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『私の発作的週末旅行』

 この話は2013年2月にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された旅のストーリーです。現在も掲載されています。そのままここに掲載いたします。現在も「みんなのストーリー」に毎月一作旅の話を書いています。これは掲載第64作目です。

 トラベラー各位にはそれぞれ、ふと旅に出たくなった時に、瞬時に思い浮かぶ旅先がいくつかあると思う。ずっと行きたいと思っていたところよりも、過去に行ったことがあり、週末などの短い時間で、そのふとした想いを実行・実現できそうな旅先である。そういう状況で、私の場合、思い浮かぶ頻度が最も高い旅先は香港だろう。台北もかなり有力な旅先だが、今のところ、まだまだ香港が優勢だ。

 限られた時間で、できることとやりたいことが瞬時に頭に浮かび、あっという間に優先順位をつけていて、気が付くと断念していることがいくつもあったりする。そんな妄想から覚めると、日常生活の一場面にグイッと引き戻される。キッチンでお湯が沸いていたり、電車で降りる駅に到着していたり・・・。

 2012年の11月の終わりに、まさにふと思い立ち、もちろん週末を利用した上で、あっという間に万障繰り合わせて香港へ行って来た。手続き直前で、まさに乗り遅れ寸前の出発便のドアが閉じられるギリギリ感を彷彿させるタイミングで、旅の神様が大いに味方をしてくれて、少々高くてもと覚悟していた金額から大幅に安い料金で行かれることになった。手続きの段階でこんなにツイていると、旅先で何かトラブルが待っているのではと恐くなるほどツイていた。

 出発当日のとある金曜日の朝、香港が大好きな母とともに羽田から出発し、現地の午後2時過ぎには香港に着いた。香港に来るのは、母は約2年振り、僕は約3年振りだった。

 事前にインターネットでチェックしていた通り、香港の天候は雨模様だった。一日中降り続くことはないだろうと思っていたので、それほど雨は気にしなかった。まあ、気にしている暇なんかないというのが本当のところだった。

 今回の3泊4日の旅で、私が最低限必実行したかったことは、

1. 香港に来たことが実感できる海鮮料理を食べる。

2. 昔ながらのカフェに行く。

3. ホテルのジャグジーに入る

・・・の三つだった。

 海鮮料理を食べるところは、いつも跑馬地(ハッピーバレー)にある竹園海鮮飯店だ。食べるものも決まっていて、蝦蛄を揚げたものとガルーパ(ハタの一種)を蒸したもの、それにシンプルな炒飯だ。

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蝦蛄。これを食べると、香港に来たなあ〜と実感します。写真下で大きさが分かると思います。

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運ばれて来てすぐのガルーパ(写真上)。弟の現地の友人も加わっての三人で食べた直後のガルーパ(写真下)。みんなで夢中で食べた感じが写真から伝わると思い、この写真を選びました。

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シンプルな炒飯。ガーリックが効いた蝦蛄の衣やガルーパのタレをかけて食べると最高です。ガルーパのタレが綺麗に無くなっている理由が分かると思います。

 トラベラーズノートのプロデューサー飯島淳彦さんとチームトラベラーズ御用達の、昔ながらのカフェ、美都餐室も滞在中のランチで、一度だけだったが、3年振りに再訪した。

 ここでは初めてマカロニスープをオーダーしたが、スープに魚の臭いが強くつき過ぎていて残念だった。以前他所で食べたものとは味が大きく違った。

 母がオーダーしたのは、何と飯島さんとチームトラベラーズ各位が好きだという「焗琲骨飯」(“グリルド骨付き豚肉ご飯”といえば伝わるだろうか)。母は周りのテーブルを一瞥して、現地の方々皆さんが食べているのを目にして、これは美味しいに違いないと確信したようだった。これは本当に美味しかった。私以上に旅慣れている母の“旅人的嗅覚”には恐れ入った。


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残念だったマカロニスープ(写真左)と絶品の「焗琲骨飯」(写真右)。「焗琲骨飯」は辛そうに見えますが、ケチャップベースのソースなので、辛くありません。マカロニスープは次回どこか美味しいところを開拓しなくては・・・。

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カフェなので、もちろんコーヒーもいただきました。一昔前の家庭で飲まれていたような、懐かしい味がするコーヒーです。

 ここにはまだまだローカル色豊かで、美味しそうなものがたくさんありそうなので、次回滞在時のランチは全てここにしてみようと思った。

 故百瀬博教さんが書いた旅のエッセイ「空翔ぶ不良」の中の「香港再見」という章は、百瀬さんが帰国当日にホテルをチェックアウトする前に屋外にあるジャグジーに入って、次はいつ訪れようかと思うところで終わる。そのホテルこそ、今回宿泊したインターコンチネンタル香港(百瀬さんが宿泊したときは、ザ・リージェント香港)であった。私も滞在中に時間を見つけて、ホテルの3階にある同じジャグジーに入った。

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写真上でお湯の勢いが、 写真下でジャグジーの位置が伝わると思います。  好天なら昼夜を問わず絶景でしょう。

 心地よい温度のお湯に浸かりながら、次はいつ来ようかとか、百瀬さんはどの角度からこの景色を眺めたのだろうか・・・とか、いろいろなことを考えた。慌ただしいながらも、こんな旅も悪くない・・・なんて思いつつ。

 他にも思い描いていたことを実行した。飲茶を楽しんだり、スターフェリーに乗ったり、ザ・ペニンシェラのバーへ行ったり、トラムのダイキャストモデルを買ったり等々。それでも、実行出来なかったこと、行かれなかったところ、食べられなかったもの等がまだまだたくさんあった。天気も含め、悔やみ始めたらキリがないので、この旅で「香港に行きたいという発作」がいくらか治まったことでよしとした。

 また発作が出たら再訪して、今回出来なかった事をリストアップした中からいくつか選んで、それら実行することで発作を治めようと思った。香港は本当に面白い。しばらくするとまた行きたくなるから不思議だ。完全に中毒だな、これは(笑)。

追記: 

このストーリーを書くにあたって、故百瀬博教さんの旅のエッセイ「空翔ぶ不良」とマガジンハウスより1992年に発行された旅行雑誌 Gulliver No.48「空翔ぶ不良、発作的香港旅行」を再読しました。今回のこのストーリーのタイトルは、そこからヒントをいただきました。

お世話になった百瀬さんがお亡くなりになって、今年でもう5年です。        命日の1月27日には生前連れて行っていただいた浅草のフジキッチンさんへ今年も行きました。百瀬さんに私と同様にお世話になり、今回の香港旅行実現に一役買ってくれた弟も今年は一緒でした。百瀬さんがお元気だったら、帰国時に空港で見つけたスノードームをお土産に持って行って、ジャグジーの話が出来たのになあと、心から思いました。合掌。


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