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【小説】月光蟲

#1

とある町の森の奥深く、開けた場所に1台のキャンピングカーが停まっていた。クリーム色の車体は薄汚れて塗装がところどころ剥げている。

仁礼野にれのは遮光カーテンをひいていても眩しい窓の外の明るさで目を覚ました。自分が横になったソファのそばにあるテーブルの上の目覚まし時計の文字盤は午前2時をさしている。

「……あ、旦那。目が覚めましたか。気分はどうです?」

仁礼野がいるソファの反対側から気づかうような声がしてグレーのパーカーを着た少女が近づいてきた。手には水の入ったガラスコップを持っている。

「ありがとう。ごめん、誰だっけ。アタシ……どのくらい眠ってたの?」
「マキです。澤村麻希さわむらまき。えーと……今日で3日目ですかね。昨日と一昨日の夜はかなり熱が高くて心配したんですけど」

麻希は仁礼野にコップを手渡してからそう言い、体温計も渡す。

「マキちゃんね。もしかしてずっとアタシの看病してくれてたのかしら」
「ええ、まあ。今どこか痛いところとかありません?熱は……よかった。下がったみたいですね」

麻希は仁礼野が返してきた体温計の表示を見て笑顔になる。仁礼野はコップの水を一気に飲みほすと腹のあたりにかけていた薄いブランケットを脱いで膝に置き、ソファに上体を起こして座る。

「起きても大丈夫ですか?まだ寝てたほうがいいんじゃないですか。夜が明けるまでまだ時間ありますよ」

麻希は仁礼野の隣に座り、カーテンを開けて外を見る。雲ひとつない夜空に黄色い満月がぽっかりと浮かんでいる。

「そうしたいんだけど、さっきからダメなの。異常に喉が渇くし、頭痛もするし。やっぱりアレ……食べてないからかしら」
「この間クッキーにしたやつって残ってる?なければ瓶に詰めたやつとか」
「あったかもしれません。探してきますね」

麻希はソファから立ち上がると車内奥にある小型冷蔵庫を開けて中を確かめにいくが、すぐに戻ってきた。

「すみません旦那、クッキーは今切らしてて、瓶詰めのやつなら少しは残ってましたけど」
「じゃあそれでいいわ。マキちゃんも食べる?」

仁礼野は麻希から茶色いガラスでできたジャムが入っていたらしき瓶を受け取ると蓋を開け、指をつっこんで中身を取り出す。粘り気のある液に包まれた透明なミミズに似た姿をしたもの……月光蟲があっという間に仁礼野の口の中に消える。

「あ、はい。後からいただくので旦那が先に好きなだけ食べてください」
「そう?じゃあ遠慮なくいただくわね」

そう言う間にも仁礼野は瓶から次々に月光蟲を取り出しては咀嚼していく。病み上がりでよほど空腹だったらしい。麻希はその様子を見てほっと胸をなでおろした。

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