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標準的ピアノ奏法のすすめ

どのような形で書こうか、どこに書こうか、いろいろ考えて考えて、考え抜いて、ここにブログ記事という形で書いていくことにしました。
わたしがNotallena主宰者としてこれから取り組もうとしていることを、ここに書き連ねていきたいと思います。わたしが取り組もうとしていること、それは、正しい奏法、というか、標準的な、世界で標準的に採り入れられているピアノ奏法を、日本に導入したいということです。
え、正しいって何? 標準って何? ですよね。
そもそも、日本に、って大きすぎますよね。
正しい、というよりは、時とともに自然と今の形に流れ着き、定着した奏法、という方が正確だと思います。
わたしが「日本に導入したい」と考えるくらいなので、あいにく日本には定着していません。個人的にこれを身につけている人はいますが、その人はたまたまこれを教えられる先生に教わることができた人で、しかしながらこれを教えられる先生が「教えられます」という看板を掲げているわけでもなく、誰がこの奏法を教えてくれるのか、外側からはわかりません。

奏法とは、パソコンで言えばOSにあたると思います。
WindowsとMac OSみたいな。
日本ではみなWindows搭載のパソコンを使っていて、海外に出てみたらみなMacユーザだった、といった感じ。Macなら無限にできることがWindowsだと機能が限られ、あるところまで行くと頭打ちになってしまう、、いえ、MacとWindowsは奏法とは全然関係ないのですが、喩えるとそんな感じです。

世界で標準的に採り入れられている奏法を便宜上「鍵盤主体の奏法」と呼びます。鍵盤はピアノと奏者の接点であります。鍵盤をどのように扱うか、打鍵するか、打鍵によってどのような音をつくり出すか、それによってどのような音楽を作り上げるか、に主眼を置いているのがこの奏法です。
日本で一般的に教えられている奏法を「指主体の奏法」とここでは呼びます。指の力や敏捷性を高めることで鍵盤を操作する奏法です。
この二つの奏法の決定的な違いは、指の動きを〈手首の関節〉から制御するか、〈指の付け根の関節(MP関節)〉から制御するか、にあります。
指の付け根の関節(以下「MP関節」)から手首までは、指の骨は手のひらに埋め込まれているので、結果的にはどちらもMP関節からしか動かないのですが、手首から打鍵すると、手と腕の重さ(重力)をまるまる鍵盤に伝えることができます。MP関節から指を動かすと、打鍵に使える力は指の筋力がメインになります。
ピアノというのは人間の体よりはるかに大きく重い楽器なので、指の細い筋肉だけでこの楽器の持つ機能を引き出しきるのは難しいと言えます。

他の国と違って日本に標準的な鍵盤主体の奏法がなかなか浸透しない理由はいくつかあると思いますが、おそらく明治初期に西洋音楽が日本に導入されたときにこの奏法が持ち込まれ、浸透し、今日までアップデートする機会を逸したまま連綿と受け継がれてきてしまったのではと考えます。
クラシック音楽としては後発の韓国や中国は、きっと最初から標準的奏法でスタートしたのではないかと思います。

鍵盤主体のこの奏法、わたしはヨーロッパ人の師匠から教わりました。
その後、いくつかの国で多くの先生にレッスンを受けましたが、奏法はどの先生も同じでした。
奏法は通常、それだけを取り出して教えることはなく、レッスンで曲を一つひとつ学ぶ中でその曲、その音楽と一緒に手指や腕、体、脳に少しずつ浸透させていくものです。ですので、奏法だけを体系的に説明するのは実は非常に困難です。
が、その困難な奏法の説明を、文章で端的に書き表してくれた人がいます。
それがショパンです。

「ショパンのピアノ奏法草稿」はすでに日本語に訳され出版されているので、目にしたことがある方、実際に読まれた方、また、研究された方も少なくないかもしれません。
ただ、この文面を読んだだけでショパンのピアノメソッドを理解しきるのはおそらく不可能でしょう。なぜなら、しごく常識的なこと、わざわざ書かなくてもわかるだろう、といったことはここには書かれていないからです。そしてショパン(19世紀のヨーロッパ人)にとっての常識と、21世紀の日本人である我々の常識は、大きく異なるのは言うまでもありません。
たとえば、メソッドの文面にはビートに関する説明がありません。ビート(拍感)は多くの日本人が苦手とするところで、実際我々はヨーロッパ人の拍感を体感として持っていません。欧米やラテンアメリカではビートをUpとDownで取りますが、日本では強弱でとります。この取り方は根本的に異なるものです。
テンポ維持やルバート、また鍵盤主体の打鍵方法もUp/Downのビートが前提にあります。
こういった点が、他にもたくさんあります。

ショパンのピアノメソッドをベースに、ショパンのピアノ奏法草稿に書かれていない、日本人の我々が知るべきことを洗い出し、ひとつの鍵盤主体の奏法の導入のために構築したプログラム、これを〈Notallenaメソッド〉と呼びたいと思います。
あえて命名することでもないのですが、責任の所在を明らかにしておくために。
Notallenaメソッドは、指主体の奏法でピアノを学んできた人が鍵盤主体の奏法を学び直したい場合、パソコンで言うならOSの部分だけをインストールし直す作業と考えていただけたらよいと思います。今まで作ってきたレパートリーはそのOS上で稼働すればよく、何もかもゼロからやり直す必要はありません。

ビートがヨーロッパ人と異なるなら、ヨーロッパ人のビートを学んで体得すればよいです。これはちょっとした訓練で身に付くものです。
日本人には日本人の特性と魅力があります。その魅力は演奏の中でも活かすべきであり、ピアノ演奏において(他の楽器でも同じ)否定されるものはひとつもありません。ただ、演奏の基礎部分の奏法を国際標準に合わせた方がよい、ということです。世界の多くの国で採用されるのは、それなりに理由があるからです。

つづく