第23回忘バワンドロライ「清峰葉流火」
「清峰くんってさぁモテるでしょー」
ごくごくフツーの小手指高校のごくごくフツーの授業のあいまの休み時間、1年1組のごくごくフツーの男子生徒が全然フツーじゃない清峰葉流火に話しかけた。高校生のありふれた日常。机の上に広げたノートに目を落としていた清峰が顔を上げると、前に座ってる要圭が「え?なになに?葉流ちゃんの話し?」と代わりに話に入ってきた。
「そりゃもうこのルックスよ?モテまくりに決まってるじゃ~ん」
まるで自分のことのように自慢を始める。
「でもこの人ってば入学式の日に、“うっとうしいから近づくな”って女の子に言っちゃったんだよ?」
その言葉に男子生徒が驚きの声をあげた。
「マジかよ?!どんだけモテりゃそんなセリフ吐けんだよっ?」
その声に近くにいる他の男子生徒たちも「何だ何だ?」と集まりだす。
「マジか?」
「悪魔に舌を操られてたのか?」
「中二病にも程があるぜ!」
「俺はそのために学校に来てるのに」
「おまえいつかバチが当たるぞ」
その中で誰かが清峰に質問をした。
「自分で “モテる” って自覚した時って覚えてる?」
男子高校生がいかにも口にしそうな質問でも野球以外に興味のない清峰には少し難しい。
「モテる?自覚?」
首をかしげる清峰に要圭が助け船をだす。
「ほら、だから例えば女の子に話しかけられることが増えた時期とかさ」
「…それなら、小四だったと思う」
「うぉおおおお!具体的だなぁ!!」
いつも自分のことを話さない清峰の昔話に皆がコーフンしだした。
「それは、何かきっかけがあったの?」
「リトルリーグで地区優勝した次の日から。学校の先生が“すごく速い球で勝った”ってみんなの前で言って」
「え?優勝おめでとうって感じで?」
「ちがう、どれぐらいの速さなのって」
なるほどなぁー、優勝したチームのピッチャーってカッコいいもんなぁーと口々に騒いでいる。
その集団の斜め前に座っている女子生徒がいた。
そんなムダ話などまったく耳に入っていない様子のその女子生徒は心の中で叫んでいた。
「ちがーう!優勝したから話しかけたんじゃなーい!そのイケメンに話しかけるきっかけを探してただけに決まってるー!!」
「他にはどんなこと話しかけられてたんだ?」
「…特にない」
「マジかよ、女子ってそんなに速い球を投げる男が好きなのかよ?!」
女子生徒が心の中で絶叫する。
「そのイケメンのUSBは野球関連だけ記憶できるのー!そしてイケメンモテ男が速い球を投げてただけー!!速い球を投げたからモテたんじゃなーい!!」
「清峰っていつもハンドグリップをカショカショしてるよな」
「腕ちょっと見せてくれよ」
「思ったより太くないんだな」
そんな話をしながらいつの間にか筋肉の比べ合いへと変わっていった。
その集団の後方に静かに文庫本を読んでいる女子生徒がいた。彼女は先ほどから先を進めず奥歯を噛み締めてページの一点だけを見つめていた。
「清峰くんがモブと一緒に腕まくりしてるっ…無理!シャツのボタンになりたい!」
彼女はオタクであった。
「尊い…!!」
頬杖をついて黙って窓の外を眺めている女子生徒がいた。
「“思ったより太くない”って!“すごく速い”って!!」
彼女は腐女子であった。
「“触っていい?”って言った?ちょ鼻血、触っていいって言った?…昇天」
そして擬音の使い手の字書きであった。
「オマエらの貧乏ゆすりの椅子の音さえも…最高」
カバンの中を整理しながら横目でその集団を見ている女子生徒がいた。
「清峰くんがクラスメートとじゃれあって…!!!」
彼女も腐女子であった。
「無理無理無理無理、眩しすぎる目がつぶれる」
そして絶妙なリアルさの絵師であった。
「今日はイイネ記録を更新しそうだわ…ゲフッ」
そしてトイレに行くために教室を出ていった女子生徒はCP厨であった。
妄想の自家中毒で気分が悪くなったのだ。
清峰がクラスメートのくだらなすぎる冗談にクスッと笑った。
『『『顔が!良すぎる!!』』』