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現代の都市に誇りはあるのか? | WHY & HOW by NOSIGNER Vol.11

「WHY & HOW by NOSIGNER」は、デザインファーム・NOSIGNER(ノザイナー)がお届けするソーシャルデザインマガジンです。いまデザインが挑むべき社会課題(=WHY)を毎回一つ取り上げ、その背景を掘り下げるとともに、NOSIGNERが関わっているプロジェクト(=HOW)についてご紹介します。


WHY #11:シビックプライドの醸成

歓喜に包まれた横浜の街

去る11月3日、横浜スタジアムで行われた日本シリーズ第6戦で、横浜DeNAベイスターズは福岡ソフトバンクホークスを下し、 26年ぶりの日本一に輝きました。NOSIGNERが拠点とする横浜にホームグラウンドを置く球団の悲願達成によって横浜の街は歓喜の渦に包まれました。今回のニュースレターでは、私たちもブランディングの一部に携わった同球団の日本一を機に、「シビックプライド」にフォーカスしたコンテンツをお届けします。

なぜシビックプライドが必要なのか?

シビックプライドとは、地域に対して住民が誇りや愛着を持ち、地域社会に貢献する意識を指します。都市におけるシビックプライドが高まることは、若者の転出抑制や出生率の向上といった人口流出の抑制にもつながります。さらに、地域サービスの向上や人的交流の活性化を促し、地域全体の発展に寄与します。
しかし、近年の都市開発によって街の景観は均質化し、都市としてのキャラクターが十分に確立できていない、独自性を発信しきれていないという課題を抱えている都市は少なくありません。その結果、住民の地域への関心や誇りは低下し、地域活動やコミュニティイベントなどを通じた人材交流の機会が減少しています。このような背景から住民同士のつながりは希薄化し、地域固有の文化や歴史も継承されにくくなっている状況が全国各地で見受けられます。

チャレンジャーが花開ける都市

100万人規模の人口を抱える都市においても、シビックプライドの課題を抱えているケースは少なくありません。シビックプライドの醸成において大切なのは、都市全体をひとつの「ローカル」として捉え、固有の文脈を可視化し、多くの市民が共感できる未来の都市のヴィジョンを掲げることです。また、地域の魅力やポテンシャルを効果的に発信することで外部からの評価や注目が集めることも、市民の誇りを高めることになるはずです。
人口の多い都市におけるシビックプライドは、新しいライフスタイルや未来を変えるイノベーションをもたらす原動力にもなります。地域への愛着や誇りを醸成し、市民一人ひとりが挑戦や活躍できる場を創出していくデザイン戦略を描くことで、都市の魅力やブランド価値をさらに高めることができるのです。


HOW#11:横浜DeNAベイスターズ

球団が掲げたボールパーク化構想

横浜DeNAベイスターズは、横浜市にホームグラウンドを持つプロ野球球団です。1998年に日本一を達成しましたが、2000年以降は不振が続き、ファン層の拡大や経営の改善などが課題となっていました。2011年にDeNAに買収されたことで新たなスタートを切った球団は、本拠地・横浜スタジアムを市民がより親しみやすく、誇りを持てる場所とする「ボールパーク化構想」を推進しました。当時、スタジアムの隣にオフィスを構え、横浜の街に対して特別な思いを持つ私たちNOSIGNERは、この構想の推進に初期の段階から参画することになりました。

球団を通じて街全体をブランディングする

私たちが描いたデザイン戦略は、球団のブランディングに留まらず、横浜のブランディングという観点を持って変革を促すことでした。都市としての歴史が比較的浅く、約150年前の開港と同時に歩みを始めた横浜は、生まれながらにして西洋の空気感をまとう港町です。また、横浜の開港は、アメリカのベースボール文化が醸成されつつあった時代にも重なります。つまり、ベイスターズは、ホームタウンのアイデンティティを追求することで、野球の母国・アメリカの古き良き時代の空気感を体現し、ベースボールの本質に迫ることができる日本唯一の球団なのです。

こうした戦略のもと、横浜スタジアムを街にひらくDREAMGATEや近隣のマンホールのデザイン、ライフスタイルブランド「+B」やコーヒーカウンター「BALLPARK COFFEE」、飲食施設「&9」のデザインディレクション、スポーツを軸にした複合施設「THE BAYS」のディレクション、2軍チームの新拠点「DOCK OF BAYSTARS YOKOSUKA」のブランディングやサイン計画、球団の公式フォント「ベイスターサンズ」の開発などを行いました。

「+B」では、ファンアイテムの定番だった観戦グッズだけではなく、マグカップやステーショナリーなど日常的に使うことができる魅力的なアイテムを広く展開。横浜の企業やブランドがコラボレーションアイテムなどを展開する上でのガイドラインとなるデザインコードを設定しました。
「ジオメトリック」「スラブセリフ」「ステンシル」という3種のファミリーが用意された球団公認書体「ベイスター・サンズ」。

街のブランドや魅力を高める存在に

一連の取り組みの結果、ベイスターズは人気球団になり、経営も黒字化を達成しました。さらに、協働の過程でベイスターズや横浜市芸術振興財団らとともに立ち上げた共創のプラットフォーム「We Brand Yokohama」でのご縁からは、横浜市のイノベーション政策「 YOXO」をはじめさまざまな活動が生まれるなど、横浜発のイノベーションを加速させる場となりました。

関内エリアに開設されたベンチャー企業成長支援事業の拠点「YOXO BOX」。NOSIGNERでは内装ディレクションやサインデザインなどを担当。

ベイスターズは横浜市民のシビックプライドを醸成する中心的な存在となり、球団を起点に横浜の街自体がイノベーティブでスポーツフレンドリーな都市へと発展を遂げました。 そして、2024年には球団の悲願だった26年ぶりの日本一を成し遂げました。きっと選手の活躍にも街からの応援の空気が追い風になったはずです。 今後もベイスターズが多くの市民に愛され、横浜という街自体のブランドや魅力を高める存在であり続けることを私たちは願っています。

選手寮、屋内練習場、屋外練習場から成る2軍チームの拠点。造船の街、基地の街である横須賀に位置し、目の前に海があることから、造船施設や港の停留所などの意味合いを持つ「DOCK」を冠した施設名を提案しました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

NOSIGNERでは、いま私たちが挑んでいる社会課題(=WHY)や、デザインの実践(=HOW)を毎回1つずつ紹介する「WHY&HOW」から、NOSIGNERの最新ニュース、代表の太刀川英輔による近況報告、スタッフ持ち回りコンテンツなどさまざまなコンテンツが満載のニュースレター「WHY & HOW by NOSIGNER」を配信中です。

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ABOUT NOSIGNER

NOSIGNERは、社会の各セクターを進化へ導くデザインパートナーです。デザイン戦略のプロフェッショナルとして、ブランディング・商品企画・空間設計・ウェブサイトのデザインなど様々な領域で国際的に評価されています。また、地域活性・まちづくり・脱炭素・気候変動・防災などの分野で豊富な知識と経験を備え、代表の太刀川英輔が提唱する「進化思考」を通して、創造的な組織や人材の育成活動にも力を入れています。


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