が集まった要因なのではないでしょうか。
より熱意を伝えるために。「share your story」の誕生
——今回の「share your story」というVoicyさんとの企画はどういう経緯で始まったのでしょうか。
児島さん Voicyさんとは別のプロジェクトでご一緒したことがあり、アウトプットの形は違うものの、思想が近いことは感じていました。お互いクリエイターをたいせつにしていて、発せられる言葉や考え方を受け手の方たちが楽しんでくれるようなプラットフォームです。
だから、ブランドが掲げるミッションやビジョン、パーパスなどをテーマに募集したらクリエイターも楽しく参加できて、企業側にもベネフィットがあると考えました。そこで「きちんとメニュー化しましょう」という話になり、立ち上げたのが「share your story」です。
長谷部さん Voicyとしてもnoteのコンテストはたくさん見ていたので、話が出たときは「すぐにやりましょう!」とお返事しました。ずっと「何か一緒にやりたいな」と思っていたので、決まったときは嬉しかったですね。その後の打ち合わせもすごくスムーズでした。
株式会社Voicy 事業開発責任者
長谷部 祐樹 さん
新卒入社のJTBで法人向けイベント担当を経て、PR会社ベクトルではPRコンサルタント、その後スペースマーケットではビジネス全般を担当。2021年1月にVoicy入社。Voicy Branding ProgramやVoicy Bizの啓発や、各種事業開発、メディアをはじめとした業務提携、サービス・コーポレートのPR・ブランディングを担当。
——第一弾の協賛企業としてパナソニックさんにお声がけしたのはどういう経緯ですか?
児島さん ちょうど『「はたらく」のいまとこれから2022』をリリースするタイミングでした。働き方についての示唆が詰まったこのレポートを読んだひとに「じゃあ自分も書いてみるか」と行動してもらうために、「share your story」の仕組みを使って、「#私にとってはたらくとは」というハッシュタグで募集しました。
——河野さんは「share your story」の話がきたときどんな印象を抱きましたか?
河野さん 新しいチャレンジをするきっかけになりました。
もともと音声メディアでコミュニケーションをとりたいという気持ちはありました。でも、新しくアカウントを作ることや続けることの難しさ、炎上のリスク、そしてパナソニックという看板の大きさも理解しており、二の足を踏んでいたところでした。そのタイミングでいただいたお話だったので「じゃあ、やってみようかな」と。noteと似た世界観のVoicyさんだったので安心してお任せできました。
特に心に響いたのが「share your story」というタイトルです。当社の採用メッセージは「一人ひとりの物語に、一人ひとりのパナソニック。」。一人ひとりの人生の一部分をパナソニックで紡いでいく……というストーリーを大事にして発信していたので、すごくマッチするし、なんなら「合わせてもらってる?」とすら思いました(笑)。
長谷部さん ありがとうございます。
でも、確かに継続することの難しさはありますよね。音声に限らず、SNS全般に対してパナソニックさんの規模になると、一回始めたら我々のようなスタートアップのように「うまくいかなかったから一旦やめよう」というわけにはいきませんから。
ただ、音声には音声ならではの魅力があります。それは、熱意がそのまま伝わること。たとえばテキストだと本人以外のライターが書くことができますが、声はそのひとにしか発せられないので、本気度が伝わりやすい。逆に嘘はバレます。
今後もしパナソニックさんがVoicyでアカウントを持ち音声配信をしていただけるようでしたら、「パナソニックの想いや熱意」がより伝わると思います。「流暢に噛まずに喋れるかどうか」みたいなテクニック論ではないんですよね。言葉に詰まっても最後まで喋れるだけの想いがあるほうが大事です。
逆に炎上リスクは少ないんです。人間は、苦手な人の言葉を聞き続けることはできないので。もちろんテキストを書くほうが好きな方もいらっしゃると思うので、それぞれの向き・不向き、得意・不得意で使い分ければよいのではないでしょうか。
「はたらく」を考え続けた意味
——プロジェクトに参加したパーソナリティの方からのリアクションはどうでしたか?
長谷部さん 2022年のVoicyトップ3に入るくらいの反響がありました。オープンな放送が多く集まりましたね。
「#私にとってはたらくとは」はみんなが話しやすいテーマですし、コロナ禍になって生活者一人ひとりが一度は考えたことなんだと思います。パーソナリティもリスナーさんたちに「考えてほしい」と思っているはずなので、使命感を持って取り組んでもらえたと感じています。1週間で250件ほど集まりました。
発信に対してパーソナリティが想像もしていないような反応があったり、共感があったり、さらにはその奥にいるリスナーさんがリアクションしていたり……想定以上の反響があったことも印象的でしたね。
——noteはどうでしたか?
児島さん 投稿数としては2週間で1500件ほど集まりました。
Voicyさんは選ばれたパーソナリティさんが発信しているのに対し、noteは誰でも書けるので数は大きくなりますが、それでも2週間でこれだけの数が集まったのは驚きでしたね。数だけではなく、内容も濃いものばかり。普段からパナソニックさんとnoteが働き方のコンテストを募集していることが、認知されつつあるような気がしました。
また、投稿したものを読んでご自身の考え方を見つめ直している方もいたので、初の取り組みとしては上々の結果だったのではないでしょうか。
note株式会社 法人事業グループ ブランドソリューション リーダー
児島 周平
総合広告代理店〜ファッション系スタートアップを経て、2020年9月noteに入社。現在はブランドソリューションチームで、コンテストサービスを中心に法人クライアントの窓口、新規サービス開発、外部パートナーとの協業メニュー開発に従事。note / Twitter
——特に印象に残っている投稿はありますか?
児島さん 個人的に印象に残ったのは「祖父の町工場からはたらくことを学んだ」という投稿ですね。
noteでは自分自身の仕事での経験に基づく投稿が多いのですが、この作品はご家族との過去のやりとりに基づくお話が綴られていました。作中に出てくる「『「はたらく』とは自分のためだけにすることではない」という考えは、今も昔も共通して大切なものだなと気付かされました。
長谷部さん Voicyでは「はたらく」のとらえ方が変わってきているような気がしました。
いい大学へ行って、いい会社へ入って……という誰かが決めた「はたらく」という概念に合わせるのではなく、自分の中のものさしで選択していくことを「はたらく」としている話が多かったように思います。ますます企業側が”選ばれる存在”になってきているといえるかもしれませんね。「はたらく」に対する思考の変化を感じられる放送ばかりでした。
——河野さんはいかがでしょう?
河野さん 採用という「はたらくをつくる立場」にいる人間としてですが……。私には、次の未来を創ろうと努力している名もなき人たちの光になりたい、後押しになりたい、という個人的な想いがあります。なので「絶対にやる意味はあるはず」と思って「share your story」を始めました。
私たちが直接的に全員に関わることは難しいかもしれないけれど、noteやVoicyのクリエイターの発信が水の波紋のように広がって、誰かの希望や光になれば絶対に意味があります。そのきっかけをつくれたのだとしたら、とても嬉しく思います。
パナソニックのようにnoteやVoicyを活用するために
——「share your story」の今後の展望について教えてください。
児島さん 企業側の意識を変え、取り組みを増やしていくことですね。
一般的に世の中の企業の広告予算は、商品を売ることに対してつくものです。しかし、「share your story」は企業の社会課題に対する考え方を浸透させる取り組み。しかもいろんなひとたちと一緒に対話しながらブランドイメージを向上させていくものです。なので、予算そのものがつきにくい。
なので、より多くの企業が「share your story」にトライしたいと思えるように、意識を変えていくことが重要だと思います。
——「社会課題に対する考え方を浸透させること」と「ブランディング」は距離があるように感じますが……。
児島さん そうですね。しかし、広い視点で問いかけることが、ブランドに興味を抱いてもらうための大切なプロセスだと思います。
パナソニックさんの場合は「こういう社会課題を解決するために仕事をしています」や「これからの働き方を一緒に考えていこうと思っています」という姿勢を伝えることが、興味を持ってもらうことにつながりました。
長谷部さん 社会課題への姿勢や考えを活動を通して伝えている企業が、生活者に選ばれる時代になってきています。「この商品はこんなにすごいんだ」よりも、「こんな取り組みをしているブランドなんだ」のほうが、生活者は自分に合うかどうかを判断しやすいですよね。
「新商品のシャンプーは、髪がサラサラになりますよ」と発信するか、「髪型を自由にしていこうぜ」とコミュニケーションするかの違いです。
児島さん それに企業の取り組みがカッコよかったら、広告を見せられても嫌な気持ちになりません。特に自分がファンのnoteクリエイターやVoicyさんのパーソナリティを支援する企業の広告なら「一度聞いてみようかな」と思えますし。
noteとVoicyの今回の取り組みでは、パナソニックさんが前面に出ないようにしていましたが、今後はもっと触れられる場を作ってみてもいいかもしれません。
——河野さんは、ブランディング活動に対する社内意識の変化は感じますか?
河野さん 「noteのコンテストで何人採用できたか」という議論にならない世界をつくれたことは大きいかもしれません。たとえば今回のコラボレーションも、前例がないので「どのくらいの効果が採用としてありますか?」と問われても計算できないじゃないですか。
そうではなく、上司が私やメンバーを信じて「じゃあやってみたら?」と言ってくれる環境は、すごくありがたい。「ひともお金もすべて社会からの預かりものだから、社会に還元していかなければいけないよね」「それがパナソニックがやる意味だよね」と信じてもらえたことは、かなり大きかったように思います。
——ちなみに、上司の方たちをうまく味方につけられている要因はありますか?
河野さん いやいや、なんでもOKがもらえる訳ではないですよ(笑)。
日々の仕事で信頼されるような結果を残し、信頼を積み重ねていく。その信頼の中で、「河野が『やる意味がある』と思うならやってみたら?」と意思決定してくれるのではないかと思います。この前提には、「これまでのやり方の延長線上だけではいけない」という危機感をもっていてくれる上司の方に恵まれているということがあると思います。
テクニック的なところで言うと、「意思決定者をnoteに出しちゃう」のは有効な手段のひとつです。自分が載ったものならおおよその中身を理解できるので安心に繋がります。また、もちろん意思決定者の性格にもよりますが、ほかの会社の経営者や人事責任者から「見ましたよ」と言われたら、嫌な気持ちになる人はいないと思います。
もちろん記事のクオリティは相当高くなければ説得力が伴いませんが、一度載ることで安心感を持ってもらうのは効果的な方法だと思います。
——ありがとうございます。最後にひと言ありますか?
河野さん このプロジェクトを通じて、自分自身も「はたらく」について深く考えることができ、刺激も受けました。これからも自らの可能性を信じて、いろいろとチャレンジしていきたいと思います。
Text and Photo by 田中嘉人
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