第22回忘バワンドロライ「土屋和季」

「あらー、アナタ小手指の制服でグローブ持って野球部かしら?前におうちに遊びに来てくれたときはいなかったわよね、ってことは1年生じゃないわね?2年生でしょ、当たりね~?驚いた?おばちゃんの推理力に驚いた?推理力には自信があるのよー。前に圭ちゃんが“1年も2年も口うるさい小さいのとパワー馬鹿の大小がいっつも一緒にいる”なんて言ってたけど、アナタ1人ってことは山に住んでる土屋さんね?当たっちゃってまたビックリよね?山椒の木だわよね。桜の木かしら?桜を見る会じゃないわよ、さくらんボーイの会ってことよ~、本当わかっちゃうのよ~。悲しいぐらい外れないわ。前に圭ちゃんがチョコのお菓子を眺めながら呟いてたのよ、“土屋さんは山にいるよな里のほうじゃないよな”って。あら?圭ちゃんが家でおしゃべりさんなことに驚いてるのかしら?そうなの、最近は反抗期でアタシのこと“ババア”なんて言うんだけどあのコもおしゃべりさんじゃない?そんなに家で黙ってもいられないのよ~笑っちゃうわよね~。特に夜に眠くなってきたらテンション上がってどうでもいい話をしだすの、十五年前からずっとよー。でももう高校生なんだし、ちょっと世の中の役に立つようなこともしてほしいのよねー、献血なんかどうかしら。十六歳からできるのよね。聞いたわ~、献血に行ったらエッチな絵があるんですって?男の子たちがそれを目当てにこぞって献血に行って血の気を抜いてもらうのよね~青春よね~~。圭ちゃんもね最近はコソコソとそんな本を読んでるみたいなのよね。ううん違うわよ~、年ごろの男の子がそんなことに興味をもつのは当然のことよ~。そんなことおばちゃんだってわかってるわ~。ベッドの下にあるのを見つけたときも黙って机の上に片付けてあげたのよね。“ひょっとしてお母さんを心配させた?”なんて気を揉まなくていいようにメモだって付けてあげたわよ~。そういえば土屋さんって物知りなんですってね、宇宙人とか超能力とか催眠術とかピラミッドパワーとか電磁波とかマイナスイオンとかアニメとか。圭ちゃんってばずっと野球部ばっかりしてきたからあんまり物を知らないのよ。また教えてあげてくれる?あのコが時々言ってるラブ&ピースな感じの深夜アニメとかないかしら?そう、できれば深夜の。エッチな本を読んで夜更かしするぐらいならアニメでも見てる方がいいじゃない?あらやだ玉子のタイムセール始まっちゃうわ、じゃあおばちゃん行くわね。また家に遊びにきてね~」

要圭の母がその場を去るのと入れ替わりに、その勢いに面喰らって言葉を失っていた少年の元へ「ごめんねー」とコンビニから土屋和季が小走りでやってきた。
「グローブまで持ってもらってありがとう、おかげでトイレに間に合ったよー。ついでにからあげくん買ってきたから食べない?」
「いや…。オレ、お前から野球部に誘われてたけどやっぱやめとくわ。ハードル高ぇよ、怖ぇよ」
子供のころから季節の変わり目に和めない土屋和季は、友人のその言葉を聞き終える前にグローブとからあげくんを預け再びトイレへと走って行った。

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