『旅先で食べたもの・6』
この話は2014年3月にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された旅のストーリーです。現在も掲載されています。そのままここに掲載いたします。現在も「みんなのストーリー」に毎月一作旅の話を書いています。これは掲載第77作目です。
Facebookを初めてそろそろ1年になろうとしている。Twitterが流行り始めたときには全く興味がなく、Facebookもしばらく興味が湧かなかった。何だか煩わしい人間関係が私生活に入り込んで来そうな気がしていたからだ。それに何人もの友人達にやっているかどうかを立て続けに聞かれたのも遠ざかった一因だ。ご存知の通り絵葉書や手紙のほうがもともとメールよりも好きなので。一日自分が書いたストーリーをもっと多くの方々に読んでいただきたいと思ってやってみることにした。思っていたほど開始したことで後悔することは今のところ起こっていない。かえって良かったと思えることばかりなのでありがたい。懐かしい方々との交流の復活、昔からの友人を介してのいい出逢いもあったし、日々の雑感の発信はストレスを解消してくれる。逆にストレスをいただく場合もたまにあるけれど。
私のストーリーによく登場するシンガポールの友人Johnとは食べ物やお酒等の写真をお互いにそれぞれアップした際に、コメントでインターナショナルな漫才を繰り広げている。やり取りは英語なのだがそれを見て楽しんでいる“ 友達 ”も少なくないようだ。
Facebook上の私の “ 友達“ はごく少数だが、インターナショナルな感覚をお持ちの方が多い。ほぼ全員かもしれない。たまにJohnがアップするシンガポールのローカルフードの写真を所謂シェアをしたり、改めて私のコメントを添えてアップすることがある。これが意外なことに、他の食べ物に比べて方々からの反応が思いのほか薄いのである。チキンライス、ラクサ、キャロットケーキ・・・どれも美味しいのに。
このストーリーの完成間近の時点で状況は少々変わってきたが、自分では食べたことはない見かけが美味しそうなスイーツをアップしても反応は薄い。食わず嫌いなのか、それともその食べ物に嫌な思い出があるのだろうか。以前書いたチキンライスとスイーツ以外は今後このシリーズで書く予定である。
このフィッシュ・ヘッドカレーもアップしたとしたら恐らく反応が全くないだろう。
これを食べました。店名にあるバナナの葉に白飯に添えられているのは二種類の漬け物です。バスケットに入っているのはエビの味がするせんべいのようなクラッカーのようなものでした。飲み物はコーラです。恐らく私が外国人なのでスプーンとフォークが予め添えられていました。
これはシンガポールのリトル・インディアにある有名店「バナナ・リーフ・アポロ」のフィッシュヘッド・カレー。これを食べにダウンタウンから地下鉄に乗ってリトル・インディアまで出かけて行った。
自分の子供の頃からの食生活を顧みると、こういったものを食べることは考えられない。しかし、旅を重ねて好奇心が旺盛になっていったからこそ、現地の食べものに興味が湧き、このような見たときに一瞬ギクリとする見かけのものにも食指が動くようになったのだ。
これを食べに行ったときは土曜日の昼下がりで、店内にはインド系のある大家族が三世代から四世代一緒ではないかと思われるほどの人数で集まって上品にランチを食べていた。もちろんスプーンもフォークも使わずに。店内で肌の色が異なるのはお店のスタッフも含めて私だけ。インドへはまだ行ったことがないけれど、店内は完全にインドという感じであった。
地下鉄のリトル・インディア駅を降りた途端に独特のお香に似た匂いがして、辺りの様子の変化を意識し始めた。そこへ行くために地下鉄に乗ったダウンタウンや大好きなラッフルズホテル周辺とは目の前の景色は異なっていた。さすが多民族が共存するシンガポール、ちょっと地下鉄に乗っただけで外国へ到着だ。これはシンガポールでは普通のことであり、異国の日常を経験出来たのだ。興味を持った食べものに導かれて、異国情緒をさらに異国で味わうことができた。旅の中でさらに旅をしたような不思議な気分だった。
一番小さなサイズを注文して写真のサイズだったので驚いたが、それでこのカレーを食べに来る人たちの食事量が少々理解出来た気がした。大家族で楽しそうに食事をしているインド系の方々のように、実際にはやらなかったが、素手で食べてみようかと食べながら思い始めていた。普段しないこと、出来ないことをするのが旅の楽しみでもあるのだし。ただ出て来たものを食すのではなく、当たりを見回しつついろいろと思いを巡らせながら食すのも旅先ならではであろう。もしそこで私が素手で食べ始めたとしたら、それに気付いたその大家族の方々の一人が素手での上手な食べ方教えてくれて、それが切っ掛けとなり交流が生まれたかもしれない。旅先で食すローカルフードは旅人にここまで思いを巡らせてくれるのだ。
話は飛ぶが、以前何かで読んだ、「一人で行くのが旅、複数で行くのが旅行」というのは感覚として、私は100%同意である。どちらもそれぞれいいところがたくさんある。一人で行くこのような旅も、今まで重ねてきた家族や友人達との旅行も同様に好きである。ただ、旅好きと旅行好きは意味が違うのだということは、様々な場面での会話で例えお腹の中で「一人で行ってから旅っていうべき」と思っても口には出さないようにしている。なぜなら、これはあくまでも感覚の問題なので。しかし、旅好きを自負して公言するなら、ツーリストではなくいつまでもトラベラーでいたいと私は思う。トラベラーであるからこそ、興味を持ったその場所の情報を自分で集め、実際に自分一人の足で途中迷いながらも訪れてその土地のものを試す・・・これが楽しいのだと、何度見てもその見た目が強烈な異国のカレーの写真を改めて見て思った。
シンガポールは一度訪れてしまえば十分なところだとよく耳にする。チャイナタウンもリトル・インディアもアラブ・ストリートもあるのにたった一度訪れただけで、こういうところと判断してしまうのはもったいなく、一度では楽しみ尽くせないところだと以前から思っている。トラベラー各位にもう少しこの国に興味を持っていただき、それぞれお持ちの “ いいね!” な場所の一つに加えて欲しい。
私の書いた話を読んで下さる方のほとんどが旅人なので、今回のこのストーリーに対する反応がいつもより楽しみである。
私にとってフィッシュヘッド・カレーというと必ず思い出すシンガポールの方がいる。前述のJohnにも関わりが深いその方とシンガポールの高級ホテルの話を本当は書くつもりでいたのに、何だか今回は途中からやや熱く語ってしまった。多分書いている途中で甦って来たフィッシュヘッド・カレーの辛さがそうさせたのかな。
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