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『Bell Desk にて・1』

 この話は2016年5月にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された旅のストーリーです。現在も掲載されています。そのままここに掲載いたします。現在も「みんなのストーリー」に毎月一作旅の話を書いています。これは掲載第103作目です。

 このコーナーに掲載し続けていただいている旅のストーリーの100作目「旅の途中」を書き終えたときに、何か新しいシリーズを書き始めようと思った。そういう思いもあり、この話は「訪れた証」に含めようかと思ったがあえて独立させてみることにした。

 宿泊のためや食事(そのほとんどがコーヒーショップでのお茶かバーでの一杯だが)をするのに訪れたホテルで、そのホテルのロゴが入ったステッカーを貰うようになったのはいつの頃からだっただろうか。きっかけは旅の雑誌で目にしたRIMOWAのスーツケースの広告、もしくはさりげなく使われたイメージ写真か何かで一分の隙間もないほどにステッカーが貼られたスーツケースを目にしたときからだった。観光土産として入手できるステッカーも素敵だが、ステッカーを意識し始めた当時は仕事での旅がほとんどだったので、色鮮やか過ぎる観光記念のステッカーが貼られたスーツケースでは仕事に行くのに少々軽い見かけになってしまう気がして入手はしなかった。観光記念のステッカーのデザインも時を経れば変わるだろうし、例え使わなくても手元にあれば後々眺めるだけで楽しめたかなと思う。そう考えると入手しておけば良かったと思わなくもないが・・・。

 仕事の旅は空港・ホテル・仕事先・の三角形の中で大した余暇もなく限られた時間で動いて終わることを以前書いた。ホテルのステッカーを入手してスーツケースに貼り続けたのは、仕事で訪れたとはいえ旅人として訪れた証が欲しかったという心理も働いたからだと思う。ステッカーにはそのホテルのロゴと個性が表れている字体で国名、都市名のどちらかがともに入っているのではっきりとした訪れた証になるのだ。

 初めて入手してスーツケースに貼ったのはもうすっかり忘れてしまったが、香港のどこかのホテルのものだったということは間違いないと思う・・・多分。実際に貼ったものとは別にTHE PENINSULAのものが現在でも綺麗に手元に残っている。

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これがTHE PENINSULAで最初に入手したもの。楕円の形で貼れるように予め切り込みが入っています。

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2000年のミレニアムの記念のもの。2001年の再訪のときに入手したのかも知れません。

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開業80周年のもの。入手したのは香港滞在中にマカオにも日帰りで行った2009年に訪れたときだったと思います。“80”を上手くデザインしていますね。トラベラーズノートのプロデューサーの飯島さんに以前1枚差し上げました。飯島さんはどこかにお貼りになったのでしょうか(笑)。   以上3つはどれも白と金で統一されていて綺麗です。

 ホテルの部屋の備え付けの机に館内の案内や封筒や絵葉書等がひとまとめになっているファイルがある。その中にステッカーが一緒に入っていることがある。しかし、ほとんどがベルデスクで尋ねてベルボーイから貰ったものだ。その場でベルデスクの引き出しの中をゴソゴソと探って何枚かくれたり、クロークまで(恐らく中で備品を保管しているのだろう)探しに行ってくれたり様々だ。THE PENINSULAの場合は待たされることもなくサッと差し出してくれた。

 このベルデスクでのやり取りが実は旅の中で好きな時間なのだ。待っている間に、ステッカーは果たしてあるのだろうか? あるとしたらどんなデザインなのだろうか?とか考えているのは楽しい。散々待ったあげく、バゲージタグしかないんですけど・・・といわれてバゲージタグをひと掴み分差し出されたときのガッカリした気持ちといったらない。その気持ちを抑えつつ笑顔を添えて御礼を述べて立ち去る・・・もこれまで何度繰り返してきたことか。

 入手したステッカーを部屋でスーツケースを前にして位置をいろいろと考えながら貼るのは楽しいひとときだ。帰るときは来たときとは違ったスーツケースになる瞬間でもある。大袈裟にいえば、訪れた証をスーツケースに刻んだ瞬間といってもいいだろう。旅の前後では自分の中の様々な経験値も変わればスーツケースの外観も変わるのだ。

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貼る位置を考えて貼られ、旅を重ねて時を経るとこんな感じになります。 貼ってあるとずっと思っていた80周年のものは貼っていませんでした。 貼る時期を完全に逸していました(苦笑)。

 ステッカーをホテルで入手する上で自分の中で一つだけこだわりというかルールにしていることがある。それは、宿泊はしなくてもコーヒーショップ、バーなどを少なくとも一回はお金を払って利用してからステッカーを貰うということだ。そうすることはそのホテルを訪れた旅人としての最低限の礼儀であり、そうしないとただのコレクターになってしまうのがイヤなのである。THE PENINSULAに宿泊したことは1度しかないが、コーヒーショップは香港を訪れる度に少なくとも1回は利用している。2階にあるバーも訪れたことがある。バーの話はまた改めて。海外での場合、ステッカーのために世話を焼いてくれたベルボーイにチップを渡すのは改めていうまでもないだろう。

 そもそも、このステッカーの役割って何だろう? 大昔ベルボーイが最寄りの港にもいて、宿泊客の荷物が他のホテルへ行ってしまわないようにする目印として貼っていたのではないだろうかと思うのだか。当時は客のスーツケースに無造作に、客の許可を特に得ることなく貼っていたのではないかと思う。客のほうもスーツケースの中にあるものに影響がなければ外観など気にしない大らかさがあったのかもしれない。ある程度の無造作さというか適当さがないと、古い写真などで目にするあの貼り方による風合いは出ないだろうとも思う。ステッカーの多くがベルデスクにあるのは大昔の名残なのかもしれない。ちょっと調べてみようと思う。

 帰宅してスーツケースの中を空にしたあとでその旅で加わったステッカーを眺めると旅をしてきた実感が改めて湧いてくる。次はどこの国のどこの都市のホテルのステッカーが加わるのかと思うと、たとえそれが仕事での旅であったとしても楽しみになってくる。

果たして次に加わるのは再訪したところのものだろうか。それとも初めて訪れるところのものだろうか。次の旅への出発と同じくらいにどの位置にステッカーを貼るか悩む時間が待ち遠しい。

追記:                              THE PENINSULA、香港への旅・・・とくると手に取るのはこの古い雑誌と本です。

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 どちらにもTHE PENINSULAと香港も出てきます。本のほうには老舗の飲茶のお店の章で私がほぼ週一回コーヒー豆を買いに行っている千葉県市川市にある麻生珈琲さんも出て来ます。興味を持ったトラベラー各位は旅先で探しものをするようにこの雑誌と本を探してみて下さい。ちなみにステッカーですが、2012年に再訪したときにはステッカー自体もうないとベルデスクでいわれました。


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