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『週末ちょっと早起きしてアメリカ』

 この話は2021年4月にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された旅のストーリーです。現在も掲載されています。そのままここに掲載いたします。現在も「みんなのストーリー」に毎月一作旅の話を書いています。これは掲載第162作目です。


 年に数度ハッとしてパスポートの有効期限をチェックする。海外出張が多くてパスポートがないと仕事にならなかった頃の習慣だろうか。

 アメリカ入国の際にESTAが必須となったのは2009年。航空会社から転職した二つ目の正社員の仕事で2006年に訪れたワシントンとニューヨークが私の直近のアメリカだ。今日までまだESTAを申請したことがない。

 この2021年にトラベラーズノートが発売15周年を迎えた。トラベラーズノートが世に出た2006年以来自分はアメリカを訪れていないことになる。もう15年か・・・。航空会社にいた頃に最低でも二ヶ月に一度仕事でミネアポリスを訪れていたのに15年もご無沙汰なんて・・・。

 仕事でも休暇でも訪れたアメリカで迎えた朝の数だけアメリカンな朝ごはんを食べたとすると結構な回数だ。

 トースト

 スクランブルエッグ

 ベーコン

 ハッシュブラウン

 オレンジジュース

 コーヒー

 アメリカ滞在中はどこでも朝ごはんはほとんどがホテルのビュッフェだった。毎朝ほぼ同じこのメニューだった。

 子供の頃家族で何度も訪れたハワイのハワイアンリージェント(当時)では新鮮なオレンジジュースと。日本より大振りなマフィンを明治生まれの祖母が美味しそうに頬張っていた姿が目に浮かぶ。

 仕事で何度も訪れたミネアポリスのエアポートヒルトンやホリデイインではベーコンよりソーセージを多く選んだ。少々ピリッとしたのでメキシコ風のチョリソーだろう。ローファットミルク(低脂肪の牛乳)を初めて飲んだのもミネアポリスだった。コーヒーを自分でカフェオレにする際に使った。ローファットミルクなんて航空会社に入って機内食の仕事をするまで知らなかった。

 休暇で訪れたシカゴでは朝ごはんの評判の良かった日航ホテル(当時)の朝食ビュッフェが思い出深い。滞在先のホテルからシカゴのダウンタウンの朝の空気を吸いながら母と歩いて出かけて行った。また行きたいなあ、シカゴ。ESTAを初めて手にしてのアメリカ再訪はシカゴがいい。

 目の前で好きなように卵を料理してくれる卵専門の料理人がいる朝ごはんはそのシカゴが初めてだったと記憶している。以後どこの旅先でも、ホテルで朝ごはんを食べることになった際は卵専門の料理人がいるかどうかをレストランに入って先ずチェックするようになった。

 この話を書くにあたって調べてみたが、卵専門の料理人がいるコーナーをエッグステーションというらしい。エッグステーションで本当に通じるのだろうか。次回「エッグステーションはあるか?」と海外のホテルで朝ごはんの場所を尋ねる際に聞いてみようと思う。卵が大量に届く貨物駅はこの辺りにはありませんなどと答えられたらどうしよう・・・。

 スクランブルエッグが好きなのだが、エッグステーションを知ってから、ビュッフェによくある銀色の大きくてやや深みのある容器(ビュッフェプレートというらしい)に入ってライトが当たっているややドロドロしたスクランブルエッグに全く食指が動かなくなった。

 JR上野駅の中にあるハードロックカフェでは朝ごはんが食べられることを思い出した。上野駅の中のハードロックカフェが世界中のハードロックカフェの中で唯一駅の中にあり朝ごはんを出しているところということも(現在は不明)。きっとこれまで食べてきたアメリカンな朝ごはんが食べられるはずだと思った。週末にひとりで行ってみることにした。

 中央改札を出ると勝手知ったるハードロックカフェが左前方に見える。上野駅のハードロックカフェといえば、上野で美術展を観た帰りや、さいたまスーパーアリーナでのライヴの帰りによく立ち寄るところだ。六本木より自宅から近いのでかつてはバーだけを利用しによく訪れた。

 店の前まで来ると朝食のメニューを知らせるボードが出ていた。四種類あるメニューの中に望んでいたアメリカンブレックファストを真っ先に見つけた。

トースト

スクランブルエッグ

ベーコン

ハッシュブラウン

 写真のアメリカンブレックファストのお皿の上には全て盛り付けられていた。一つしか選べない飲みものはコーヒーにした。ビュッフェで100%フレッシュだったらオレンジジュースも取っただろう。

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入り口ではこんな感じでメニューが待っています。見辛くてすみません・・・。

 テーブルに案内されるや否やウエイトレスがメニューを出す間もなくアメリカンブレックファストを注文した。飲みものはホットコーヒーでと告げた。写真の卵が目玉焼きだったらきっとスクランブルに変えられるか聞いただろう。目玉焼きも好きだが海外で目玉焼きを食べた記憶がほとんどない。

 店内をぐるりと見回すと見慣れたハードロックカフェではあったが、朝は雰囲気が異なった。アメリカのダイナーを思わせる雰囲気だった。ハードロックカフェの雰囲気を守りつつモニターの映像も音量も朝を意識しているのが窺えた。

 コーヒーだけ最初に運ばれてきた。酸味のないミルクを入れてもコーヒーが負けないやや深煎りのコーヒーだった。アメリカンな朝ごはんを食べにきたが、薄くて酸味のあるアメリカンコーヒーじゃなくてホッとした。

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コーヒーカップにソーサーではなく、朝ごはんではやはりこの形のマグカップがしっくりきますよね。

 満席ではなかったがテーブルは結構埋まっていた。客層は夜とは異なっていた。ターミナル駅の中のお店だけあって、上野に到着したばかり、あるいはこれから出発するように見受けられる人がほとんどだった。どのテーブルも多くて二人だった。

 朝はトラベラー御用達のお店なのかもしれないなどと思っているうちにアメリカンブレックファストが出てきた。ビュッフェで皿に自分で盛ったのとは違い、流石にレストランのディッシュアップだった。

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こんな感じで出てきました。自分で盛った場合想像してこれが適量なのかと少々反省(苦笑)。

 スクランブルエッグに醤油をかけるのが好きなので醤油をもらおうと思ったがウエイトレスを呼ぶ前に一口食べてみた。醤油がいらないくらい塩味がしっかり効いていた。

 ベーコンは定番のカリカリではなくハムステーキのようにグリルされていた。ここのベーコンの定番がこれならまた食べに来たいと思った。

 アメリカンな朝ごはん、外で朝ごはんを食べているなと思わせてくれるのがハッシュブラウンだ。これも好きだが家では食べることがないし、あえて冷凍ものを探すこともしない。年に数回訪れる「朝マック」で選ぶくらいだ。ハッシュブラウンもアメリカンな朝ごはんのレギュラーメンバーだ。

 コーヒーをおかわりして食休み。ここも旅先を感じさせてくれるお気に入りの朝ごはんのスポットのひとつになると思った。

 トラベラーズノートを携えて行き、食事の前後にこれからの旅の計画を立てたり、これまでの旅を振り返ったりするにもいい場所だ。なるべくひとりで訪れることをお薦めしたい。

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旅先でのある日の朝ごはんの一枚はこんな写真になるのではないでしょうか。

上野駅の中なのでアクセスは申し分ない。食後に美術館や動物園、不忍池に行ってもいいし、アメ横の散策もいい。銀座線に乗ればわずか三駅で浅草だ。

 席まで案内してくれた女性は朝の時間帯の責任者だったようだ。勤めて15年ほどになるそうで、私が着ていた25、6年前にシカゴのハードロックカフェで買ったGジャンのロゴを見て懐かしいロゴだと会計のときに言った。

 その会話も旅先を彷彿させた。海外でどこか別の都市名の入ったハードロックカフェのTシャツを着ていたらその都市のお店についての会話が会計時に始まるはずだからだ。

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シカゴ・ホワイトソックスのキャップとこのGジャンで今回朝ごはんを食べに行きました。ロンドンでもニューヨークでもなく何故か無意識にシカゴでロゴ入りのGジャンを買っていました。

 次は有給休暇を取って平日に訪れてみよう。朝ごはんを食べながらゆっくりその日の計画を立てれば、そのひとときは旅先の朝と同じになるだろう。旅先と同じような雰囲気で同じような朝ごはんを食べた休暇の一日はどんな一日になるだろう。

追記:

1. ハードロックカフェが舞台の話はこれまでに「訪れた証・3」、   「思い出の場所がまたひとつ・・・」というタイトルで書きました。

2. シカゴが舞台の話は「100」、「お使い・2」というタイトルで書きました。

3. シカゴが舞台の私が書いたこの話は現在も講談社現代新書のサイトに掲載されています。

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「おとなの青春旅行」講談社現代新書                「パブをはしごして、青春のビールをーイギリス・ロンドン」を寄稿


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