第二十八回 偽兵ノ計
「…ハナかヨ。」
「んー?まさか、弱いものイジメなんかしてないわよねー!?」
弓道着少女の煽りに露骨に嫌な顔をする明。
「ハナ、邪魔するなヨ!アタイは話し合いをしてるんだヨ!」
「えー?話し合いー?どうかなー?だって、ソコのおチビちゃん達、怯えてるように見えるけどー?」
不自然なまでに、語尾を伸ばした話し方をするハナと呼ばれる少女の煽りに歯軋りをする明。
「ハナ!その話し方やめなヨ!イライラするヨ!」
「だってー…ワザとやってるんだもん!」それまでヘラヘラしていたハナの顔が突然、豹変した。
「ニヤけた顔も嫌いだが、その悪巧みした顔はもっと嫌いだヨ!」
「やーね!幼馴染なんだから、優しくしてよー!」
「同い年でも生まれたのはアタイの方が先ヨ!」
「小学生みたいな事言わないでよ。お子ちゃまねー!」
ブチ!実際には音はしていないが、完全にキレた明は「生徒会には手を出すなって言われたけど気が変わったヨ!全員しばくヨ!」と言うと、その場で憑依霊を召喚した。
一本角にひとつの大目玉、ニタリとした口からはキバが生え、涎を垂らし右手に金棒を持った巨人が校内に突如として現れた。
「やっと、ヤル気になったみたいね!そこの紫頭の人、ジャッジお願いね!」そう呉羽に促すと「栄花(さかえはな)が申す!我が呼び掛けに答え、その忠義を示せ小李広!」と名乗りとともに憑依霊を召喚した。
その姿は金属の棒が幾重にも重なり、無数の矢をつがえ、地面と接する部分には車輪の様な輪がついた戦車とも砲台ともつかない姿に鎧を纏った小さな哺乳類がちょこんと乗っている。
「さぁ、紫頭の人、開撃の合図を!」
「あ、えっと、さ、三撃の慣わしを持って華撃はじめ!」思わず合図を出してしまう呉羽。
「行くヨ!三撃なんて関係ないヨ!接撃一択だヨ!」明は徹底して打撃重視の攻撃を続ける。
対する花はゆっくりと後退しつつ投撃(矢)で応戦する。
時折、スニーカーの紐を結び直す仕草を見せ余裕がある素振りをするが、明のひとつ目鬼の優勢は誰が見ても明らかだった。
「ハッタリかましてヨ!その程度かヨ!」明が勝利を確信して煽ると花はクスリと口元を綻ばせ「ここは道場じゃないからランダムでバトルフィールドは変わらない…でもね明ちゃん!本当の地形ってのは、チョット場所を変えれば、ガラリと変わるものなのよ!見せてあげる策撃『偽兵ノ計』!」栄花の咆哮と共に憑依霊「小李広」がバラバラになり四方八方に飛び散った。
一瞬の静寂。
そして、その静寂を突き破るかの様に「ジャーン!ジャーン!」と言う銅鑼の音が四方八方から鳴り響いた!
明が左右に首を振り辺りを見渡すと茂みの上で、少李広に乗っていた鎧武者(哺乳類)が楽しそうに銅鑼を鳴らしている。
「子供だましだヨ!やれ!霹靂火!」明の指示にひとつ目鬼が鎧武者(哺乳類)に金棒を振り下ろすと、その姿はスーっと消え、反対の茂みの上に現れた。
「そ、そっちじゃないヨ!こっちだヨ!」再び金棒が振り下ろされるが、またも霧の様に消え別の茂みの上に現れる。
「どうなってるんだヨ!?」
何度、金棒を振り下ろしても手ごたえは無く、挙げ句には2体同時に現れる有様に明の集中力は切れぎれになり「ハナぁぁ!良い加減するんだヨぉお!」拳を握り栄花に向かって猛進する。
「ハァ、明ちゃん憑代に対しての暴力は反則負けだよ。」首を横にふり両手の平を挙げて呆れる花。
なりふり構わず花に殴りかかる明…だったが花の目の前で前のめりに転倒した。
慌てて顔を上げた明の目の前にはニンマリと笑顔を鼻先まで近付けて「はい。アタシの勝ちね!」とイタズラっぽく勝利宣言する栄花の姿があった。