23区外!爆走お母さん

本日、わたくし母という立場を忘れて爆走させていただきます…!

朝の支度はスムーズだったはずなのに、なぜ出る間際にTシャツにこだわってしまったんだろう。探したり着替え直したりしてるうちに最終出発時間を過ぎて、時計は未踏の時間を指し示していた。

始業まであと「30分」

体に緊張が走り肛門が便意のようなむず痒さを覚える。わたしの脚で通常「30分」の道のり。全力出し切っても「28分」
それ以上のタイムは越えられたことがない。つまり物理的に遅刻しないことは不可能に近い。この世界で、どれだけ高く翔ぶことができるだろうか…?

なりふり構っていられない。もう、原付のあんちゃんの肩に手をおかせてもらうほかない。とにかく、全身全霊をかけて自転車を漕ごうと決意した。気休めだけど子供椅子の雨カバーはファスナーを開けてせめてもの空気抵抗を少なくしよう。

初夏といえども早朝の気温は低い。16度程度ではまだ私には耳当てと手袋が必要だ。首、手首、足首の〝三首〟も滅法弱くなったので保護を忘れない。冷えるとみるみる元気がなくなってしまうのだ。
5月に耳当てをするわたしを通りすがりの人は奇異の目で見る。しかしこんな早朝に出歩いてる貴方のことも、奇異の目で見てますよ。深淵。

そして紫外線は希代の天敵。いつか笑った、ターミネーターのようなサンシェードをかぶる女性が草葉の陰で笑ってる。ティーンたちよ、いつかくる道。時が来れば全てを理解するのだ。突然成るのではないの、徐々に迎合してしまうの。

ちょっと前置きしておきたい

電動自転車は、いわばバイクと考えて良いと思う。軽い一漕ぎで驚くほど簡単に進むので爆漕ぎ時も通常時にも事故には気をつけねばならない。

天気のいい日は特に注意。出歩く人が増える上に皆ポワァとして空など仰いでいるのだ。陽光を楽しみながらよそ見をして角を曲がってくるので、曲がり角手前で待っておきたい。
躊躇いがなければベルを控えめに1音鳴らしてやるのも手だ。人はそれぞれが人生の主人公。よそみくらいは自由が欲しいだろう。

もうひとつ危険なのが生垣に座り込んで休憩している婆さんだ。彼女らは小柄でいて彩度の低い水彩画のような服を好んで着るので、植木の影に潜むとまるっきり擬態してしまうのだ。自転車に乗る小学生の突然の方向転換も背筋を凍らせるが、彼女らは信号が変わった刹那すっと姿を現すので、さながら神話の麒麟だ。横断歩道前では減速しておくか大事をとって車道側を走ろう。個人的な回想シーンとなってしまったが車道にある自転車ゾーン、には思うところがある。

確か一時期は自転車は車道側を通ろうとなったがある時期から「どちらでもいい」となったはずだ。2020年時点の情報は知らん。

狭い歩道は自転車にとっても歩行者にとっても危険だ。しかし車側もさぞかし邪魔であろう。気持ちは分かるが「どうだこわいだらう」ばりにスレスレをゆく車はいかがなもんか。一応専用道路と銘打ってるわけだし接触でもしたらあんた負け戦よ?こちらも絶対にビックリした顔をしないようにはしているが面白くないわー(ただの私怨)

どんなに急いでいても信号無視はなるべくしない。いくら空いてる早朝とて、「突然」はやってくるのだ。それに負ける(道路交通法で不利になることはしたくない)あと怪我するとテンション下がる。頭の中を怪我で支配されるのが嫌。

そう、できる限りの範囲で時間短縮を目指すのだ。 
信号が赤なら、青側の逆サイ歩道に一度渡り再度こちら側に越境すればいいじゃない。
調布レディは止まらない。

車道を大きく横断する時は背後に気をつけ、センターラインとなんらかの線の重なる部分を前輪で必ず踏んでスピードアップのマスを踏んだような精神状態に陥らせ、太ももに頑張れと声をかけ続ける。心なしか発光しているようにも見える。電動自転車には速度制限がかかるが最早わたしには関係ない。間に合わせるしかないのだ。

こうして殆ど止まることなく職場最寄りの駐輪場に到着。ここで時計をチェックするなんぞ愚の骨頂。タイムロスに繋がる。最後まで走り切るのだ。 
脳内でイメージした通りに体が進まない経産婦。派手に水しぶきをあげるが進まないバタ足のよう。

走り抜いて打刻ボタンを押す寸前の時間…

始業10分前。

「は?」いやいいのだけど。どこでワープした?打刻2分前くらいになっちゃうかなーって思ってたわ。火事場のクソ力おかしいでしょ。

そこへ上司がやってきた。
「俺原付で来てるんだけどさ。スンゲー速さで自転車漕いでる人がいて、顔見たらゼラチンじゃん。自転車できてんの!?あんっっっな遠くから?俺は無理だわーあの距離行けるかなって考えたこともないわ。」

あんな人非人のような心に成り果てるようや爆漕ぎは二度としたくないが、所要時間を上司お伝えしたところ、無垢に驚いてくれたのでお母さんなんだかやりきった感。ほんっともうやりたくねー。 

#キナリ杯 #申し訳ありません

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