第16回忘バワンドロライ「藤堂葵」

葵ちゃん。
もーすぐ、ロマンチスト16歳おめでとう!
みんなと夏休みグッバイ宿題パーティーするのかな、夜は妹ちゃんの好きなケーキを食べるのかな。

葵ちゃんいいですよね。
葵ちゃん!好きです!!
最近の葵ちゃんは「野球人生」を謳歌してます。
挫折した過去も乗り越えて、他人に「根性」を強要することもなくなり、ユルい部活のあとに思う存分レベルの高い練習で汗を流す。
葵ちゃん!毎日を楽しんでるよね
一塁までノーバンで送球できるようになるのももうすぐよね!

葵ちゃんのいいところを挙げていくとキリがないんですが、その1つにロマンチストさがあります。
名もなき球児にスポットが当てられた35話で帝徳の監督が国都くんに「覚悟はあるか」と聞いていました。
この「覚悟はあるか」は「大丈夫か?」です。

1年生が4番に据わる意味。

「上級生がその現実に対峙したときの絶望を受けとめられるのか。罪悪感に追いつめられないか。嫉妬からくる嫌がらせがあるかもしれない。皆の羨望も禍々しい感情もその背中に受けてお前は立っていられるのか?」という意味での「覚悟はあるか」。

ロマンチストな葵ちゃんなら無理です。
「実力の世界だからな」と口では言うでしょうが「先輩を差し置いて俺が4番になるなんて」と、きっと考えてしまいます。
そして一瞬でも考えた時点で葵ちゃんの負けなんです。
だって国都くんはそんなこと考えませんから。先輩の境遇に、その姿に心を痛めることはあるでしょう。それまでの人生を想像することもあるかもしれません。
でもそれはそれ。僕は僕。

以前、レンタルなんもしない人が「”誰にも言えない話をただ黙って聞いてほしい”という依頼が多い」と呟かれたときに、「誰にも言えないようなシビアな話を聞いてると自分の気持ちが引っ張られたり気分が重くなったりしませんか?」と質問をされていました。その返答としてレンタルなんもしない人は「ありません。そういうタイプではないので。というより他の人はそんな気持ちになるんですか?そのことに驚きました」というようなことを言われていて、引っ張られやすい私はとても驚きました。そしてその図太さと、他人とのはっきりした境界線をヒジョーにうらやましく思いました。
国都くんってそんなタイプじゃないですか?
智将が評する「無神経」、葵ちゃんに足りない「無神経」。
生まれながらのキャプテンとお祭りヤローの違いでしょうか。

国都くんなら、大事な試合でエラーしたぐらいでイップスにはなりません。それどころか「来年こそ先輩たちの分も勝ち進んでみせる」と、とっとと自分を発奮させる思い出に昇華させていたでしょう。
まぁそもそもあのバッテリーに心を折られなかったんですから、規格外のヒーローなんですけどね。

でも葵ちゃんは違います。
まだ知り合って間もないチームメイトが、うるさい他校の選手に「俺俺オレオレ」とからまれたときも、耳をほじりながら「俺が代わりに東京湾に沈めてきてやろうか」(意訳) などと仲間を大切にする熱い男です。
「俺のダチを馬鹿にするヤツは許さねェ」
昭和ヤンキーの真骨頂です。
お前の痛みは俺の痛み。
俺の痛みは俺の痛み、おめェらに心配はかけねェ。
他人との境界があいまい過ぎる! ドライさが足りない!
甘い。もっと言い換えれば弱い!
その弱さ、長所でもあり弱点でもあるその人間臭さが葵ちゃんです。
ロマンチストな葵ちゃんです。

そしてもう1つの、葵ちゃんを表す言葉。
理屈より勘、理論より本能。
一言で言えばバカ。
圭さま大爆発の「カットあるぞ」のときも、千早くんが説明してくれたからわかったものの、教えてもらっていなければ次の打席でも「何でまた詰まるんだ?」と首をかしげていたんじゃないですか。
最近は会話の中でもキレのある球をブッこんできてますから、かなりおりこうさんになってきてるのかも知れません。
中学生の頃なんか、カツアゲしている相手とはいえいきなり殴りかかってましたもんね。カツアゲだけじゃなく変な男にからまれて困ってる女の子を助けたことだってあるでしょう。

「やめてください!離してください!」
「いいじゃ~ん、俺たち車もあるしさぁ一緒にドライブしようぜぇ」
「いや!行きません、離してください!」
そこに現れるジャージ姿の金髪男!
いきなり男を殴り倒します。となりのヤツが「なんだテメェ!」と言い終わる前に顔面を殴りつけ、激昂しながら殴りかかってくるもう一人のみぞおちにワンパンストレート。先手必勝、攻めるが勝ち。
初球から全力フルスイングの藤堂葵様です。

翌日からその女の子は自分を助けてくれたヒーローを探し始めます。
身体を張ってワタシを守ってくれた金髪の王子様。
暗がりなのでちょいブスだって10割増で格好よく見えたでしょう。
お礼を言いたかったのに、名前も告げず去って行ってしまった彼…トゥンク♥

葵ちゃんはただ誰か殴る相手を探してただけなんですけどね。
「ケンカか?」と周囲が騒がしくなる前に逃げただけなんですけどね。
だから葵ちゃんはアナタの顔なんて1ミリもおぼえてません!残念!!

しばらくしてから女の子は無事に葵ちゃんを探しだします。
「あの…私のこと覚えてますかっ?」
「前に助けてもらって…」
「ずっとお礼を言いたくて!」

興味なさげに聞いていた葵ちゃん、最後の言葉にピンときました。
「お礼参りか! 女を使っておびきだそうって魂胆かよ」
そうしてプイッとその場を去っていきます。
「どいつかわかんねーけど卑怯なヤツらだ、”何とかかんとか”ってやつか」
たぶん“つつもたせ”のことですね。
そしてまた倒れるまで走ってそんなことすっかり忘れてしまいます。

そこの少女、残念だったね!
葵ちゃんにとって、そこは通りすぎただけの場所。
自分の居場所を探して迷いこんでいただけの場所。
君が出会った王子様はただのまぼろし蜃気楼!! 
王子様は白いユニフォームの似合う野球好きな高校生になって、本来の場所に帰っていきました。あの頃と変わらないのは金色に染めた髪だけです。

もうすぐお誕生日ね、葵ちゃん。
葵ちゃんには「ババア!」と呼べる人がいないけれど、日本中のババア共が葵ちゃんのお誕生日をお祝いしますからね!
「ババア!」って呼んでくれてもよくってよ!!

葵ちゃんおめでとー✨

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