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いつもそこにあるものが無くなるセンチは、どこのまちでもあることだし小平駅の北口ならひとしお。〈丸徳_小平市美園町〉

地元の駅前のスタンドそばで出勤前に春菊天うどんを食べることが会社に行くための活力だったころの話。

マックがあったなんてもう遠い昔。郵便局も解体されて再開発に備えてるをひしひしと感じる小平駅の北口。お気に入りで通っていた店がぽつぽつと無くなっていく寂しさはひとしお。

そのひとつ。小平駅前にあったうどんとそばのスタンド。小平駅のホームから見える白い壁に貼りつく赤で〇に徳(丸徳)とう丼なんて洒落の効いた文字が気になって訪れてみたのがたぶんはじめまして。うどんと丼でう丼(うどん)っておしゃれって。

少し薄暗い店内に作務衣のおやじ。「いらっしゃい」ってダンディーな声で迎えられたのを覚えてる。カウンターに丸椅子が並ぶだけの小さいお店。メニューはうどんとそばにラーメンと丼ものに定食。

そばとうどんではなく、うどんとそばと書かれたメニューに心を惹かれる。天ぷらうどんで500円と財布にやさしい値ごろ。壁に下がる和風ラーメンとか豚丼とかカツカレーのメニューに泳ぐ目線。

頼んだのは春菊天うどん。うどんは冷凍麺を湯がいたものだけど、春菊天はお店で揚げる葉が広がる系。なんだかやさしく出汁が薫るかえしの効く汁とさくさくとほろける春菊天に、春菊天ラバーな(は)は一発で虜に。

それからね、出勤する朝、改札に向かうつもりで登る階段の一歩目に頭をよぎる食べちゃおうかなって、意志弱く後ろ髪どころか襟首掴まれるかんじで日々通うようになる。

頼むのは春菊天うどん一択。さくさくの春菊を頬張って、汁を吸ううどんを啜り、少し扱いずらい木のレンゲで少し尖る汁を飲み干して、都心に向かうが日課なんて日々。

いつかいつもくるリーマンとと認識してくれるようになり、おべっかなしの毎度と、座るだけで春菊天うどんが出てくるようになった頃。サービスで生玉子を入れてくれるようになったんです。

うれしいよね、認められたって。でも、実は、熱々の汁に浮かぶ生玉子が得意ではない(は)。なんでかって、熱々の汁が玉子で少しぬるまるのが嫌で、正直おやじごめん無しでいいよセニョリータだったんす。

それでもそのコトは言えずいつもごちそうさまって笑顔。そして、毎度ありがとうございます、行ってらっしゃい!って丁寧に見送られてた。

ほんとにどれだけ生玉子を最初にずるっと食べた日を過ごしただろうかって日常に突然お別れが。いつか開くと思ってたシャッターがずっと閉まったままに。

壁にね、劇団の公演のチラシが貼ってあったんです。そのチラシにおやじが凛々しく映ってた。ほにゃらら雪之丞って芸名とともに。

いまも役者は続けてるんだろうか、なんてそのころのままのシャッターの降りた店の前で思い出したりする。

ここ最近、こういう街のスタンドそば屋がどんどんなくなってるって寂しさと危機感。あの駅この駅で同じ味を楽しみたいなんて(は)は思ってない。

もう一度おやじ帰って来ないかなってずっと思ってる。

(は)

【丸徳】
  東京都小平市美園町2-2-32


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