揉み手ラーメン

普段は自宅で仕事をしているが、昨日は月に一度の出社日だったので、会社に行った。

折角外へ出たのだから、会社の近辺で夕飯を済ませてから帰ろうかとぼんやり考えながら働いていたが、そうしているうち時刻は瞬く間に23時を迎えてしまったので、諦めてひとまず帰りの電車に飛び乗った。

とにかく腹が減っていた。帰ったら何を食べるか考え続けているうちに、途中の駅でサラリーマンの3人組が乗車してきた。
見たところ、1人は20代後半か30代前半の中堅平社員で、残りの2人は4,50代の、それなりに地位の高そうなおっさんだった。でかい会社の仕組みはよくわからないが、多分課長とか部長とかその辺りの役職に就いていそうな印象を抱いた。

全員、月曜日とは思えないレベルで酔っぱらっており、でかい声で何かを話し続けていたので、車両を変えようかと思ったその矢先。俺は若いサラリーマンのある仕草に気が付き、途端に目が離せなくなった。

彼は偉そうなおっさん達に対して、ひたすら揉み手をし続けていた。イヤホンをしていたので、具体的に何を話しているのかは聞き取れなかったが、ニコニコしながら、「へい、仰る通りでゲス」みたいなことを言ってそうな勢いで、ひたすら低姿勢で手を揉み続けている。

それを見て、何だかよくわからないが、俺は感動した。"Karoshi"を国際的な用語へと至らしめたJapanese Traditional Salarymanの神髄を見たような気がして、激しく気分が高揚した。そうだよ。月曜からおっさんと酒を飲み、彼らの発言を手を揉みながら全肯定し、そうやって出世して、今度は下の世代に同じことをさせていけばいい。俺たちサラリーマンってそういうもんだろ?

そんなことを考えているうち最寄り駅に到着し、気付けば酔っぱらったサラリーマン達はどこにもおらず、とっくにどこかの駅で降りていたようだった。

そうだ、俺は腹が減っていたんだ。改札を出た俺は自然と、ある飲食店に向かって歩みを進めていた。一度も入ったことのない店だったが、その時は本能が、今日の食事はここでしかあり得ないと強く訴えていたのだった。

手もみラーメン 福しん

青椒肉絲と福しんサワーを注文し、あのとき手を揉み続けていた若いサラリーマンを思って、一人で乾杯をした。


いいなと思ったら応援しよう!