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620円で[COHIBA]のシガリロを買えるはずが

なかった。


葉巻、というかタバコについて少しでも調べれば、分かることがある。

キューバ産のタバコこそが、至高のタバコであると。


で、あれば。

一度は吸ってみたくなるのが、人の性というものだろう。


基本的に私は葉巻にまつわる会計で、一回に四桁は超えることがないように気を付けている。
端的に言えばケチの原則を敷いている。

それゆえに、葉巻の中でも最高級に当たるキューバ産なんてものは、とてもとても手が出ない。

しかしどうだろう。いつもの店に、キューバ産としてはもっとも有名(だと勝手に私が考えている)「COHIBA」の銘があるではないか。

しかも620円。

620円

620円⁉

箱の中に何本入っているかはわからないが、格安だろう。

そもそも、三桁でキューバンシガーの何たるか、その一端さえ知ることができれば御の字といえる。

できるだけ安く、この趣味を長寿化させようと、その持ち前の足りない頭で画策していた私だが、「本物」を知らずに一生を終えることを歓迎しているわけではない。

ということで、最初で最後になるかもしれないキューバのタバコ。

買うことにした。



このとき、パッケージをもう少し注意深く見ていれば。


620円で、ほかのシガリロが買えたかもしれない。


アフターフェスティバル。


1

購入してから幾ばく。

特に考えもなく、ネットでCOHIBAについて、もう少し調べてみることにした。

この当時の私は、COIBAのシガリロには三種類ある、くらいの知識しか持ち合わせていなかった。

Chromeの検索窓に「COHIBA シガリロ」、検索結果を眺める。

一箱、2800円。

ん?

一箱、1900円。

んん?

おかしいぞ。まったくもって相場が異なる。
620円なんてのは、これらの相場から考えれば2,3本入っている程度の金額だ。

ばら売りが視野に入る金額である。


そしてこのあたりから、私の頭には一つの恐ろしい可能性が浮かんでいた。

これ、葉巻じゃなくて紙巻かもな。

いや、まさか。COHIBAだぞ? あの、葉巻の金字塔だぞ。

そんな馬鹿な。


そんな……




バカな……


CUBAN CIGARETTES。直訳で死のノート……ではなく、キューバ産の、シガレッツ。


CIGARETTES

CIGARETTES

"CIGARETTES"



うわああああああ!!!!

CIGARETTESとは、紙巻タバコを指す英単語である。

つまり、そういうことである。

私はてっきり葉巻だと思って買ったが、実は紙巻でした。

なんてことだ。


いや、まだ希望は捨てない。

私は英語に詳しくないため、もしかするとリトルシガーはシガレッツの範囲に入るのかもしれない。そうだった場合は、まだ辛うじて葉巻と、呼べなくもない可能性は否定できないはずだ。

シガリロは一本200円とか、そこら辺の価格帯だとしても、箱にまぁ十本入りと仮定して、リトルシガーは一本62円。

無理がある。


開封する。

これが最後のチャンス。分水嶺である。

いざ。


Pull

おお、なんだか随分と仰々しいな。
Pullっていわれても、どこをどう引いたものか。

分からんので、普通に開けた。


ああ

リトルシガーは、フィルター付きとも、言う。


おわぁ


嗚呼、紙巻。

この純白では、タバコシートである可能性さえないだろう。

やっちまった。

私は、紙巻タバコを買ってしまった。


一応、吸っておく。もしかすると吸わず嫌い、という線もある。

他者が吸うのに居合わせただけで気分が悪くなったが、当事者になれば案外悪くない、ということもあるかもしれない、

匂いは、かなり獣臭い。むかし紙巻タバコ作成キットを購入した時、シャグも購入したのだが、その匂いはびっくりするほど甘ったるかったので、紙巻タバコは総じて甘いものだと思っていた。

当時買ったシャグが独特だったのか、COHIBAが特別なのか。

どちらが正しいか、分かることはもうないだろう。

着火し、吸ってみる。

紙巻タバコは咥えて、少し吸い込みつつ火を点けるのが作法らしいが、それは怖いので葉巻と同じように炙る。

面積も狭いのですぐに火が回る。

辛い。

火先から上る煙も、やはり刺激だ。

うむ。

合わない。


そして、吸ってもないのに火が進む。

どんどん進む。

全部無くなっちゃうんじゃないかってくらい。

それでは勿ない気がして吸う。

辛い。濃い、というべきなのだろうか。

細いほうが味は濃い、と聞いていたが、紙巻ほどになるともはや煙を鼻から通せない。

濃すぎる。

しかし火は進む。私を差し置いて。

うむ。

合わない。


口腔喫煙が謳われている葉巻と違い、紙巻では煙を肺まで入れるのだそうだ。

私にその勇気はない。

フィルターの手前まで火の手が回った。

放置しても消えそうにないので、揉み消した。


フィルターの断面を覗くと、まだらに黄色くなっていた。



誰かに「葉巻は吸ってなぜ紙巻は吸わないのか」と聞かれたとき、紙巻を吸ったことないクセして「煙草に急かされる感じがするから嫌だ」と宣ってしまったが、あれはあながち間違いではなかった。

こっちの気を知らずにぐんぐん進む炭化、灰化。

灰もぽろぽろと落ちるから気が気でない。

勉強料が620円で済んだと思えば、安いものか。


それはそれとして、最近、本当に「葉巻」に関心があったのか、自信が持てない自分がいる。

直近の2回ぽっちの購入は、そのどちらもが失敗続きである――ほとんどが自己責任だが――ためにそう思っているのか。再び「悪くない」葉巻と出会えればそれは払拭されるのか。わからない。

しかし安価で、自分好みの葉巻と出会うために、時間と費用を浪費していいものか。

折角得られそうな新たな趣味を手放したくないと思う心の動きの源泉がわからない。




そんなこと言いつつ、週1くらいで新しいの買っちゃうんだけど。

ちなみにこの紙巻COHIBAは2本しか吸えなかった。

燃えてる最中に焚火みたいなパチパチ音もして、ちょっと怖かったし。聞きかじった知識によると、虫の卵がうえられてると弾けてパチパチいうとか。怖すぎる。

誰か消費してくれ。

ここはどこだ