第12回忘バワンドロライ「夜空」
※今回は下記設定↓で書きました。
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忘バ字書きさんには
「誰もが失敗作だ」で始まり、
「何度だって伝えるよ」がどこかに入って、
「あなたのせいだからね」で終わる物語を書いて欲しいです。
#書き出しと終わり
https://t.co/i7WmvWkF3f
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誰もが失敗作だ。
いや、誰の作品も失敗作だ。
「どーしよー、葵ちゃんならササッと作ってくれると思ったのに」
「仕方ないよね、妹さんが熱を出したんだから」
「仕事を切り上げてお迎えにいくお母さんそのままでしたね」
ごくごくフツーの都立高校は進学校のように勉強に追いたてられることもなく、だからといって授業崩壊するようなこともなく皆自由に青春を謳歌することができる。
「美術部主催 クラブ対抗作品展!」
普段は自分たちの作品を発表する美術部が、他のクラブから作品を募る一風変わった企画もこの校風ならではだ。
「要くん何でこんなの応募したの?」
「え~、だってサッカー部もバスケ部も声をかけられてたのに、うちだけスルーされてんだもん、寂しいじゃ~ん」
去年までは野球部がなかったのだから仕方がない。認識されていないんだ。
「その口が “ 野球以外に1分1秒も割けられない ” と言ってたのかと思うと、藤堂くんじゃなくてもワンパンしたくなりますね」
千早くんがイライラしながら吐き捨てる。
しかも当の要くんはそのことを提出前日の今日まですっかり忘れていた。期日直前に参加取り止めなんてしたら野球部の信用問題だ。ヘタなトラブルは避けたい。とりあえずそれっぽいものを用意するしかない。2年生は明日一斉テストがあるから早帰りしていて自分たちで何とかするしかないのだ。
明日中に提出しなきゃいけないと聞いたときから機嫌の悪かった千早くんの、奥歯を噛み締める音が聞こえてした。
「俺たちの覚悟は伝えましたよね。強豪を蹴って都立で闘う覚悟です。どれだけの覚悟かわかってんのかよ。聞こえてないなら何度でも伝えるよ、伝えてやるよ」
ヤバい、これはマズい。千早くんの口調が変わってきてる。
こんなに怒ってる千早くんは見たことがない。
「こんなモン作るためにやってんじゃねーよ!」
ドン!と机に置いたのは、針金の芯に紙粘土で肉付けしたそれぞれのポジションのフィギュア…のはずだ。
「え?瞬ちゃんソレ何?」
千早くんの怒気に怯えて僕の後ろに隠れていた要くんが出てきた。
「その元気のない大ナメクジみたいなの何?」
ナメクジっていうか、何だこの気持ち悪い物体。
千早くんこういうの得意だと思ってたのに、なんかショック。
「え?瞬ちゃん3時間もかかってそんなの作ってたの?!」
「それが何か?要くんだって何ですかそれ!どう見てもただのウンコじゃないですか!」
「キャッチャーだよキャッチャー!知ってる?キャッチャーってずっと座ってんのよ」
慌てて二人をなだめに入る。
「要くんも千早くんもがんばったと思うよ!」
その言葉に二人が清峰くんを見た。
ハンドグリップをカショカショさせる代わりに固まりかけた紙粘土をカショカショと握ったり放したりしている。ただの泥遊びだ。
僕もこういうのは得意じゃないけどこの中じゃ一番マシだな。
そう思っていたときに、
「山田くんのそれは、無垢の巨人ですか?」
ああ、あの人間を喰うアレね。
自分が上手く行かないからって八つ当たりはやめてよ。
大きくため息をついてから千早くんが言った。
「こんなことを言い合ってても仕方ありません。藤堂くんは自宅で作ってきてくれるでしょう。俺たちは下校までの残り一時間でできることをしましょう」
「できることって?」
「俺が夏休みの工作をどうやって乗り切ってたかご存知ですか?」
千早くんメガネを押し上げた。いつもの千早くんに戻ってきたぞ。
教室の隅では、泥遊びに飽きた清峰くんがカショカショ始めている。
次の日、想像を超える仕上がりの物を持ってきた藤堂くんに僕たちは歓声をあげた。
「藤堂くんさすがですね」
「すごいよ藤堂くん売り物みたいだ」
「葵ちゃん所属クラブ間違ってんじゃないの?」
昨夜はこれのせいでランニングに行けなかったと文句を言っていた藤堂くんだけど、みんなから口々に誉められてまんざらでもなさそうだ。
「妹がいろいろ持ってるからな、参考に似たようなもん作っただけだ。おう、ココ見てみろ。この服のシワが難しかったんだぞ。あとこことそこも、ホラよく見ろ」
昨日あれから僕たちはボロボロになった紙粘土を黄色く塗り、紺色の画用紙に夏の星座を作っていった。
「できないことは知恵でカバーです」
そう言ってメガネを押し上げた。
千早くん、夏休みの工作はこうやって乗り切ってたんだ。
ふーん。
…なんだろうなー、このダサさ。
画用紙で作った夜空の前に、藤堂くんが作ってきたスカートの短いセーラー服少女のフィギュアを置く。
「そのまんまでは色々と問題ですからね」
と言いながら、千早くんが作品のタイトルを記入した。
「お仕置きは、あなたのせいだからね☆」