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新しい冷蔵庫は教え子とともにやって来た

玄関のインターホンが鳴った。

「こんにちは、○○デンキです。冷蔵庫の配達に来ました・・・もしかして、hana先生ですか?」「えっ、誰???」
「Yです。中学校1年のときに、先生のクラスでした。」
「えーーーーっ、Yくん???」

最近、妙に教え子との予想しない再会が多い気がする(笑)。

今日も、見たときには全くわからなかった。中1の頃は、小柄で、坊主頭のやんちゃ小僧だった。

このときの学級は、とても思い出深い。
小学校で学級崩壊し、男子児童達が大暴れした学年だと聞いていた。なかなか壮絶だったらしい。小学校の担任の先生からの引き継ぎでも、耳を塞ぎたくなるような単語が何度も出てきた。

入学式の日。
クラスに全員がそろったところで、私が話し始めると、男子生徒の3分の2は、私を睨みつけていた。

式の前に、呼名(担任が名前を呼び、返事をすること)の練習を一度行った。担任が名前の読み間違いを防ぐためと、生徒がはっきりとした声で返事ができるかを確認するためだ。

元気に返事ができる子に対してクスクスと笑う男子が3分の2ほどいた。私を睨みつけていた生徒達だ。

その場で指導しようかどうか、迷った。式までの時間はわずかだ。まずは全員の生徒の名前を確認するのが先だ。

返事の練習を終えた。あと5分ぐらいだった。笑った生徒を取り上げて指導している時間はなかったし、それより、もっと雰囲気をよくして、生徒をのせてしまおうと思った。

賭けだった。

「みんなの声は、この学校で3年間頑張るぞ、という決意の返事になるから、堂々とできたほうがかっこいいと思う。ちょっと、声出しをしようか。」

そう呼びかけて、「私が、1年△組(自分のクラス)、と呼ぶから、全員で返事をしてごらん。」と言った。

「1年△組!」

「はい!」

「窓ガラスが震えるくらい声出していいよ。」

例の男子生徒達が笑った。「震えるわけないじゃん。」と言ったのは、Yくんだった。

「いや、音って空気の振動だからさ、震えるんだよ、タイミングがバッチリ合うと。もう一回いくよ。・・・1年△組!」

「はいっ!!」

例の男子生徒達も、顔を見合わせて、面白がって返事をしていた。何回か繰り返すと、窓ガラスがビリビリっと揺れる気配があった。

私も含めて、全員がびっくりした。

「ね?」

「本当だ~」

例の男子生徒達も、「すげ~」と笑っていた。

無邪気な笑顔だった。

大丈夫だ。この子達と、この一年頑張れる。そう確信した。

入学式を終えて、教室に戻ってくると、静かだった男子生徒達も教室の隅に集まって談笑していた。彼らなりに、緊張していたのだろう。
式での返事も、よく頑張っていた。

そこへ、保護者も教室にやってきた。全員がそろったところで、私は生徒を席につかせ、話を始めた。

「入学おめでとう。みんなが来てくれるのを楽しみにしていました。」

そう話し始めると、例の男子生徒達がまた私を睨み始めた。一際厳しい目をしていたのが、Yくんだった。

私は、全員の顔を一人一人見ながら、特に、問題行動が多かったと聞いていた生徒達の目は、しっかりと見ながら、話を続けた。

「小学校で頑張ってきたことは自分の力にして、小学校で失敗したなあと思うことは、全部忘れて、今この瞬間から、新しいスタートを切ろう。私は、みんなを応援しています。でも、これだけは許さない、っていうことがあるので、覚えておいてください。一つは、他人を傷つけること。もう一つは、自分を傷つけること。」

Yくんは、はっきりと下を向いた。

この子を立ち直らせよう。前を向いて歩けるようにしよう。そう思った。

こうして、私の一年は始まった。苦しかったが、もがいては同僚に助けてもらい、保護者とともに、生徒の成長に全力を尽くした一年だった。

Yくんも大きく成長した生徒のうちの一人だった。問題行動を起こすたびに、何が悪いことなのか伝え、厳しく叱った。叱るたびに「私はYくんが嫌いだから叱っているんじゃない、あなたがやった行動が間違っているから叱っているんだよ。」そう伝えた。同時に、保護者には「私が叱り役をやるから、おうちではしっかり支えてやってください。」と頼んだ。「小学校のときに、家庭で叱り疲れた。」と最初の面談で言っていたからだ。Yくんは一年かけて、問題行動がだんだん少なくなっていった。


三学期の修了式の日、クラスの生徒達から寄せ書きをもらった。
多くは感謝の言葉が綴られていた。その中に「来年もお世話になりますので、またよろしくお願いします」の言葉を見つけた。
Yくんだった。

結論を言えば、私はその年度末で人事異動で他の学校に行ったため、Yくんの担任はできなかった。その後、人づてにYくんが野球部を辞めたことを聞いた。Yくんがどんな生活を送っているのか、気になっていた。

「まさか、Yくんが○○デンキで働いているとは思わなかったよ。」
私は、作業をしているYくんに話しかけた。
「俺、高校を卒業した後、しばらくは別の仕事をしていたんです。でも、続かなくて。今は、この仕事をしています。」
「そうか、やりたいと思って働いても、やってみないとわからないことって、たくさんあるからね。」
「本当にそうですね。」
「どこでまた夢を見つけられるかわからないからさ、とりあえず目の前のことを一生懸命やったらいいよ。」
「それ、すごく懐かしいです(笑)」
「ああ、覚えてるんだ?」
「だって、いつも言ってたから(笑)」
はきはきと話すYくんを見ながら、「生徒達はこうやって立派に成長していくのに、私はちっとも変わらない」ということに気付き、自分でも少し可笑しくなった。



冷蔵庫の設置を終えて帰ろうとするYくんに、私は話しかけた。
「会えてよかったよ。安心した。これからも、頑張って。」
Yくんは、にっこり笑った。
明るい笑顔だった。
「ありがとうございます。先生も。」

あの頃の苦労が、一気に報われた気持ちになった。


新しい冷蔵庫を見るたびに、しばらくはYくんのことを思い出すだろう。

私も、頑張らなきゃなあ。






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hana
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