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『旅先で食べたもの・8』

 この話は2015年6月にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された旅のストーリーです。現在も掲載されています。そのままここに掲載いたします。現在も「みんなのストーリー」に毎月一作旅の話を書いています。これは掲載第92作目です。

「旅先で食べたもの・4」がここに掲載されたのが2012年の8月だった。投稿したのが7月で、書き始めたのはさらに前だったので、書いている時点では同年9月末にロンドンを再訪出来るとは思いもよらなかった。

 その2012年の再訪でついに・・・というか本当に久し振りに本場のフィッシュ&チップスを食べることができた。

 滞在二日目にオープントップのダブルデッカーで市内を観光した。ツアー後のランチでカフェレストランのようなところに入った。メニューにフィッシュ&チップスがあったので迷わず注文した。そのときに食べてみて感じたことが、そのロンドン再訪時のトラベラーズノートに書き残されており、読み返してみた。“ハズレ・・・。不味い・・・。油が悪い・・・。”だった。

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これです(笑)。見かけは普通なのですが油が悪かったようで残念でした。見かけでは食事としてのバランスは一応取れていますが・・・。

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2012年ロンドン再訪のトラベラーズノートのそのフィッシュ&チップスを記録したページ。“油が悪すぎ・・・。”と記してありました(苦笑)。

 思い焦がれていた本場のフィッシュ&チップスとの久し振りの再会は、 見事にイギリスの食事の伝統である“不味い!”にやられた。やってくれるなあ、イギリス!そういう意味では伝統が頑に守られ、期待を裏切らなかった。ここまでは・・・。

 その翌々日一人でパブ巡りをした。パブ巡りのどこかでフィッシュ&チップスを食べようと思っていた。ここ最近のロンドンでは、パブもただお酒を出すだけではなく、料理にも力を入れているガストロパブというものが出てきているということを「旅先で食べたもの・4」(リンクをお願いします)の中で紹介した「大人のロンドン散歩」(加藤節雄著 河出文庫)で読んでいたので、楽しみにしていた。

 パブで食べたフィッシュ&チップス美味しかった。その前日にカフェレストランでの散々なご対面が吹っ飛ぶほど美味しかった。しかし、昔に比べてどことなく上品で、スナックではなく料理に感じられたのは、この“ガストロパブ・プロジェクト”の所為だったのだろう。

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そのロンドンのパブで食べたフィッシュ&チップスです。写真にはありませんが、モルトビネガーをたっぷりかけていただきました。ここでもビーンズが添えられていました。一皿の上での栄養面、見栄えのバランスも考えてなのでしょうか。カフェで供されたフラットのお皿より、やや深めのこのお皿の方が食べやすかったです。深さを利用できるのでビーンズをフォーク&ナイフで食べる場合は特に。これもパブでの料理に対して力を入れた表れの一つではと思いました。

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そのフィッシュ&チップスも(ギネスも・・・笑)しっかりと記録しています。読み返すと、やはり約20年前と比較して感心していました。

 約20年振りに本場で食べられたという思い入れも多分働いたのだろうが、随分美味しくなっちゃったなあと思った。当時はテイクアウェイして新聞紙等にくるまれた熱々のものを食べながら歩いている人を街中で普通に見かけたが、2012年のそのときは見かけなかった。いたかもしれなかったが気が付かなかったのだろうか。街中に結構あったと記憶している専門店も覚えているだけで一軒しか見かけなかった。主にテイクアウェイして歩きながら食べるものだったのが、テーブルに着いてフォークとナイフで食べることのほうが多くなったのだろう。スナックであったものが立派な料理になったのをここでも見た気がした。

 巡ったパブの一店でメニューを貰ってきた。メニューによると、フィッシュ&チップスは何と1860年頃からあるというから歴史がある食べものなのだ。ちょっと気になり調べてみて驚いたが、日本の天ぷらのほうがもっと古いということが分かった。興味のある方はチェックしていただきたい。諸説あるようだが、天ぷらの伝来を考えるととても興味深い。

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パブで貰ってきたフードのメニューです。もちろんちゃんと断ってから貰ってきました。上部の ”GREAT” にいろいろな意味や思いが込められているように思いました。2部貰い1部は都内にある行きつけのパブのオーナーへのお土産にしました(笑)。下部にFacebookとTwitterの案内も見られます。時代ですね。

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フィッシュ&チップスのページを開いて改めて値段を見てみると、やはりスナックから料理になっているなあと思いました。フィッシュ&チップスが1860年頃からあるなんて驚きました。右下に記されているベジタリアン用のフィッシュ&チップスって興味あるなあ(笑)。

「ぐるっと・・・」を書いた際に、西川治氏のエッセイ「マスタードをお取りねがえますか。」(河出文庫)を紹介した。その本の中で西川氏は、イギリスとオーストラリアで出会ったフィッシュ&チップスのことを書いていらっしゃる。フィッシュ&チップスには旅人を惹き付ける何かがあるのだろうか。イギリスの場合はまともに食べられるものが少ない(現在では“少なかった”かもしれない)ということと伝統的な食べものとして紹介されているという事情があるが。ちなみにオーストラリア在住の友人に聞いたところ、オーストラリアにはまだまだ街中にフィッシュ&チップスのお店が普通に存在しているとのことだ。

 2012年のそのロンドン再訪から帰国後、改めて都内でフィッシュ&チップスの美味しいところを探し始めた。古き良き東京の香りをほのかに残した都内のある町にこれはという一軒を発見した。以来フィッシュ&チップスはそこでしか食べていない。他のメニューはもちろん、ビールとウイスキーの品揃えも、店主はきっとパブが気に入り、パブ好きが高じてその店を開いたのだろうなというのが感じられた。

 この話を書きながらフィッシュ&チップスとギネスの写真を何度も目にしたので、無性に食べたくなった。しかし、そのパブへの久々の再訪は、そのパブの話をして興味を持った昔からの友人を近々案内するときにと決めている

 ウォーキングを兼ねてコーヒー豆を買いに行く麻生珈琲へ行く途中にある割と行きつけのアイリッシュパブでフィッシュ&チップスをギネスでと何度も思ったが、それも自重している。

 都内で見つけたそのパブは職場から自宅への帰途にある。友人を案内するそのときまで待てずに、先に一人で最低一回は間違いなく行ってしまうのではという気が強くする。

 現在日曜日の深夜。明日は月曜日だが仕事終わりにちょいと寄ってしまおうか。暑くなってきたのでギネスも美味しいだろうし・・・あっ!月曜日はそのお店は定休日だった。友人との再会でそのパブを再訪するようにとの旅の神様のお告げかも。

 フィッシュ&チップス・・・国内でも思い焦がされてしまう不思議な食べものである。

追記:

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 フィッシュ&チップスはもちろんギネスとともにいただきました。昔に比べて随分冷やしているように感じました。本場ではやや温めで飲むもので、都内で飲むものは冷やし過ぎているものが多い(よく冷えているものも好きです)と感じていただけに意外でした。これもガストロパブのコンセプトの影響でしょうか。パブそのものについても近々書く予定でいます。    ちなみに、「「旅先で食べたもの・4」に出てきているSPITFIREは2021年現在閉店しています。


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