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『やはり気になって・・・』

 この話は2021年11月にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された旅のストーリーです。現在も掲載されています。そのままここに掲載いたします。現在も「みんなのストーリー」に毎月一作旅の話を書いています。これは掲載第169作目です。

 9月の中旬に2回目の新型コロナワクチンの接種が終わった。既にワクチン接種が終わっていた叔母と従姉を久しぶりに訪ねることにした。我が家との距離はJRの駅でたった4つしか離れていない。コロナは近距離にいる親戚同士でさえも遠ざけていたのだ。

 久しぶりなので何か手土産を持っていこうと思った。前作『待ち焦がれて』に書いたファントワン(台湾のおむすび)を選んだ。五反田で購入してその足で届けることにした。

 一人が購入できるのは5個まで。ファントワンが大好きな母と弟夫婦には泣いてもらうことにして5個全部を手土産にした。5個あれば従姉の家族にもひとつずつ行き渡る。

 ファントワンを用意してもらっている間に食べる自分の朝ごはんはシャオピン(台湾風の焼いたパン)に卵焼きを挟んでもらったものと、黒糖入りの豆乳にした。豆乳が結構たっぷりだったのと卵焼きをダブルにしてもらったので、「デリバリー」の前に腹ごしらえがしっかり出来た。

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黒糖入り豆乳はどんぶり一杯分あったのでこのセットでかなりお腹いっぱいになりました。

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   テイクアウトしたファントワン(右)とシェントウジャン(左)

 もち米で具もたっぷり入っているファントワン5個は結構手にズシリときた。せっかくなのでお店の名物でもあり、こちらも台湾の朝ごはんの定番であるシェントウジャン(豆乳スープ)も一つだけテイクアウトした。何人かでシェアするには味見程度の量だけれど。シェントウジャンは横に倒れないように注意した。

 叔母と従姉の家は自宅で会社を経営している。通りに面している会社スペースの入り口から覗くと従姉の元気そうな顔が見えた。すぐに僕に気がつくと、「あら!」という顔をした。横にいる叔母に声をかけて一緒に入り口のところまで来てくれた。

 仕事中であることを留意して持ってきたものを手短に説明した。二人共台湾の朝ごはんは食べたことはないということだった。「よしよし、美味しくて驚くぞ」と思った。こちらの家族の様子も口早に話して辞した。

 従姉はもちろん叔母が元気そうで何よりだった。叔母は今も事務仕事をこなし、シャンとしていて足腰も丈夫。とても90歳間近には見えない。  

 その叔母が「半分にしておきなさい」という周りの声を振り切って、ファントワンをひとつ完食したというのだ。美味しくて半分では止められなかったというのを叔母と電話で話した母から聞いた。従姉の娘からは叔母がファントワンを一番気に入っていたとLINEがきた。ちょっと嬉しくなった。航空会社にいたときは休暇も出張もほぼ海外。帰る度にお土産を届けた。その頃が懐かしい。

 過日イングリッシュ・ブレックファストを食べた外苑前にある世界の朝ごはんのお店のファントワンがやはり気になった。

 実はイングリッシュ・ブレックファストをそのお店で初めて食べた際に、台湾の朝ごはんのメニューの一品であるファントワンだけのテイクアウトを試みたが叶わなかった。だから余計に気になっていた。

 再訪して実際に食べてみることにした。何だか旅先で買いものをしたお店で、買いそびれたもの、やはり欲しくなったものを求めてそのお店に舞い戻るのと同じ感じがした。

 このお店も五反田のお店同様結構な人気店。テーブルに着くまでがやや大変。お店は10席で満席。予約がきかない朝の時間帯はタイミングが悪いと店の外で並んでかなり待つ。その点はイングリッシュ・ブレックファストのときに経験済みなので心得ていた。

 ある土曜日にタイミングを計って再訪。大して待つことなくテーブルに通された。お店のスタッフにメニューを差し出されるやいなや受け取ることなく「今日は台湾を」と告げた。同時に同じもののテイクアウトを母の分としてひとつ頼んだ。母にこのお店のことを話したので、やはり親子なのか、ファントワンが気になっていたようで事前にテイクアウトを頼まれていたのだ。

 ファントワン、シェントウジャン、ダンピン(台湾風の卵焼き)が一皿に盛られて出てきた。ステンレスのレンゲと箸もお皿にのっていた。

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このように一皿で出てきます。「レストランで食べるアジアの朝ごはん」という感じです。よく見ると「一汁一菜」ですね。これで満腹になります。

 イングリッシュ・ブレックファストと同じようにワンディッシュでの盛り付けに台湾のローカル色はないが、お店のカラーが出ていて面白い。台北のビジネス街で青い目をした欧米人が食べている台湾の朝ごはんはこんな感じかもしれない。

 予めテーブルにグラスとともにセットされているカトラリーはさげられることなくそのままだった。ダンピンはナイフとフォークのほうが欧米人には食べやすいかもしれない。お店の客層が垣間見えた気がした。

 ハムとチーズが入ったダンピンは冷めないうちにさっさと平らげた。ハムとチーズにアジアより欧米を感じた。現在は台湾でもこういうダンピンが主流なのかもしれない。再訪時にチェックしよう。

 このダンピンはビールやハイボールにも合う。どこの国の朝ごはんも必ず一品は酒の肴になるものがあると思った。

 五反田のものよりクリーミーなシェントウジャンをひと口啜ってずっと気になっていたファントワンを食べた。赤いもち米のものは台北でも食べたことがなった。

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ファントワンはひとつひとつ丁寧にラップがきっちりと巻かれています。食べるときはバナナの皮をむくような感じでラップを剥がします。

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     ファントワンはラップの中からこのように出てきます。

 これも台北で食べたものに比べて握り具合が柔らかかったが美味しい。食べ慣れた白いもち米で握られたものもいいがこの赤いもち米もいい。大好きなファントワンを都内で食べる際の選択肢が増えた。

 五反田のものは昔ながらのもの、この外苑前のものは現代風なのかもしれない。台湾には黒いもち米のものもあるそうだ。再訪時に食べ歩いて食べ比べなくては。

 台湾で人集りが出来ていて壁のメニューが漢字ばかりの朝ごはんのお店に敷居の高さを感じたトラベラーは少なくないと思う。アジア好きを自負している欧米の人たちも同じかもしれない。実際はそんなことないのだが。それで美味しい台湾の朝ごはんを現地であきらめてしまった方には、この外苑前のお店で食べてみることをお薦めする。

 台湾の朝ごはんはお店で食べるよりも、どちらかといえば、テイクアウトして自宅や職場で食べるものなのかもしれない。お店で食べるにしても皿盛りではなく、注文したものがお盆の上に無造作にのっているほうがしっくりくる。テイクアウトして公園などで食べてもいい。

 この話を書く上でさらに2回再訪。台湾の朝ごはんをかなり食べ慣れてきた。あえて外で朝ごはんを食べるなら、今はイングリッシュでもアメリカンでもなく台湾だ。何となく体に合うのだ。このメニューならランチにもいい。

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再訪時にちょうど「限定のあれ」が出た直後だったので一緒に写真に収めました。台湾だし(笑)。

 この外苑前の台湾の朝ごはんのテイクアウトを五反田のファントワンが美味しいと言った叔母に届けようと思った。食べ比べを楽しんでもらえたら幸甚だ。たった3品で構成されているメニューだが、完食すると男性でもかなり満腹になる。元気な叔母は周りに止められるのを振り切って完食するだろうか。

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テイクアウトはこんな感じです。天気が良ければ公園で食べても良さそうですね。

 支払いをしながらお店のスタッフと談笑した。このお店でも顔をおぼえられつつあるようだった。どのスタッフも客あしらいが素晴らしい。こじんまりした店内の雰囲気もいい。友人・知人に薦められるお店だ。

 東京に来た外国人の友だちが日本食に飽きたと言ってきたらここを教えよう。ここに来れば旅気分を継続させながら自分が食べ慣れたものが食べられるだろう。予め教えておいたら自国の食べ慣れている朝ごはんがここ東京でどのように出てくるか気になって真っ先に訪れるかもしれない。

 お店を出て246(青山通り)を左に曲がって地下鉄銀座線の外苑前駅に戻った。銀座線で三越前へ出て食後の腹ごなしに誠品生活へ行くことにした。誠品生活の中をゆっくり歩いてもう少し「台湾気分」でいようと思った。いい週末になりそうだ。

追記:

1. このストーリーより「みんなのストーリー」への投稿が15年目に入りました。今後もご笑覧ください。

2. これまで台湾の朝ごはんについては以下のタイトルで書いてきました。是非合わせてご笑覧ください。

 『旅先で食べたもの・1』

 『旅先で食べたもの・11』

 『週末ちょっと早起きして台湾』

 『待ち焦がれて』

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「おとなの青春旅行」講談社現代新書                「パブをはしごして、青春のビールをーイギリス・ロンドン」を寄稿


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