いろいろなもの少しずつ、お酒と小料理を嗜むおもてなし酒場。〈夏風_花小金井〉
花小金井駅北口の線路沿い、車窓から眺めて気になっていた店。通勤通学の一部の人しか通らないであろう小道にある古い建物。
きっと飲み屋だろうと予想しつつ、地図アプリで検索してみると『夏風』というらしい。
いろいろなものを少しずつ、お酒も半杯から注文できると説明書き。欲張りなわたしのアンテナがピコッと光った。
さっそく仕事帰りに花小金井駅に降り立ち、線路沿いの小道を歩く。街灯に『はなこふれあいこみち』と書かれた札があった。この小道にも名前があったとは。
店に入るとカウンターで作業中の男性店主がひとり。
「こんばんは〜」
「いらっしゃいませ。はじめてですか?」
「はい…大丈夫ですか?」
「こちらへどうぞ」
はじめてかどうかが肝になるのかな?とドキドキしつつ、カウンター席に座る。
「はじめての方にはお通しがつきます」
なるほど。一見さんにこの店の個性と心持ちでご挨拶いただけるということか。
瓶ビールを注文し、お通しが来るまで壁に貼られたメニューを眺めていると、
「苦手なものがありましたら食材を変えることもできます。メニューにないものでも作れる場合がありますので相談してください。当店は少しずついろいろなものが楽しめるようにしてます。日本酒も半合でご注文いただけます」
おぉ。これは抜いて!あれが食べたい!に答えてくれて、さらには少しずつなんて、手間がかかって大変なことだ。物価が高騰する中、おいしく味わってもらいたいの心がないと、なかなかできることではない。
想像と期待が膨らむけれど、一見さんなのでまずは定番から…刺身の盛り合わせをお願いした。
瓶ビールでちびちびやっているとお通しが運ばれてきた。
海鮮酢の物に、玉子焼きとお浸し、その隣に…豆乳⁉️
悪酔いや二日酔い防止にも効果的な豆乳!お通しに添えられているとは、ありがたい一杯。
さっぱりとした酢の物と玉子のやさしいお味に今日の疲れがほどけていくようだ。そしてしっかり豆乳をごくり。
このお通しで、お酒と料理をちゃんと楽しんでほしいという店主さんの気持ちが伝わった気がする。
そして楽しみにしていた刺身の盛り合わせが運ばれてくる。
ホタルイカが大好きなもんで、旬になるとメニューにある店では必ずといっていいほど注文する。
今日もしっかり盛り合わせに登場でご満悦のわたし。
大皿には一口サイズの刺身が並べられ、店主さんお手製の煎り酒と塩や昆布が添えられている。
これはもう日本酒ですよね、とおすすめを尋ねる。まだ封切りしていないものがありますよ、とのことでそれをいただく。
フレッシュな甘い香りとすっきりとした口当たり。福島の『いいで』というその酒は辛口と書いてあったが、軽やかで飲みやすく、料理のお供にぴったりだった。
カウンターで1人、日本酒と刺身を堪能するようになったのだから、わたしも立派な大人だなぁと感慨に浸る。(どこからどうみても大人なのに、思い描く大人の嗜み的なことが実現すると「おっとな〜」と小さな自分がツンツンしてきませんか?)
〆には気になったイタリアン焼きそばをお願いした。
「食べきれなければお持ち帰り容器ありますよ」
と、またまた細やかな気遣いの店主さん。
いやいや、ノンノン、問題ありません。ペロリと食べてしまうでしょう。
食欲そそる香りはペペロンチーノ、ほおばると食感は焼きそば。塩焼きそばともちょっと違う洋風感。
これはビールにも合うなぁと、もう一本飲みたい気持ちと葛藤する。
なんとか自分に打ち勝ち、今日はここまで、お腹いっぱいごちそうさまです。
店をあとにして、小道を歩く。
波立つ日常の締めくくりに、心穏やかにお酒を楽しんだ夜。大人の嗜みとはこういうことなのかしら、と階段を1歩登った気がする帰り道。
(お)