第26回忘バワンドロライ「おとな」

野球なんかたまにバッセン行ってバット振り回して、時々キャッチボールするぐらいがちょうどいい。そうだろ?
なのにお前はプロになるワケでもねぇのにこの貴重な10代の時間を球を追っかけんのに費やすのか?もちろんお前の選択に口を挟むようなヤボなことはしねぇ。お前はお前のやりたいようにすればいい。
俺は相棒に背を向け帰路につく、サッカー部や陸上部が運動場であげる砂けむりの中を門へと向かう。西部劇みたいだな俺。しかしこいつらご苦労なこった、誰もプロになんかなれねーのにな。傾いた陽が影を長く伸ばす。悪くないシルエットだ、リュックは直接肩にかけるより手に持って腕を曲げて肩で支える方が絵になるか?いや、それよりも部活なんかにムキになってる奴らを見ながらワイルドに水筒からお茶を飲むのが格好いいんじゃねーか。俺は立ち止まり、頬に夕日が当たるように立ちリュックから水筒を出した。口をつけようとして野球部のヤツらの姿が目に入った。…ダセーんだよ。
俺はお茶を飲まず水筒をワイルドにリュックに戻しその場を離れた。

なんだアイツら、練習なんか始めやがって。
本気になってんじゃねーよ、佐藤も鈴木も。
モブ丸出しの名前なんだからよ、どうやったってスポットライトは当たんねーんだから。
野球なんかに本気になれるかよ、ダセーんだよ。
それに、俺が本気になったら…怪我するぜ?

1年坊主どものせいだ、なんだアイツら。
あんなヤツら相手に野球なんかできるかよ。
鈴木は上手かったんだよ、昔やってたらしいからな。

だがアイツらが来てからだ。
坊主でモブ代表みたいな名前のクセにダンチにうめぇんだよ。あいつらわかってねーんだろな、だから一緒に練習なんかできるんだろ。俺にはわかんだよ。佐藤や鈴木が目指すべきはあの坊主だ、クソが。
俺のバイブルはルーキーズなんだよ、本気を出すとしたら野球しかねーよな。ヘルメットに収まりきらない金髪なんかカッコいいだろ。…なのに何でマジもんがいるんだよ。どうやったってメットに隠せねーよな、あの金髪?ヤンキーってレベル越えてるよな。チンピラだろあれ。ぜってーケンカ強えぇよな?メガネがいないときに近寄ったらヤベェよな。
メガネもだ。変なカッコしたチビのクセに何であのチンピラと同じようにボール捕ってんだよ、ちょっと足が早えぇだけじゃねーのかよ。チビはおとなしくしとけよ。俺の言い訳を取り上げんなよ。

それと…クソが。アイツが1番ムカツクんだよ。
家につくと俺は冷蔵庫を開けてカルピスソーダを取りだした。
ラベルを剥がし、代わりにバーボンのラベルを輪ゴムでつける。
砂けむりの中を帰ってきた俺にはバーボンが似合う。
バーボンを飲みながらあの時のことを思い出す。
…ンだよ、あの球。
死神の釜が見えたかと思ったじゃねーか、クソが。

それにしてもだ、キャッチャーのあのアホは双子かなんかか?
明らかに別人の賢いアホがいるよな?
まぁどっちでもいいんだけどな、野球部なんか帰りにちょっと目にするぐらいだ。何も知らねーよ、カンケーねぇし。
バーボンで酔っちまったかな、寝てしまいそう…だ…

✳✳✳✳✳

はぁ?今から野球部の練習だ?
バカも休み休み言ってくれよ。行くわけねーだろ。
ガキじゃねーんだよ、野球なんかに本気になれっかよ。
ダセーんだよ。

あぁ、笑いたけりゃ笑えばいい。俺は本当にそう思ってたんだ。

だがな「先輩がいなきゃダメなんです!」
そんな風に言われてそれを断る方がダセーだろ。
アイツら、バカみてーに上手いんだよ。ルーキーズなんか目じゃねーよ。
あんなに上手いのに、毎日汗流して練習してんだよ。
バカだろ。

「先輩がいなきゃダメなんです!」
仕方ねぇよな、そこまで言われちゃ。
子どもじゃねーんだ。
それに応えてやるのがオトナってもんだろ。
そういや野球界のあのスーパースターもモブ代表みたいな名前だったよな。

俺もいっちょ本気だしちゃいますか。

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