【園館等訪問ルポ】動物園とウインズがある街で――「野毛ちかみち」/「動物園通り」/横浜市立野毛山動物園(神奈川県横浜市)
JR桜木町駅。みなとみらいとは反対側に出た地下道の入り口に、競走馬とライオンの絵が並んだ「野毛ちかみち」の看板が目に入ります。
地下道を抜けた先には、日本中央競馬会(JRA)の場外馬券売場であるウインズ横浜、そして横浜市が設置する3つの動物園のうち最も歴史が長い野毛山動物園があります。
入園料無料で運営されていながら、インドライオンやキリン、チンパンジーといった大型・希少動物を数多く擁する野毛山動物園。1949年に開催された日本貿易博覧会を経て、かつて日本庭園だった敷地が動物園になったと野毛山公園の入り口で解説されています。往時の面影を想起させるような空間もあり、ほっと一息できる園です。
数多くの希少動物のいのちも預かる動物園が無料で広く開放されていることと、野毛が競馬の街でもあることは、実は決して無縁ではないかも知れません。
ニューカレドニアの国鳥であり絶滅の危機にあるカグーは、国内では2021年5月現在野毛山動物園でしか一般公開されておらず、同園を代表する飼育動物と言えそうです。カグーの公開は、非公開施設である横浜市繁殖センターで行われている保全・繁殖事業を広く知らせる役割も担っています。
このカグーが暮らす放飼場に、1枚のパネルが掲げられていました。「この動物舎は日本中央競馬会(JRA)環境整備事業交付金により再整備しました」。
よく園内を見ると、カグー舎だけではなくあちこちで同様の掲示物を目にすることができます。中央競馬の収益が、動物園で暮らす動物たちの飼育環境や通路の整備にも役立てられているのです。
JRAの事業報告書(令和2年度)には、「事業所周辺の整備に
関する取組み」の具体的な内容として、
競馬場・ウインズ等が所在する合計38の地方自治体に対して、道路・交通安全施設整備事業、教育・社会福祉施設整備事業、公園整備事業等の合計376事業に、総額53.8億円の環境整備事業費を交付し、事業所周辺の環境整備事業を実施
と報告されています。交付自治体のひとつである京都市のホームページではこれら環境整備事業交付金の要件についてもう少し詳しく掲載されており、
競馬場から3km以内(一部5km以内),場外勝馬投票券発売所から2km以内
という対象地域が示されています。
ウインズ横浜――場外勝馬投票券発売所が目の前にある野毛山公園/野毛山動物園は、まさにこの要件に該当しています。
歓楽街・野毛には、一方で「動物園通り」という名の道があり、商店街でも動物園のポスターがあちこちで見られました。
野毛山動物園は無料の施設ではありますが、広く寄付金を受け付けています。園の周辺も歩きながら、「動物園が地域とともに歩んでいくこと」について多面的に考えさせられた訪問でした。