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【介護日記】要介護1の母と期日前投票へ行った話。

「今回の選挙、棄権していいよね?もう、こんな格好じゃ、みっともないよ」

母が、届いた葉書を見ながら言う。

投票場所は、投票日当日だと地域の小学校なので、知り合いに会う可能性が高い。

「こんなに腰が曲がっちゃって、あの高い台のところまで背が伸ばせないし、両手で支えないと一人では立てないよ。どうやって字を書けばいいの。」

母は円背で、腰が90度に曲がったまま生きている。まっすぐに伸ばすことはできず、そんなわけで歩くときはどこかに常時つかまっている。クラッチ歩行は、5分ぐらい、歩行器を使えば、10分ぐらいは歩き続けることができるようになってきた(毎日の朝のリハビリ効果)。

母の言葉は続く。

「今まで、あんたのお産の時以外、棄権したことないけどさ。」

ああ、50年前・・・それは、すいません、というか・・・

私は尋ねた。

「ばあちゃんは投票に行きたいの?」

「そりゃそうだよ、わしにも一票あるんだからさ」

あ。ならば。

「なら、期日前投票に行こうよ。市役所だから入口に車椅子あるし、どこにも段差がないし、きっと知り合いに会わないよ。私も投票に行くから、そのときに一緒に行くのはどう?」

特別支援学校で行われる模擬投票の授業で、車椅子の人や介助が必要な人には、投票所の人がサポートしてくれると知った。実際に、知的障害のある生徒や、指が動かせない肢体不自由の生徒が、市役所の方に手伝ってもらいながら投票したのを何度も見ている。

ばあちゃんなら、自分で字が書けるし、車椅子を自走させる力がないだけだから、そこをサポートしてくれれば、できるはず!

というわけで、今日、期日前投票に行ってきた。


市役所に着いて、ロビーまで頑張ってクラッチで歩いてもらう。朝の散歩より短い距離だから、余裕。
ロビーで車椅子に乗る。
「じゃ、動きまーす」
期日前投票所は、市役所の奥の会議室みたいなところにあった。段差なしだから、楽勝である。

入口で、係の方がすぐに声をかけてくださった。
「投票券、ありますか?お持ちしますよ。(車椅子を押す私に向かって)入り口のところで、交代しましょう。」

実際に車椅子で投票するのを介助するのは初めてだったので、私も少し緊張していた。声をかけてくださり、助かった。

母はかなり背が小さい。車椅子用の低い記載台もあったが、それでも届かないと判断され、壁に向いた長机のところで投票用紙を書くことになった。
その高さなら母も安心で、何なら長机は横幅も広いから、両ひじを載せることもでき、体が安定した。

用紙を書き終えると、投票箱まで係の方が車椅子を押してくれる。母は投票箱に手が届かなかったので、都度、別の係の人が投票箱を床近くまで降ろしてくれて、母は投票用紙を入れることができた。

私はその様子を出口の外から見ていた。

ありがたいな、と思った。

投票を全て終え、係の方は車椅子を押しながら、出口にあったウエットティッシュなどを母に渡した。
出口で私と合流。

「お待たせしました。」
係の方が、笑顔で声をかけてくれた。
私は車椅子の操縦を交代しながら、
「ありがとうございました。助かりました。」
と、係の方に伝えた。

係の方は、
「いえいえ。どうもありがとうございました。」
と答えてくれた。

ロビーで車椅子から降りた母は、
「簡単だったね。投票できてよかったよ。」
と、満足そうだった。
もちろん、知り合いには誰も会わなかった。


期日前投票を勧めなかったら、もしかしたら、投票を諦めていたかもしれない。
娘の私が車の運転ができて、自宅から投票所まで気兼ねなく移動ができたから行けた、というのはあるかもしれない。これがバスに乗って、タクシーに乗って、だったら、行かなかったかもしれない。

そう考えると、介護が必要な方にとっては、「投票」って心理的に遠いのかな、と思った。家まで巡回投票所が来てくれたらいいのに。


母は、無事に期日前投票ができた。
また次も、一緒に行けたらいいな。
2年後は、娘も一緒に。
母と娘は、介助をしてもらいながらになる。今回流れがよくわかったから、安心してできそうだ。

2年後の目標は、三世代で投票、かな。
それまで元気でいなきゃね!



特別支援教育に興味を持つ教員です。先生方だけでなく、いろいろな職業の方とお話して視野を広げたいし、夢を叶えたいです。いただいたサポートは、学習支援ボランティアをしている任意団体「みちしるべ」の活動費に使わせていただきます。