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『Still Alive』
この話は2014年12月にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された旅のストーリーです。現在も掲載されています。そのままここに掲載いたします。現在も「みんなのストーリー」に毎月一作旅の話を書いています。これは掲載第86作目です。
嬉しい再会や出逢いが多かった2014年。悲しいお別れも多々あった。この話の仕上げに入った頃に喪中のお知らせが届き始めた。しばらくご無沙汰してしまっている方々もそれぞれ悲しいお別れをしていたのだと、しみじみと思った。
今年の3月に安西水丸さんの逝去を知ったのは職場でたまたま点いたテレビから飛び込んで来たニュースだった。私よりもずっと氏と親しかった方々にすぐに連絡した。事実だと知ったときは本当に残念だった。安西水丸さんについては「本屋にて」「巡り巡って・・・」に以前書いた。
いただいたサインと名刺です。氏との出会いについては本文のリンクから「本屋にて」をご笑覧下さい。
イラストレーターの和田誠さんが週刊文春の表紙と、表紙にした絵の解説「表紙はうたう」で、週刊朝日が氏の作品を表紙して追悼していました。 いつも大変お世話になっている麻生珈琲のオーナー麻生洋央さんも、千葉県市川市のこのタウン誌のご自身のコーヒーカップに関する連載の中で、氏の思い出を語っています。
11月初めの連休に、閉幕ギリギリになってしまったが、「安西水丸 地球の細道 展」に行った。場所は千駄ヶ谷の駅から10分程歩いたところにある今風のギャラリー。中に入ると、そこには見慣れたタッチのイラストがズラリと壁に並んでいた。奥からは何故か氏の声が聞こえて来た。ギャラリーの一画がミニシアターになっていて、そこで氏が海外の芸術家達を訪ねて行った昔のNHKの番組を流していたのだ。流れて来る故人の肉声に時折耳を奪われつつ作品の数々を眺めていると、故百瀬博教さんにご紹介いただいて、百瀬さんのところで何度かお会いしたときのことを思い出し、少々涙腺が緩くなってきたのが分かった。それに、作品を見る前に、ギャラリーの中央に同じく展示されていた氏の遺品である愛用の黒縁のメガネや万年筆などを目にしていたからかも知れない。メガネも万年筆も氏の旅のお供だったに違いない。
この展覧会は母が新聞で見つけて、その記事を切り抜いておいてくれて、 教えてくれました。写真下は展覧会のチラシとチケット。
ペンケースは僕の私物で氏が愛用していたのと同じブランドのものです。全く同じものは既に生産中止で、そのときに入手出来た氏が愛用していたもに近いものがこれです。万年筆を入れて、もう6, 7年使っています。
「地球の細道」は建築誌であるGA JAPANに15年に渡って掲載された、氏のイラスト付きの旅のエッセイである。国内から海外までそのエッセイの舞台となったところは様々である。
そのエッセイの所謂生原稿やイラストを一つ観ては次へと繰り返していると、様々なところへ連れて行って貰っているような感覚になった。
その旅先は有名な観光名所もあれば、国内の城跡、外国の小島の突端など様々だ。国内も含めて、こんなところも世界にはあるのだというところがいくつもあった。展示を隈無く観た後で、これは自宅でも味わってみたいなと思い、既に単行本になっているその一冊を求めて書店へ急いだ。
そこに展示されていた作品を全て観て感じたのは、先ず作者が旅をすることも絵を描くことも、その両方を心から楽しんでいることだ。そして、ただ楽しんだだけではなく、非常に丁寧に親切に絵と文章で表していることにとても感心した。
ああ、だから百瀬さん(故百瀬博教氏)とずっと親しかったのだなと合点がいった。どちらかといえば強面だった百瀬さんも、人には非常に親切で、物事に一つ一つ丁寧に向き合っていらした方だったからだ。
親切・丁寧に表すということは、素人ながらこうして文章を書いている私も強く意識しようと思った。特に旅先の様子やその面白さ等を伝える際には、訪れたことがない方々に読んでいただくことを想定して、読む方々の想像を邪魔しない程度に、説明や描写が多少口説くなっても、丁寧に親切に書こうと決心した。そして、楽しむことを忘れずに。書き手が楽しんで書いていないものは、読み手が楽しんで読めるはずがないのだ。それは、絵やお芝居、それに音楽でも同じはずだ。
氏の遺作を拝見して、このように感じられたときに、何だか送って下さったメッセージを受け取った気持ちになった。
この本は私を初め、トラベラー各位にとって、最高の旅行ガイド(とても陳腐な表現だが)でもある。それも先人が実際に訪れて、その場所の絵まで描いてくださっているのだからこれ以上の説得力はない。ここには行ってみたい、ここは絶対に行こうと思ったところに付箋を貼りながら少しずつ読み進めている。まだ行ったことがないところのページになると、氏から「次はここへ行ってみるといいよ」とか、「ここへ行って欲しいなあ〜」と語りかけられているような気になる。
「地球の細道」安西水丸著 GA刊 松尾芭蕉は旅先で句を詠み,紀行文とともに後世に残しましたが、安西水丸さんは旅先で絵を描き、その絵に素敵な解説を添えて我々後進に残してくれました。トラベラー各位、書店へ急げ(笑)。そのくらい言いたくなる一冊です。
ベージを繰る度に、景色が変わるように様々な感情が湧き、とても大切にしたいもの、次の世代のトラベラー達に伝えたいものを託された気になった。安西水丸さん、本当に格好良かったなぁ。
この話を書き終えて、投稿したら短い旅行に出る。東京に戻る頃には師走になっている。トラベラー各位も年末年始に旅行や旅を計画なさっている方も多くいらっしゃることだろう。
トラベラー各位、どうぞ良いお年を、そして、よい旅を。また2015年にここでお会いしましょう。
追記: 時を同じくしてもう一つ展示が銀座のギャラリーでありました。限られたスペースを有効に使い、氏のイラスト、著書、生原稿、コレクションしてらしたウィローパターンの食器やスノードームが展示されていました。こちらも素敵な展示でした。
その展示のチラシと、二つの「安西水丸展」について書かれた新聞記事です。