幽霊のように無収入(全生庵「幽霊画」展)
不備があってパート勤務が今週末まで飛ぶ、という無収入な空白期間が急に出現してしまった。
なので逃げるように出かけたい。せめて空白ではないことにしたい。
出かけるのが下手で行き先が思い浮かばず、早朝からどこに行こうどこに行こうとインターネットぐるぐるしていたら3時間くらい経ってしまった。これ以上いくと焦燥に駆られたまま動けず1日が終わる自滅パターンになってしまう(よくやるやつ)。指で擦って遡り続けたSNSのブックマーク欄に毎年8月のみ公開している幽霊画展をみつける。無収入てなんだか幽霊みたいだな、とやたらしっくりきたので行くことにする。幽霊、多分無収入。
南北線「東大駅前」で降りる。はじめての駅。出たとたんに煉瓦調の壁と柵が頭よさそう。東大の敷地内でカラスが飛び跳ねてる。かしこそう。壁に沿った駐輪所のチャリ。性能よさそう。これが東大、多分東大。
東大から外れてぐねっぐねとした坂を降りる。森鴎外が「S坂」と呼んでいた坂らしい。千駄木はなにかとパッパ(via.森茉莉)の息がかかっておりますなあ。
炎天下の坂を歩く。今日は日中35度とどうかしてる気温で誰もいない坂を上がる。どうかしてることをしてるのがたのしい。してやった感じがして気分がいい。多分危なっかしいことがやりたかったんだと思う。
朝からなにも食べていなかったので途中にあった蕎麦屋「鷹匠」で給水と休憩。生ビールのミニサイズがあってうれしい、おいしい。
鴨汁蕎麦を注文。鴨肉のつくね1片と分厚い脂の皮つき肉切れがたっぷりつゆに浮いていた。つくねはレバーぽい風味があって滋養を感じる、夏を頑張れる味で助かった。
2色盛りで出てきた深山、というえらくエッジの効いた太い蕎麦がとにかくゴツく、つゆもはねのけるくらい味濃く少盛りで頼んだのにたいへん充足&満腹した。ずっと噛んでた気がする。
食後、数分歩いて「全生庵」へ。
「幽霊画展」ルート指示に誘導されて、別堂の2階に上がる。
三遊亭円朝のコレクション群、とのことだけどすいません円朝知りません…真景累ヶ淵、は神経にかけていると誰かが言った豆知識だけうっすら聞いたことあるくらいの…筒井康隆のエッセイだったかな。
室内は暗く、ものすごく冷えてて涼しいのだけど作品群は予想外に乾いてユーモラスにすら感じられるものまであり怖く感じなかった。なんなら「元気さがある」とか評されてるような幽霊までいた。元気、生前生後もだいじにしていきたい。
有名な円山応挙の幽霊画、「円山応挙と”される”」といった担保つきなのも面白かった。真筆かどうか確証上がったことがない、なのに皆が円山応挙の画という「幽霊画自体が幽霊のような存在」て構造がすき。それ自体が怪談、ってみんなの好物じゃないですか。「牛の首」(聞いてしまった者はその恐ろしさのあまりしんでしまうので結果誰も知らない、という仕立ての怪談)とか。
見終わって外に出たら地面が黒く濡れていた。気づかないうちに激しく雨が降ったらしい。世界が黒くて、暗くて、ムワッと急変していた。駅にたどり着けなくなって途中で飛び込んだ喫茶店の店主に「すごい雨でしたねえ」と聞かされてそこでようやく雨が降ったとわかった。アイスコーヒーを飲んでいたら先客が退店しようと開けたドアからセミが飛び込んできた。店主が悲鳴をあげて、どうしてもダメなんです、と店奥に引っ込んでしまったので箒を借り、そっと抑え込んで、外に掃き出した。お盆なので、メッセージ性高いなとちょっと気になったけど、掃き出した。飲み終わったあと店主はお礼言いながら外にまで出て来てくれて駅までの道を教えてくれた。
教えてもらった道はちょっと間違っていて遠回りで、またS字坂に戻って、くねっくねした坂をのぼりながら、その後は特に何もなく家に帰った。