第78回忘バワンドロライ「贈り物」
わかってたんだ、わかってたんだよ。
もうすぐお正月のこの時期、まもなく家族のもとへ帰省できるという浮足立ったこの時期の恒例だ。あの人がイジらないわけがない。わかってたことだ。
でもこんなに真っ直ぐなネタが来るなんてな。
「こーんにーちわあーー!!」
巻田が腰を落として両手を前に出して叫んでる。
いつも通りの巻田なのにそっくりだ。桐島さんがゲラゲラ大喜びしてしている。
「巻田クン坊主にしてや、テッカテカにしてや」
先週末あたりから、桐島さんにしては珍しくソワソワしていると思ってたんだ、M1待ちだったんだな。
そこであんなネタが出てきたんだもんな、そりゃ桐島さんだって大はしゃぎだよな。
「氷河だいすきおじさんズ」も半笑いで大量のバナナを差し入れてくれた、いつもバナナを持ち歩いてアピールしててよかったな。
「巻田クン、あんなとこにバナナあるわ」
桐島さんが指差すグラウンドにバナナが落ちている。なんでだよ、ジャングルかよ。
バナナの上に、つっかえ棒で支えられたサッカーゴールが立て掛けられていた。
うそだろ。
ウソみたいに巻田は「バナナがあるぅう!」と満面の笑みで走っていった。4本足の走り方だ。
バナナにたどり着くとつっかえ棒が倒されて、サッカーゴールの中に閉じ込められた。
巻田がゴールネットを揺らして雄叫びを上げる。
ウソだろ今日もう7回目だぜ。最初は笑っていたサッカー部もドン引きだ。
その中で桐島さんだけがバカ笑いしている。
怖いのが巻田のヤツ、桐島さんを笑わせようとしているんじゃなくて本気っぽいんだよ。本気で7回「バナナがあるぅ!」って嬉しそうに走ってるんだよ。
そのヤバさを笑ってる桐島さんも怖ぇえよ。
「オモロイなぁ巻田くん、みんなが帰っても思い出し笑いで爆笑できるわ」
桐島さんが少し気になる言い方をした。
「桐島さんは帰らないんですか?」
「正月なんか面倒くさいだけやろ、寮におる方が気ぃラクやわ」
そうか、さすが桐島さんだ。飄々としてるけれど熱血の人だもんな。
正月返上で一人で練習するんだろう、本当は帰りたいに違いないのに。
「お土産はいらんで」
桐島さんが笑っている。
大丈夫です、任せてください!
肉うどんをお贈りしますね。