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恋アスを土木の視点から解説する

初めまして。深谷田と書いてミヤタです。

簡単に自己紹介をさせていただきます。私は関東某所の大学に通う大学生です。土木系の学科に所属しており、地盤工学関連の研究を行う学部4年です。また、大学院への進学を予定しており、引き続き研究活動を行う予定です。

表題にあるとおり、土木学科の学生が、恋する小惑星に含まれる土木の要素について、解説させていただきます。

なお、筆者が著作権に疎く、様々なリスクを減らすため、本記事には、該当コマの画像は一切掲載いたしません。章タイトルに該当ページの記載があるので、そちらを参照しつつ、本記事を読んでいただければ幸いです。

また、本記事は恋する小惑星全6巻の内容を含んでおります。ネタバレが気になる方のために賞タイトルに内容の記載はございません。


1巻 P.116 

こちらは、地学部の夏合宿のワンシーン。国土地理院を地学部一行が訪れる場面です。
3日目に、イノ先輩の一声で急遽予定に入った、地図と測量の科学館。興奮しているイノ先輩カワイイ。

さて、こちらの右側1コマ目。コマ中には基準点標識とあります。施設内にある「地球ひろば」という屋外展示コーナーに、基準点の標石や保護蓋石など、各種基準点の標石が一堂に会する場所となっています。

では、イノ先輩が写真を撮っている基準点とはなんでしょう?
基準点とは、高さや水平位置の情報を持つ点のことを指します。
また、この基準点と似た点が2つあります。一つは水準点です。ここでは標高に関するデータが記録されています。
もう一つは三角点。ここでは、水平位置の情報が記録されています。具体的には、日本上に割り当てられている平面直角座標系に対してどの位置にあるかが記録されています。
また、これらの基準点などには、測定精度に応じて、一等から四等、1級から4級までの分類がなされています。

さて、これらの基準点は、街中に数多く存在しています。都会では、1kmぐらい、道に着目して歩いていると、容易に見つけることができます。

排水溝の近くにしれっと置いてあった基準点

そして、これらがどこにあるかが詳細に載っているサイトが、国土地理院の公開している、基準点成果等閲覧サービスです。

ここでは先述の基準点等の他に、GNSS(GPS)を用いて、随時位置情報の測量が行われている、電子基準点の位置についても記載されています。

では、基準点がなんのために存在するのでしょうか?
それは、その名のとおり、位置情報の基準とするためです。何の基準かというと、各地のあらゆる場所です。例えば、建物の4階の高さですとか、丘の上の標高、工事現場の掘削深さまで、あらゆる位置情報を求める基準として使用しています。
それらの位置情報を求める際に、基準点の既知の情報から逆算して、位置を求めていくことで、知りたい位置の高さや水平位置を知ることができます。
まず、基準点から、測量器具を用いて、目的の現場まで少しずつ標高や位置について求めていきます。

2巻 P.47~

文化祭の展示について会議をしているシーン。モンロー先輩の一言から、地質班はボーリング調査を進めていきます。全人類が桜先輩(と遠藤先生)に惚れた。

この章では、ボーリング調査(ボウリング、ではない)に関する項目を、各キャラの発言を基に解説していきます。

2巻 P.48 右1、2コマ目

まずは1コマ目。モンロー先輩の発言内に細文字で「標準貫入試験」とあります。こちらは、JIS規格にも記載されている試験法で、一般的にボーリング調査と言われる場合に用いられる試験法となっています(JIS A 1219)。

この試験を簡単に説明すると、コマ内に解説のあるように、筒を設置し、63.5kgのハンマーを76cmの高さから落下させ、30cm打ち込む試験となります。詳しくはググるか「地盤調査の方法と解説(丸善出版)」を読んでください。
この試験では、作中で地質班が入手したボーリングコアの入手とボーリング柱状図(P.49左3コマ目参照)の他に、落下回数と毎回の落下で筒が沈んだ深さを計測します。ここで、落下回数のことを「N値」と呼びます。N値の基準として、ハンマーの重量と落下高さが定められています。
そして、N値を用いることで、砂などの緩さの算出が可能となり、地盤の状況を知ることができます。桜先輩が一度、ボーリング調査は無理、と発言した裏には、N値のような、厳密な規格があることも一因じゃないかと筆者は考えます。

そして、上記の標準貫入試験の規則についてはP.53で話題にしています。

更に、ボーリング調査によるデータは、一部が全体で公開されています。

国土地盤情報センターでは、上記サイトの「地盤情報の公開」から、各地のボーリングデータを閲覧できます(読み取る難易度は高め)。

2巻 P.48 左

イノ先輩が読んでいる本に「スウェーデン式サウンディング試験」と記載があります。ドボジョ、って響きがあんまり可愛くない……でも代わりの呼び方が思いつかない……ジオジョは可愛いのに……

この試験方法では、ドリルのような道具を用いて行います。まず垂直に荷重を加え、1000Nを加え終わった後、回転させることでさらに力を加えることでより深く掘り進めることで、地盤の状況を確認することができます。こちらも詳しくはJIS A 1221又は「地盤調査の方法と解説(丸善出版)」を参照してください。

2巻 P.71

左2コマ目にある野球部の部員にあった質問に、昔は田んぼがあったことで校庭の水はけが悪いのでは?という一幕があります。
こちら、根本的な原因としては、粘土の層があることとなります。
ではなぜ粘土の層があると水はけが悪くなるのか。それは、粘土は砂と比べて、水が通るすき間が少ないからです。
まず、砂と粘土の違いは、土の粒(土粒子)の直径です。砂は0.075mm~2mm、粘土は0.005mm未満の直径を持ちます。このような土の分類は、地学で登場した、砂岩、泥岩の分類のように考えるとわかりやすいと思います。
さて、このように粒の大きさが変化すると、同じ面積の中で水が通れる部分(間隙)が減少します。

土の粒の大きさとすき間(間隙)(集合体恐怖症の人ごめんね)


このように、スペースが少ないと、水の通る面積が減少します。そのため、水が抜けていく量が減ることで、粘土によって、水はけが悪くなっています。
ここで、水の通る速さに関する係数として、透水係数があります。これは、値が大きくなるほど水を通しやすくなります。

そして土木系の著者から一言。土木の人間的には「盛土」と「盛り土」は異なります。
左1コマ目をご覧ください。ボーリングコアの説明には盛土と書かれています。
続いて2コマ目をご覧ください。ここでの桜先輩のセリフでは「盛り土」と書かれています。
盛土(もりど)とは、高さを確保するために、設計して土を盛ったものを指します。
盛り土(もりつち)とは、盛った後の標高を考慮せずに盛った土のことを指します。具体例として養浜(浜の形を維持するために土を盛ること)があります

わかりやすい違いとして、設計があるかないかの違いがあります。

さて、この話は、土木技術者としての一般常識です。Wikipediaだと双方の表記どちらも認めているらしいので、普段使う分には、どちらでも構わないかと考えます。なので、専門職じゃない人は気にしないで大丈夫です。

5巻 P.94

イノ先輩の卒業プレゼント、GPSアート回。ハートがガタガタになるのはご愛敬。

左2コマ目に出てきました!2級基準点。1巻P.116の章にあるとおり、いろんな目印が、街中には溢れています。

5巻 P.95

先程と同様、イノ先輩と宝の地図を基に探索中。

ダムカード、マンホールカード、橋カード……
土木関係者は若者への普及に必死なんですよ……どうすりゃいいんだ……
ちなみにマンホールカードは果てしない数あります。コンプできる人いるのか……?

5巻 P.100~

春休みの地底探検ツアー。兼聖地巡礼ツアー。モデルとなったOHYA UNDERGROUND TOURは2024年11月をもって終了しました。もう俺たちが聖地巡礼できないの残念。

さて、ここで登場する大谷石はチカちゃんの説明のとおりなので省略しますが、大谷石が普及した理由として、加工が容易なことが挙げられています。
工業として普及するには、費用を抑えることが重要です。大谷石のように、加工しやすい材料は、切り出すのに必要な労力が低く、欲しい形に加工しやすく、時間がかからないことが費用の低減に貢献しています。
実際、現在主流である、コンクリートは、型枠により自由に変形させることができることに加えて、原材料であるセメントでは1kgあたり100円以下である場合もあり、手軽さも含めて普及しています。

6巻 P.69

気象多めのプール回。土星の衛星たち、眼福。

左3,4コマ目に出てきた「ジオイド」について。
実際、説明はイノ先輩のとおりで100点です。地中にも海水が続いていると仮定して、それを合わせて地球全体を平均海水面の高さで表したものです。
地中でどのように海水面を仮定するかですが、平均海水面の重力が続いている面を、陸地における平均海水面としています。これは、陸地では平均海水面よりも高い箇所に陸地があります。その分、万有引力の法則により、平均海水面よりも上に引っ張る力が出現します。そこで、重力が平均海水面と釣り合う面を平均海水面としています。

そして、測量するにあたって必要となる標高は、ジオイド面からの高さを表しています。

地球全体のジオイド高(国土地理院、https://gsi.go.jp/buturisokuchi/grageo_geoid.html)

6巻 P.79

作中最後の舞台、堂平天文台へ向かう地学部一行。物語が佳境を迎える緊張感を、連載を追いながら感じていました。

右4コマ目のOGたちの一コマ。三角点は山頂にこそあるんですよ。実は。
なので、山頂にたどり着いたかどうかを探る一つの方法として、三角点を探すのも使えますよ。

6巻 P.103

小惑星の命名が認定され三者三様の喜び方をする地学部OG一行。それを爆速で駆け抜けていくCOIAS一行。やっぱ恋アスってすげぇ。

左3コマ目のイノ先輩、の左にある機械です。
こちら、「トータルステーション(TS)」と呼ばれる測量機器です。
これはある地点Aに立って地点Bと地点Cを見るとき、BからCまで水平に回転するときの角度、垂直に回転するときの角度、地点Aからの距離を測定することができる機器です。

言葉だけでは十分に伝えられないと思いますが、全測量の必須品といっても過言ではない機器となっています。
詳しくは「三角測量」に記載してあるのですが、この角度と距離を計測することで、測量は十分に行えます。やったね。

おわりに

ここまで読んでいただきありがとうございます。
ここまで、全6巻分のうち、主要な土木要素について解説していきました。恋アスはメインが地学であるので、巻数の割に解説箇所は少ないと思いますが、多岐にわたる解説だと思います(ほとんとイノ先輩関連ですが)。

このnoteを書く理由の一つに、多くの人に土木に関心を持ってもらいたい、という気持ちがあります。
マンホールカードの章でも言いましたが、土木業界では普及が課題となっています。特に若い世代に対するアプローチが不足していると考えています。そのために様々なアプローチがなされており、アプローチだけで、土木学会のセッションが成立するぐらいの件数が実施されています。
しかし、恋アスのように、漫画やアニメを起因とした普及は、土木ではあまり効果がないように感じます。

なので、この記事を読んでくださった皆さんが、土木を知り、より土木に興味関心を持ってもらい、願わくば、土木の道へと進んでいただけると筆者冥利に尽きます。

最後になりますが、土木は楽しいですよ!

おまけ:執筆理由

本記事は、エスクリエイトシステムズ様により、C105にて頒布予定の「星咲のつどい 恋する小惑星 完結記念合同」への寄稿を計画していました原稿案を清書したものとなります。上記の本には私、ミヤタは一切参加しておりません(参加者募集のTwiPlaに「興味あり」とは解答しております)。
理由ですが、
・申し込み忘れてた
・原稿提出の時期が忙しかった
・恋アス関連の文章を一度も書いたことがなく自信がなかった
の三点となります。
実際、その時期には月末に控えた学会発表への準備や学園祭への準備など、様々な用事が重なり、正直恋アスに構っている余裕がなかったです。
更に、少女終末旅行関連の合同誌には幾つか寄稿させていただいたことはありますが、その全てが小説形式であり、今回の案のような評論形式の文章を公開したことは一度もなく、いきなり物理媒体に評論を載せていいのか、という葛藤もありました。

このような経緯もあり、投稿日時をC105に重ねてみました。エアコミケ。

では改めて。ここまで読んでいただきありがとうございます。

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