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【園館等訪問ルポ】愛玩鳥たちの「野性」――キャンベルタウン野鳥の森(埼玉県越谷市)

東武スカイツリーラインの北越谷駅で降りて10分ほどバスに乗ると、巨大なテントのようなバードケージが見えてきます。

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 このバードケージを中心にした施設が、越谷市の運営する「キャンベルタウン野鳥の森」(以下、「野鳥の森」と表記)です。

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 「野鳥の森」は市の関連施設であり、入園料は大人100円ときわめて低く設定されています。また、2021年5月現在JAZA(日本動物園水族館協会)の加盟施設ではありません。しかし、「野鳥の森」はただ気軽に動物とふれあうだけでは見えてこない視点も私たちに提供してくれます。

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 「野鳥の森」は、越谷市とオーストラリア・キャンベルタウン市との姉妹都市交流開始10周年を記念し「オーストラリアの自然に親しみ理解する」ことを目的として開設されました。キャンベルタウン市はオーストラリアの南部に位置し、シドニーの衛星都市とされています。

 施設内にはバードケージの建設過程の写真も掲示されており、かなり大掛かりな工事が行われたことが窺えます。

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 ところで、「オーストラリアの自然」と聞いて、多くの人がイメージするのはどんな風景でしょうか。私自身、エアーズ・ロックに象徴される広大な砂漠、あるいはカンガルーやコアラをはじめとする有袋類の姿がまず真っ先に頭に浮かんでいました。

 「野鳥の森」でも確かに有袋類の仲間であるベネットアカクビワラビーを飼育しています。しかし、この施設の主役は「鳥類」、それも「家禽・愛玩鳥」としてペットショップで出会うイメージが強いインコやオウム、キンカチョウであると私は感じています。

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 管理棟に輝く、「世界一美しいオウム」とも呼ばれるクルマサカオウムのステンドグラスに華やかな印象を受けながら、バードケージへ足を踏み入れました。

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 脱走防止のため二重の自動扉で制御されたバードケージの入り口を通ると、真っ先に鋭い眼光の鳥が近づいてきました。オーストラリアイシチドリです。干潟などで観察されるチドリの仲間は水辺を好みますが、オーストラリアイシチドリは陸地を得意とする鳥のようです。

 国内の他の動物園では多摩動物公園でも飼育されているようですが、「野鳥の森」のバードケージ内では比較的身体が大きく、しかも何羽も通路をうろついているためよく目立ちます。彼らに案内されるように、さらに施設の奥へと歩みを進めました。

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 バードケージ内にはオーストラリアの森林を象徴するユーカリも植樹されています。木の上で休憩しているレンジャクバトは日本のキジバトによく似た羽の色合いですが、アンテナのような冠羽が特徴的です。

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 さらに順路に従って進んでいくと、頭上をかすめるように飛ぶ小鳥がいました。オカメインコです。家庭内で飼育されるペットのイメージが強いですが、原産地はオーストラリア。それも食糧を求めて渡りを行う生態が知られており、飛翔能力はかなり高いとされています。野生下に近いインコたちの飛ぶ能力の一端を、巨大なケージの中で体験することとなったのです。

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 インコ同様家禽のイメージが強いキンカチョウも、ここでは樹幹・地上を問わずせわしなく飛び回り、野生下の姿を力強く想起させてくれます。

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 ステレオタイプな「オーストラリアの自然」とは少し違うかも知れないけれど、「ペットとしての姿」ばかりが知られているインコやオウムの野生下に近い暮らしぶりを魅せる展示は、まぎれもなく「オーストラリアの自然に親しみ理解すること」に寄与していると感じます。

 野性のオカメインコは大都市であるシドニーや、キャンベルタウンを含む近郊の都市にも飛来することがあると言われており、「野鳥の森」にもキャンベルタウンから寄贈されています。

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姉妹都市の「身近な野鳥」としての顔を魅せてくれるキャンベルタウンのインコやオウムたちは、ヒトと動物の関係性について、考えるヒントを提供してくれていると言えるかも知れません。


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 ちなみに余談ですが、キャンベルタウンはポップで味のある掲示物も大きな魅力です。鳥類の生態についての解説も多く、非常に良心的な施設だと感じています。

 昨今の情勢の中で物販などの新たな試みも進められているので、ぜひチェックしてみて下さい。