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【雑記】沈黙のやぶれ――ふらっと集まれる作業通話アプリ「mocri(もくり)」が生み出す、イレギュラーな対話の可能性
■ 在宅と作業通話
一都三県では二度目の緊急事態宣言が発令され、ふたたび在宅中心の日々が始まった。対面で人と会話できる機会がより少なくなり、新しい交流は堰き止められたままだ。
昨年からの在宅中心の日々では今ある関係性を大切に結び直すための時間となっている反面、これまで自明に存在していた場が縮小したことで、新たな輪に参加する機会の芽はごっそりと摘まれてしまったように感じる。
しかし、偶発的な形で出会うことができた交流の場もあった。「mocri(もくり)」という作業通話アプリだ。かつてコミュニティサイトとして一世を風靡した「mixi」によって運営されている。
霊長類フリーマガジン「【EN】ZINE」の編集作業をしていた頃、寄稿者さんに教えて頂いたことをきっかけに使い始めた。実験的な要素を持つアプリであり(後述する)、今も試行錯誤しながら使っているが、交流のプラットフォームとしての居心地の良さを感じ始めている。
■ 黙る通話アプリ
「mocri」は、一見すると奇妙なアプリでもある。
「もくり」――「黙り」を連想させるようなサービス名称に加え、アプリの紹介ページには以下のような文言が躍っている。
作業通話でこんなお悩みありませんか?
・ 短い作業時間の時は友達を誘いにくい…
30分だけの短い作業や夜の遅い時間だと、友達に迷惑がかかると思ってしまい、誘いづらい。
・ 喋ると作業が進まないが、1人でするのも辛い…
ネームや原稿などの集中が必要な作業では、友達と喋ると進まないので1人で作業を進めるが、黙々とやり続けるのは辛い。
そんなお悩みをmocriが解決!
音声通話アプリを開く場面では、「人と時間を共有しながら、何かを実行したい」という欲求が背景にある(少なくとも私はそうだ。)。
書き、読まれるのにタイムラグが生じるテキストベースのやり取りに対し、音声通話アプリから漏れ聞こえてくる作業音や生活音、何気ない挨拶には即時性とハプニングがつねに伴っている。喋り始めるきっかけが自明に存在している。
しかし、「mocri」がアプローチ先として具体的に想定している時空間は、「喋りたいけれど、喋れない」という状況だ。実際、電話をつなぎつつも作業への集中を意識付ける「集中モード」機能も搭載されている。
喋ることにためらいが生じるような条件下で、それでも誰かとつながろうとすること。この二律背反的な状況に溶け込んでいるのが、mocriというアプリの面白さではないかと考えている。
■ 裂け目を生みだすUI
黙々とした作業の場面を使用シーンに想定している「mocri」には、一方で偶然のコミュニケーションを誘発する小さな仕掛けがいくつも組み込まれている。
まず「フリースペース機能」はログインするだけで誰でも参加できるよう設定することができ、自由度が高い。(もちろん参加者を制限することもできる。)さらにtwitterとの連携機能により、参加者のアカウントから人となりや活動について窺い知ることができる。
もうひとつの特徴は、新たな参加者が入室した時やメッセージを投稿した時に鳴る軽快な操作音だ。ポップな操作音により投稿することに対する心理的障壁はかなり軽減されるように感じられる。
「他者のまなざしを感じつつ黙々とした作業を行うことを促進するツール」という側面だけではない「コミュニケーションの裂け目」が、これらの意匠には織り込まれていると思うのは私だけだろうか。
■ 解釈違いを楽しむ
「喋らない」アプリというコンセプトでありながら、実際の運用の中では会話のきっかけになるような機能も織り込まれた「mocri」。
先に書いたように、この一見矛盾しているかのようなデザインは、利用者を立ち止まらせ、考えさせる。ほとんど喋らず集中するために利用する人もいれば、気軽に喋るために利用する人もいる。フリースペース機能の運用方針や形態は利用者によってかなり色合いが変わってくる。
そこにはざらりとしたコンフリクトがあるように見えるかもしれない。しかしポップで柔らかいデザインが緩衝体となり、使い方の解釈の違いを議論するよりも、許容し緩やかにつなげていくような「文化」がユーザー間で生まれつつあるように感じている。
ヒトは沈黙し続けることが耐え難い生きものでもある。「mocri」の「集中モード」も常に集中していることを要求する機能ではなく、「集中」と「休憩」を波のように繰り返す。
沈黙が途切れた時、どんな会話が生まれていくだろうか。そんなことを考えながら「mocri」を開くのが楽しみになっている自分がいる。緩やかな交流ツールとして活用しつつ、長い在宅の日々を乗り切っていきたい。