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さよーならまたいつか!(23)[バンコク編]
夕食。それは1日において1番大切な時間(個人の感想)。夜のカオサン通りを目指し歩いていると、良い匂いを漂わせる一軒の屋台を見つけた。
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メニューを見ると"SUKIYAKI"とローマ字で書かれている。名前はスキーという料理らしい。
すき焼きか。ただ写真を見る限りすき焼きではない。きっと海外にある"SUSHI"的なことだろうと、少し不安な気持ちになった。
ただ、調理されている"SUKIYAKI"から漂ってくる匂いは面白いほど、私の食欲を刺激してくる。「これは間違いない、絶対に美味しい」と脳からの信号が届いた。食べないわけにはいかないなと思い、席に着いた。
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到着したスキー。これがタイの"SUKIYAKI"(しつこい)。熱々の鉄板に乗せられた白菜と春雨とチキン。餡のような感じだ。どれどれ。
味はさっぱりとした塩味。ほのかに香る胡椒が良いアクセント。テーブルに置かれたチリソースをかけて味変も可能。美味い。これは癖になる味だ。こんなこともあろうかと用意していたビール。不思議なほどに進む、進む。このスキー、量も結構多い。とても満足感を得られる一品(逸品)だった。「これ、美味いんだよなぁ」に認定。
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ちなみに場所はここ。近くにセブンイレブンがあるので着席前にビールを買うことを推奨する。
カオサン通りを歩く。昼とは全く違う。クラブのようなお店から永遠と鳴り響く大音量の重低音。地響きかと思うくらい、体にズンズン来る。タイでは大麻が合法化されたため、多くの大麻店が繁盛していた。甘い焦げたような匂いが周囲を包んでいた。
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客引きたちが「ハッパ吸うゥ〜?」と声をかけてくる。やりませんときっぱり断り進む。
途中、大きな風船を楽しそうに咥えている人たちがいることに気がつく。そういえばドリンクメニューの裏側をこっそり見せてくる客引きが何人かいた。
そこには「LAUGH GAS」の文字が。後になって調べてみると、笑気ガス(?)と呼ばれるものであることが分かった。完全違法のものらしく、お酒のような酩酊感を得られるらしい。メニューをこっそり見せる理由もそれか、と納得した。
こういうものはイタチごっこだなと思う。次から次へと、法の目を掻い潜ろうとする。ある意味凄いことだ。
もちろんそんなものにも興味はないのでスキーに満たされた腹を抱えながら宿へ戻る。途中マンゴーを買った。
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このサイズとクオリティが安い値段で買えるのは本当に助かる。貴重なフルーツのデザートを食べながら歩く。
8年ぶりのカオサンロード、思ったよりも気持ちが昂らなかったことに気がつく。
物価の高騰も影響してか、バックパッカーの聖地と呼ばれた「安宿、安くて美味い食べ物、格安航空券などのツアー会社」の面影は消え去ったように思えた。屋台は観光地価格になりつつあるし、ホステルだってカオサンロードから少し離れたところの方が安かった。
街はどんどん変化するものだ。特にタイは成長著しい。昔のままであれと勝手に願ったところで、時代は移り変わる。
4年前にコロナもあった。旅の形も旅人が過ごしやすい地域も多少なり変化した。それは当たり前のことだった。その事実にあまり目を向けたくなかったのかもしれない。
何も本で読んだり父から聞いたりした旅を完全に再現しようと思っていたわけではない。ただ、パンデミックと戦争は「移動の制限」や「物価の高騰」をもたらし、旅の形すらも変えてしまった。その現実を突きつけられたことが思った以上に悲しかった。
1度来たことがあるだけで偉そうに、とも思う。だが、たった8年、されど8年。年月の持つパワーは凄まじい。「こうであれ」と思い込むこと、それが思ったものとは違った時の感情は想像以上に寂しく虚しい。
だからといって下を向いてばかりいても仕方がない。"今"旅をしているのだから今できる最善の楽しみ方を実行するまでだ。もしかしたらいつの日か、海外旅行に行くことが叶わない日も来るかもしれない。そしてその可能性がかなり高いのも現実だ。
そんなことを考えながら宿へと急ぐ。少し酔いが回ってきた。明日はどこへ行こうかな...。移動の疲れもあってか、その日は死んだように眠った。