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『旅先のビール』

 この話は昨日2021年12月1日にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された僕が書いた旅のストーリーです。そのままここに掲載いたします。これは掲載第170作目です。

 この話の準備を始めたのは2021年の初夏。12月に一年の締めのストーリーとして掲載してもらおうと思った。テーマは台湾ビール。ちょうど某コンビニが日本限定フレーバーを出した頃だ。本文に添える写真のために都内で手に入る台湾ビールも各所でコツコツと買い集めた。

 季節が秋になりトラベラーズノートと台湾ビールのコラボレーションが告知された。スマートフォンの画面を前にして驚きと困惑で固まってしまった。驚きは長い間慣れ親しんできた両者がコラボしたこと。困惑はこの話の投稿自体の再考が必要になったことだ。

 掲載の目標が12月となると投稿するのは11月中。思わぬ展開に投稿のタイミングが難しくなってしまった。こちらが「乗っかった」ように映るのが心配になったからだ。

 別の話を書こうかとも思ったが、さらに時間が経ってからの台湾ビールの話はきっと「何をいまさら」に映るだろうと思った。悩んだ。

 悩んだ挙げ句、缶の台湾ビールをグイっと引っ掛けてあえて「乗っかってやろう」と思った。予定通り2021年締めの投稿はこの話に決めた。缶に残った台湾ビールを飲み干して書き始めた。

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この話に添える写真のために集めた台湾ビール。上段は誠品生活で入手しました。下段は某コンビニの日本限定フレーバー。某コンビニのものは店頭から一回消えましたが最近復活していました。トラベラーズノートのコラボに「乗っかった」のか?(苦笑)。上段は台湾からの輸入品。台湾ビール側も日本限定品の売れ行きを見て「乗っかった」のでしょうか?(苦笑)某コンビニのものを別にそれぞれ飲んだのでフレーバービールがどんなものか分かりました。恐らく全て未開封で賞味期限を迎えそうです(苦笑)。

 まだいくらか悶々としたものを抱えながらもこの話を書き進めていた11月の中旬に旅行作家の下川裕治さん、下川さんの旅に何度も同行して本のための写真をずっと撮っていらっしゃる写真家の阿部稔哉さん、お二人の共通の知人Hさんと一献傾ける機会があった。

 下川さん行きつけの都内の居酒屋での酒席は世間話を経て旅先で食べたものの話になった。僕が持参した台湾ビールのトラベラーズノートがきっかけとなり、話題が旅先で飲んできたビールになった。

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お二方が関わった台湾に関する旅のエッセイです。台湾好きの方は是非。

 下川さんと阿部さんの旅先といえばやはりアジアだ。アジアのビールの話になった。台湾ビール、OB, HITE(韓国)、タイガー(シンガポール)、シンハー、チャーン(タイ)、青島、サンミゲール(香港)、333(ベトナム)、中国では北京ビールだっただろうか。僕は上海のウエスティンのバーで飲んだ気がする。

 下川さんとはシンガポールのタイガーが美味しいということで意見の一致を見た。しかし、台湾ビールの評価は割れた。僕の中ではタイガーと台湾ビールは同率首位なのだが。

 タイガーといえば、航空会社に勤めていた頃にシンガポールへ商談に行ったことがあった。その商談の様子は以前書いた。商談が行われた工場内の応接室はパブになっていた。出てきたのはお茶やコーヒーではなくパイントグラスになみなみと注がれた生のタイガーだった。時間はまだ朝の9時台だった。

 その後日本離発着のアジア路線でその国のビールを飲みもののメニューに加えることになった。成田発の台北行き、大阪発の高雄行きには台湾ビールをメニューに加えることになった。

 台湾ビールにも台北で商談に行ったことがあった。タイガーと同じような展開を少々期待しながら商談に臨んだ。台湾の機内サービースのマネージャーと訪ねていったところは役所のようなところだった。タイガーのようにビール工場の中での商談ではなかった。

 役人のような先方の担当者の握手の手は湿っていた。トイレから直行してきたのだろうか。英語を話さない人だった。商談中に水の一杯も出なかったと思う。タイガーと比べると拍子抜けというより閉塞感を感じた。

 現地で機内食の準備・搭載を委託している会社より安く調達するためのメーカーとの直接交渉だった。タイガーとの商談は成立したが台湾ビールとは不成立に終わった。

 当時の台湾ビールの缶のデザインは白地に青一色で「台湾啤酒」のロゴと抽象的な模様のみ。シンプルなものだった。商談の一部始終を振り返ると、あの役所のようなところでの企画なら、公社が出しているビールのイメージのあのデザインになってしまうのが頷けた。

 少々調べてみたが台湾ビールの工場は2007年よりレストランもある観光スポットになり工場見学も試飲もできるらしい。他国のビール会社の開かれた様子を参考にしたのだろう。

 僕が商談に訪れた当時の台湾ビールのままだったらそのような門戸開放はしなかっただろう。外国企業であるトラベラーズノートとの今回のコラボレーションもなかったと思う。

 台湾は航空会社に勤めていた頃に一番多く仕事で訪れたところだった。仕事が台北だけの場合は桃園空港の目と鼻の先のエアポートホテルが定宿だった。ホテルの中も周りも何もなく宿泊客の殆どが航空各社の乗務員たちだった。

 夜9時過ぎに到着して旅装を解いて向かうのは1階のレストラン。注文するのは牛肉麺と台湾ビールと決まっていた。台湾ビールは瓶で出てきた。八角が効いたスープに入った麺を啜り台湾ビールを飲むと明日から台北での仕事が始まるのだとスイッチが入った。

 台北でも高雄でも仕事のあとの会食では、周りがワインやウイスキーなどを飲んでいても、自分が飲んでいたのは台湾ビールばかりだった気がする。休暇で訪れた際も食事のときは台湾ビールだった。

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2014年の台北再訪時に飲んだ台湾ビール。生があったとは・・・。  日本の影響だろうか。

 日本でも台湾料理屋やアジアのローカルフードが売りもののお店に行って台湾ビールがあれば迷わず注文する。普段外で飲む外国のビールはギネスが多いが、これまで一番飲んできた外国のビールとなると台湾ビールが有力だ。

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SNS用に撮った写真の中にありました。都内各所で結構飲んでいました。

 好きな旅のエッセイ集「空翔ぶ不良」の著者故百瀬博教さんは若い頃俳優の故石原裕次郎氏のボディーガードだった。裕次郎氏のいないところで裕次郎氏を怒らせてしまったと思い込んだ百瀬さんは映画のロケ中の裕次郎氏を追って台北へ飛んだ。

 個人でのパスポート取得が難しかった昭和37年に強引にパスポートを取って飛んでいったその台北行きが百瀬さんにとって初めての海外だった。結局裕次郎氏が怒ったというのは百瀬さんの誤解だった。

 裕次郎氏はビールを水代わりに飲んでいたという。日活の撮影所の食堂がドル箱スターの裕次郎氏のためにこれまでなかったビールを置くようになったという話も百瀬さんの著書で覚えていた。

 台北出張の際にその話を思い出し、きっと台北ロケの際に裕次郎氏が飲んでいたのは台湾ビールだったに違いないと思った。大瓶を一本入手して帰国後百瀬さんに台湾のお土産として届けた。その台湾ビールはお酒を一滴も飲めなかった百瀬さんの事務所の東京タワーがよく見えた窓の側にしばらく置いてあった。

 外国のビールを相当飲んだつもりだ。台湾ビールは日本のビールと遜色ない。酒屋やスーパー、コンビニで日本のビールの隣にあっても違和感はない。個人的には日本の某巨大ブランドより好きだ。ドライな意見に聞こえるだろうか・・・。

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やはりノーマルのものが一番。コンビニやスーパーにあっても違和感なし。瓶はビックカメラで、缶のほうは誠品生活で入手しました。

 緊急事態宣言が解けて間もなく、久しぶりに神楽坂の行きつけのパブに行った。酒場で飲む酒がこんなに美味いとは・・・。自宅で飲むものと同じものを飲んでもこんなに美味しく感じるとは思わなかった。

 酒場に人々が戻ってきた。かつてのような旅ももう少しで戻ってくると信じたい。

 この話のタイトルは川本三郎さんの旅のエッセイ「旅先でビール」をヒントにした。海外で旅先のホテルで旅装を解いて真っ先にバーへ向かい、その国のビールで喉を潤す。コロナ禍で忘れてしまった感覚であり、流行りの言い方をするなら、旅先でのルーティーンだ。そのルーティーンを早く取り戻したいという期待を込めて「旅先のビール」とした。その国のビールはやはりその国の空気に包まれて飲むのが一番美味いということを久し振りに実感したい。

 2022年旅が帰ってきますように。

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     2022年台湾再訪熱望。

追記:

1. シンガポールのタイガービールへ商談に行った話は以前『社会科見学』というタイトルで書きました。どうぞご笑覧ください。

https://www.midori-japan.co.jp/post/TRAVELERS/cv/4d75bf2c5bb6

2. 台湾について最近は以下のタイトルで書いています。是非合わせてご笑覧ください。

 『週末ちょっと早起きして台湾』


 『待ち焦がれて』


 『やはり気になって・・・』


3. 過去に「みんなのストーリー」に掲載していただいたストーリーをようやく全て収めました。合わせてご笑覧ください。

4.本文で触れた百瀬博教さんの「空翔ぶ不良」(マガジンハウス)と  川本三郎さんの旅のエッセイ「旅先でビール」(潮出版社)、      それから、下川裕治さんの近著「アジアのある場所」(光文社)をトラベラー各位にお薦めします。

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