第21回忘バワンドロライ「ハロウィ~ン」

「今年のハロウィンもやっと終わったな」
「終わりましたね」
日が落ちるとめっきり寒くなる秋の夕暮れ、練習の終わった小手指野球部員が着替えをしながら話している。
「あーそうじゃん、昨日ハロウィンだったんじゃん!みんなで吉祥寺に行きたかったなー」
「ハロウィンなァ…」
「ハロウィンねぇ…」
「何、二人ともその感じ?仮装とか楽しそうじゃん、いいじゃん!」
「いつごろからだ、このハロウィンとかってバカ騒ぎは?」
「10年ぐらいじゃないですか?」
「それぐらいだよなァ」
「ですねぇ」
「ちょ何?二人とも何かイヤな思い出でもあるのっ?!」
「要、オマエ子供のころの記憶もねェんだっけ?」
「んーあんまり覚えてないんだよね」
「リトルリーグでありましたよね、ハロウィンパーティー」
「何人かの保護者たちが用意すんだよ、近くの公民館でお菓子とかカボチャの飾り付けとかな」
「いいじゃん楽しそうじゃん!トリック オア トリートつってお菓子もらえるの楽しいじゃん!!」
「そうですねみんなで仮装して、待ち構えてるみんなのお母さんたちのところに行って“trick or treat”って言うんですよ」
「何だよー、聞いてるだけで楽しいじゃん!何でイヤな思い出風に話してんのよ?!」
「その後なんだよ、問題は」
「その先なんですよね」
「何?どゆこと?」
「何にもないんですよ、ハロウィンって」
「仮装するだろ、お菓子もらうだろ。そこがハロウィンのピークなんだよ」
「え?」
「何なら“準備段階こそハロウィン”と言っても過言ではないですしね」
「パーティー開始から10分で終わンだよ、全てが」
「クリスマスならみんなで歌ってプレゼント交換してその年のMVP発表してケーキを食べて、最後にコーチのサンタがプレゼントを配って…と、イベントが目白押しなんですけどね」
「ねェんだよな、ハロウィンは」
「参加してる保護者たちは人数分のお菓子を用意するのに忙しくでゲームの用意まで手が回りませんし」
「カボチャの飾りもな、そうそう眺めてられるもんじゃねェしな」
「そもそも企画した大人たちがハロウィンをよくわかってないですしね。とはいえ子供たちだって自分たちのために用意をしてくれたのはわかってますから楽しそうに振る舞うんですよ、会場を借りてる時間までの地獄の80分」
「俺らは途中でカボチャで野球を始めて窓ガラスを割っちまったけどな」
「ゲームもない中で中途半端な仮装をした小学生が手持ちぶさたに立ってるんです」
「コーチや保護者がいるからあんまアホな話もできねェしな」
「ひたすら時間が過ぎるのを待ってるんですよ」
「ちょ待って、聞いてるだけで息苦しくなりそうなんだけど」
「そういえば俺って耳がいいんですよね」
「は?何だ?ヤブから棒に」
「映画『E.T』にあった“trick or treat” をマネしたらネイティブ過ぎたんでしょうね、少々周りの友人たちからイヤがられました。友達が少なくなったのもハロウィンのせいですね」
「オメーに友達が少ないのはそのせいじゃねェぞ」
「…結局、次の年からはクリスマス会だけになりましたよね」
「俺ンとこは団地ぐるみでやり始めたからな、子どもが“トリックオアトリート”って言いながら一件ずつ回んだよ」
「それは…なかなかの惨劇の予感ですね」
「毎年2回は“トイレか?”って聞かれたな。渡されるお菓子の酢こんぶ率がたけェんだよ、しょうが飴とな」
「それぐらいなら…まァいいじゃないですか」
「あとは“あらー葵ちゃん大きくなったわねェ”から始まるダンナの愚痴な。途中で姉貴の迎えがなかったら一晩中帰れんかったわ」
「……それは今は終わってるんですか?」
「いやまだやってんな。俺が子供のときより一人暮らしの年寄りも増えたしな、“トリックオアトリート”っつう生存確認らしい」
「何それ新しい怪談話?こわいよやめてよ」
「なんというか…その見守りハロウィンは機能してるんですか?」
「姉貴の話では呼び鈴を鳴らしても出てこないばーさんがいたんだってよ。鍵もかかってなかったとかでドアを開けたらその部屋のばーさんが倒れてたんだよ」
「え?それって…」
「呼び鈴も聞こえねェぐらい爆睡の昼寝だ。ばーさんいつも“不眠症で夜に寝れない”つってたらしいからな、その原因がわかってよかったんじゃねーか」
「もうハロウィンが高齢化に太刀打ちできてないじゃん」
「俺も“またトイレ?今日はトイレを借りにくる子が多いねぇ急に寒くなったからねぇ”って言われてる小学生坊主を見かけたしな」
「それは葵ちゃん、声をかけて助けてあげたの?」
「あ、何でだよ?そーゆーのを経験して大人になってくんだよ」
「その考え方、さすが昭和の脳筋ですね」
「ンだと?!」

そんな会話をずっと聞いていた山田太郎は「昨日のハロウィンは家族で仮装をしてクラッカーを鳴らしてケーキを食べた」なんて言えないなと思いながら着替えをしていた。帰ったら昨日のケーキの残りを食べようとうきうきしながら。


追伸 ・ 映画『ET』に“trick or treat”のセリフは出てこなかったと思います!

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