『久々・2』
この話は2010年9月にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された旅のストーリーです。現在も掲載されています。そのままここに掲載いたします。現在も「みんなのストーリー」に毎月一作旅の話を書いています。これは掲載第35作目です。
この7月約10年振りに訪れたシンガポール。旅の最大の目的は現地の旧友たちと旧交を温めることはもちろん、一人で街歩きをすることだ。訪れたことがあるところは記憶を辿りながら、訪れたことがないところはワクワクしながら歩いた。
今回は滞在中天候不順だったので、歩き出す前に折りたたみ式の傘を買った。日本から持ってくればよかったと思ったが、今後はこの傘をスーツケースに入れっぱなしにして、旅用にすればいいと納得した。
ガイドブック、デジカメ、トラベラーズノート、暑いのでタオルも持って歩き始めた。移動は徒歩と地下鉄。時間を短縮したい時や荷物が増えてしまった場合を除いてタクシーは使わないことにした(結局今回は一度もタクシーは使わなかった)。
地下鉄の切符の買い方が変わっていて、いきなり「約10年振り」を思い知らされた。購入時にディポジットし、下車時にリファンドしてもらうなんて以前はなかった。しかし、地下鉄の駅にあるエスカレーターはどうしてあんなにスピードがあるのだろうか。あの速さではお年寄りが乗るのは大変だし、若者が乗る時に事故が起きても不思議ではない速さだった。
最初に訪れたのは、今回初めてその存在を知ったシンガポール切手博物館だ。アジア各国の郵便局は、切手はもちろん、グッズ等も充実していて楽しい。だから、楽しみにして訪れた。
博物館というくらいだから、セキュリティーが厳しくて守衛が何人もいるところを想像したが、入ってみると児童館のようなところだった。全てが子供向けかというとそうではなく、シンガポールの郵便と郵便切手の歴史的変遷が分かりやすく展示されていた。
展示は定期的に変わるようで、訪れたときには工事をしている部屋もあった。ギフトショップで売っている古い絵葉書も素敵なものが何枚もあった。ここはシンガポールに来たら必ず訪れようと思った。
シンガポール切手博物館から最寄りの地下鉄の駅を目指して5分くらい歩き、駅を通り過ぎるとラッフルズ・ホテルがある。ここは観光地化されているがシンガポールでは大好きなところだ。
宿泊客以外でも入ることが出来る部分の三階にラッフルズ・ホテル博物館がある。適度な温度に保たれた館内に一歩足を踏み入れると、ホテルの歴史を感じさせる調度品の数々、著名な人達が残した書簡の数々、古いスーツケースやホテルのラベル等が展示されている。
ここは一(いち)ホテルの博物館というよりも、「旅人博物館」として楽しめるところだ。館内に居ると自分がシンガポールに居ると感じられることはもちろんだが、自分も旅をしている最中なのだと感じられる。入場無料なのも嬉しい。
喉を潤しに有名なLong Barか Writer’s Barへ行こうと思ったが、ジーンズを履いているのに気付き、出直すことにした。ギフトショップでお土産や自分で使うものをいろいろと買って、一度ホテルへ戻った。
一休みしてからランチに出掛けることにした。過去何度もシンガポールに来ていながら一度も食べたことがないフィッシュヘッド・カレーをリトル・インディアで食べてみようと以前から思っていたので実行した。
初めて歩いたリトル・インディアは薄っすらとお香の香りがする街だった。行き交う人達もダウンタウンで擦れ違う人達とは違っていた。シンガポールにいながらインドに来たみたいだった。
目指したカレーのお店は「バナナ・リーフ・アポロ」といってフィッシュヘッド・カレーでは有名だそうだ。店内は満席ではなかったが賑わっていた。
食事をしている客の中で肌の色が違ったのは僕だけだった。インド系のある大家族が(恐らく三世代から四世代一緒に)土曜日の遅いランチを食べている様子が案内されたテーブルからよく見えた。
バナナリーフの上にライス、漬物が2種類乗ったものがスプーンとフォークとともに先に出てきた。しばらくして、フィッシュヘッド・カレーが出てきた。
一番小さいものを頼んだのだか、フィッシュヘッドはかなり大きくてカレーの量も多かった。お店の人に確かめるとこれが最小のものとのことだった。
中華の海鮮を食べに行って蒸した魚など、所謂「尾頭付き」が出てきた時一番美味しいと言われている目玉を自分がゲストだとその部分を取り分けてくれるが、そのフィッシュヘッドの目玉は結構立派だった。
フィッシュヘッドを目玉も含めて骨以外綺麗に食べられるようになるころには、向こうのテーブルのインド人達のように素手で食事が出来るようになっているのではないだろうかと思った。今回一番海外を旅しているのを感じられたのはこの時だった。
食事が終わってから街を歩きつつ、会社の女性陣へのお土産はバングル(ブレスレット)にしようと思い、一件のお店に入った。適度な値切り交渉も成立し、いい買い物が出来た。帰国して女性陣に渡した時に、どの色を取るかで喧嘩が起きなければいいなと思った。
リトル・インディアからチャイナタウンへ行った。傘は持っていたが雨が煩わしくなってきたので長い時間歩くことは止めてホテルへ帰った。
シンガポールは一つの国に他民族が共存していて、安全なニューヨークのようで面白い。これは訪れる度に思う。一般的には観光地としては1回訪れれば十分なところらしい。僕のように街歩きが好きだと、都度このように楽しめるので何度も訪れたくなる。
ラッフルズ・ホテルのLong Barと Writer’s Barへは、翌日出直してしっかり堪能した。観光客が一人も居なかったWriter’s Barでのバーテンダーとの会話は楽しかった。バーでの出来事や、その他シンガポールで食べたものに関しては回を改めて書くことにする。もちろん本場のチキンライスも久し振りに味わえた。
時間の都合で行かれなかった、世界一好きな動物園であるNIGHT SAFARI(夜しか開園しない動物園)とUNDERWATER WORLD(水族館)は次回必ず訪れたい。アラブ・ストリートも今回のリトル・インディアのようにじっくり歩いて「外国の中の外国」を感じてみたい。
旅は本当に楽しい。帰りの飛行機の中から現在まで毎日、次はどこへ行こうかとずっと考えている。
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