『ついにそこへ・2 』
この話は2018年1月にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された旅のストーリーです。現在も掲載されています。そのままここに掲載いたします。現在も「みんなのストーリー」に毎月一作旅の話を書いています。これは掲載第123作目です。
この話は2018年の1月に掲載していただけるように2017年の12月に書いている。時間が自由に使える週末も残りは数えるほどになってきた。2014年に当時約7年振りに再訪した台北の旅の記録を、この話を書き始めるのと前後してようやく整理し終えた。旅ごとに出発から帰国までのあいだに集まってきた紙類、例えば、各種チケットの半券やバス等の乗りものの時刻表、食事に訪れたお店のショップカード、訪れたバーのロゴの入ったコースターなどと、撮りためた写真を時系列にノート(トラベラーズノートのリフィル)に張り付けて、それぞれコメントを付けている。旅によっては事前の友人や各所とのメールのやり取りもその記録に加えることもある。後で振り返って、こうしてストーリーを書く際の資料になるくらい丁寧に記録を残そうと、出来るだけのことをしている。
必要な写真は、デジタル化が進んだこのご時世でもデジカメやスマホを写真屋へ持って行って、記録のために好みの大きさにプリントしている。出来上がった写真はノートに貼る前にそれぞれ専用のパンチで四隅を丸く整える。こんな手作業もしているので、毎度整理に結構な時間がかかってしまう。こういう細かい作業は好きなほうだが、なかなか終わらないとストレスを感じるときもある。
普段は月曜日から金曜日まで普通に仕事をし、自由になる時間をやりくりして旅の話を書いて、月に一作ここに旅の話を投稿している。一度整理の作業を止めてから再開するまで数か月空いてしまうということを、整理し終えるまでに何度も繰り返してきた。この旅の記録に関しては、旅から戻って記録がきれいにまとまるまでになんと3年も経ってしまった。紙類と写真を時系列にまとめるだけはしておいたが、それでも3年かかってしまった。その3年の間にここに投稿した旅の話は36作になった。書いた話の数を見ても時間の過ぎ去る早さに驚いた。その旅に関してはまだ書いていないことがたくさんあるので、今後も少しずつ書いていこうと思う。
結局リフィルが2冊とショップカードを収めた名刺ファイルとレシートなどを収めたジッパーケース各1つが収まりました。
旅先で購入して余った絵葉書は必ず持ち帰り、次回同じ場所へ行く際には必ず持参する・・・を、その旅が仕事であっても休暇であっても繰り返してきた。仕事で訪れた旅先の場合は滞在日数が短くて、観光する時間はほぼ皆無。現地で見つけたなるべく実際に自分が訪れたところ、もしくは
少なくとも移動の途中で前を通り過ぎて肉眼で見たところの絵葉書で友人たちに便りを出すようにしている。しかし、許された状況下ではセットになっている絵葉書しか選択肢がなくて、仕方なくセットのものを購入した場合は未踏の場所のものでも使わざるを得ないことが多い。その際はそこには訪れていない旨を一筆加えるようにしているが、やるせないものを感じる。セットの絵葉書は一見親切でお得なようだが、私には使い勝手が良くない。
海外で最も訪れた回数が多い台湾でいえば、中世紀念堂の絵葉書は、セットのものを購入しても必ず入っていたので、かなりの枚数を使っているだろう。
これは2007年にセットで購入して残り、2014年の旅に持って行ったものです。使わなかったので持ち帰りました。次回再訪の際にまた持って行くことになります。
その2014年の台北滞在の一日、初めて中世紀念堂を訪れた。滞在先のホテルから歩いて最寄りの地下鉄の駅へ向かう前に、少し遠回りをして郵便局に寄って、前日までに書き上げた絵葉書を投函した。その旅で友人たちに出した絵葉書はその前日に半日観光をした九份のものだった。たった半日だったが、ストーリーの題材になりそうなことをいろいろと体験した。今後九份の話も書くつもりでいる。
それまでの一日半の滞在ですっかり使い方がこなれてきた悠遊カード(ICカード乗車券。SuicaやPASMOのようなもの)を使って乗った地下鉄がホームへ滑り込み速度を落とし始めると、駅名のプレートが見えた。他の駅のものとは異なり、立派なもののように映った。その違いに、これから目にする絵葉書でしか知らないその景色に対してなぜか期待が増し、気分が高揚してきた。地上へ出ると、先ずは趣のある駅のゲートが迎えてくれた。ゲートのその佇まいにさらに気分が高揚した。
ちょっと高級感のある駅名のプレートだと思いませんか?
駅のこのゲートはなかなか雰囲気がありますよね?
中世紀念堂の敷地内に一歩足を踏み入れた途端、それまで絵葉書でしか知らなかった景色が目の前に広がった。そして、想像以上に広大なことに驚き、一瞬足が止まり、しばらくそのまま立ち竦んでしまった。
中に蒋介石が座っているブロンズ像がある本堂が真正面に見える。真正面に見えるが、短い距離ではない本堂までゆっくりと歩を進めた。本堂に続く長い階段に辿りつき、その階段を上り終えると目の前に蒋介石が座っているブロンズ像が現れた。しばらく見たあとで、くるりと像を背中にして振り向くと、そこには絵葉書で見たのと同じ景色が広がっていた。
“今度改めてゆっくり来よう”とかなり長いこと思い続けてきたところをついに訪れることができたと思い嬉しくなった。その景色も想像以上に広大で、長いこと忘れていた解放感を感じ、しばらく眺めていた。高ぶった気持ちがだいぶ落ち着いてきたときに、観光スポットを訪れるのも悪くないなと思った。
その日は天気が悪くて、折り畳み傘が手放せなかった。好天ならばきっと観光客でこの広場はいっぱいになるのだろうと思った。暑いのは躊躇してしまうが、快晴の日にもう一度訪れたいと思った。広大な広場と雨模様の空に高く掲げられてはためいている国旗は、訪れたときはどちらも快晴だった北京の天安門広場とホーチミンの人民委員会庁舎前の景色を思い起させた。
広さや大きさが伝わるでしょうか?本堂の中はちょうど改修中だったので、残念ながら中には入れませんでした。 博物館的な展示もあるそうなので、“今度改めてゆっくり”来ます。
偶然手元にある絵葉書と同じアングルで撮影していました。この話を書いて写真を選ぶまで全く気が付きませんでした。広くて、大きくて開放感がありますよね?
何度も訪れた国なのに、そこには未踏の観光スポットが少なくないというところは意外に多い。休暇で海外に行く目的はそういうところを訪れるというのも一考であるとずっと思っている。旅先を決める際のキーワードは、“今度改めてゆっくり来よう”になるだろう。トラベラー各位もそのようなところをいくつもお持ちだと察する。ゆっくりと訪れることが叶わずに、指をくわえ、後ろ髪を引かれつつ後にしてきたところは外国にも国内にも結構ある。
私の場合はどうだろうか。外国の場合の“今度改めてゆっくり来よう”の最有力はシカゴだ。カブスのゲームを観にリグレー・フィールドへは行ったが、ホワイトソックスのゲームを観にUSセルラーフィールドへ行ったことはまだない。普段カジュアルな格好で外出する際に被るキャップの頻度はカブスのものよりも、ホワイトソックスのもののほうが高い。コミスキー・パークという名称の頃に訪れるチャンスがなかったことがいまでも悔やまれる。今年はあの大谷翔平選手がエンゼルスでプレーするので、ホワイトソックスと対戦しにシカゴに来ることがあるだろう。彼のプレーする姿を観るのにシカゴは穴場かもしれない。アリーナをシェアしているバスケットのブルズとアイスホッケーのブラックホークスのゲームもまだ観ていない。アイスホッケーは時差による疲労に負けて観に行かれなかったというなんとも情けない経験をしている。アメリカンフットボールに関してはワシントン・レッドスキンズ一筋なのでベアーズは特別気にならない。カンファレンスは同じだが地区が異なるので、数年に一度しか対戦しないし。再訪の滞在中に偶然・・・となっても、NFLなのでチケット入手はほぼ不可能だろう。レッドスキンズに旧知のスタッフがそのときまだ在籍していたとして、ゲームの前後に旧交を温められたとしたら、それはそれで嬉しい旅のひとときとなる。アメリカらしいスポーツバーと老舗のバーのハシゴもしたい。
国内は桜島、札幌、大分、仙台となる。札幌・大分・仙台は2002年のワールドカップの仕事で訪れたところだ。仙台以外は再訪したが、観光はしていない。桜島は鹿児島へ期限切れ間近のマイレージでふらりと行った際にバスでぐるりと回っただけだ。通り過ぎた数百円で入れるという国民宿舎にある温泉がずっと気になっている。全て“今度改めてゆっくり来よう”なところだ。
未踏の地で今年こそはと思っているところもあるが、この2018年にどれだけ“今度改めてゆっくり来よう”を実現できるだろうか。ついに来たぞという感激をいくつも味わいたいものだ。いくつか実現できても、それぞれ旅の記録の整理でまた何年もかかってしまいそうな気がする。たとえ記録の整理に時間がかかっても記憶に長い時間残る旅なら良しとしよう。
2018年もトラベラー各位にとって健康で幸せな一年になりますように。
追記:
1. 中正紀念堂を訪れた後で、昼食の牛肉麺を求めて歩き始めました。その様子は『旅先で食べたもの・12』に書きました。まさかの展開になりましたが・・・。
2.以下の話は全てこの話と同じ旅でのことでした。
『旅先で食べたもの・11』
http://www.midori-japan.co.jp/post/TRAVELERS/cv/77fe6802b026
『再会・6』
http://www.midori-japan.co.jp/post/TRAVELERS/cv/5ceafc16e117
『再会・7』
http://www.midori-japan.co.jp/post/TRAVELERS/cv/c830fe69a25a