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乙女も躊躇することなかれ。〈とんかつ藤乃木_学園西町〉
お昼時、カウンターもテーブルもいっぱいだった。店内は男性客が8割。それでも私はひとりでとんかつを食う!数日前から無償にとんかつが食べたくなり、揺るぎない決意を胸に入口で待っていた。
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「お待たせしました〜」
とカウンターに案内されると同時になみなみに注がれた緑茶が運ばれてくる。キャベツの浅漬けとたくあんの入った小鉢と共に。今日注文するものは決まっていたので、迷うことなくオーダー。胃腸を温めてそれを受け入れる準備を整えておくことにした。
パチパチパチ、ピチャッ、パチパチ。
自分で揚げるのは手間がかかるけれど、揚げ物の音はなんとも食欲をそそる。
ザッ、ザクッ、サクッサクッ。
揚げたての衣が奏でる最高のASMRをカウンターで楽しみながら、生唾ごくり。
大将は気さくに挨拶をしながらも、手を止めることなくとんかつを揚げ、切り分け、盛り付けていく。
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「ふぶきロースでーす」
大きなロースカツが見えないくらいに真っ白な大根おろしが覆っている、これがふぶきロースカツ定食。
ふんわりと細切りのキャベツが添えられ、熱々の味噌汁と大きな茶碗にたっぷりと白米!
……そうだった、そうだった!前回はヒレカツをいただいて、大盛りのごはんにお腹がはち切れそうになったのだった。
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さてどうやっていただこうかと食べ方を吟味する。ふぶき用のタレもあるが、まずはレモンを絞って塩をふってひとくち。
「んふ、うまい」
心の声が漏れてしまう。
ふわふわのキャベツも格別で、軽いのにみずみずしくていくらでも食べられる。これは切り方なのかキャベツの良し悪しなのか、こんなにおいしいキャベツの千切りは食べたことがない。
ふぶき用のタレをかけてもう一切れ。甘みのある肉と、ほどよく柔らかい白米を口いっぱいに頬張って、しっかりと噛み締める。
実はもともと胃腸が弱く、揚げ物を食べると胃がもたれてしまうたち。でもここのとんかつはペロリといけてしまう。衣も肉も脂っこさを感じない。
店内のテレビでは朝ドラの再放送。国民的番組がその場の空気を左右する。そんな光景もだんだんと減っているのかもしれない。
ニュースを見ながら文句を言うおじさんの声も、今となっては貴重な世論を知る機会だったのかもしれないなぁ……
そんなことを考えながら、箸は止まらず私の口にせっせと肉と白米を運び続けていた。
皿の上からとんかつがなくなった頃、食後用にと店員さんが紅茶を運んできてくれた。食前と食後で違う飲み物を出してくれる心遣いがうれしい。
ほんのり甘い紅茶をすすりながら、
「ふ〜満足満足」
また心の声が漏れそうになる。
会計を済ませると
「お待たせしてすみませんでした。ありがとうございました!またお願いします」
と大将。
わたしが食事をしている間も、どのお客さんにも一言声をかけて見送っていた。
こちらこそおいしいとんかつをありがとうございました。
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『とんかつ藤乃木』は大盛りのごはんも、緑茶と紅茶も、やさしさを感じるあたたかい店だ。何も恐れることはない、揚げ物が食べたくなったらどんな人でも堂々と食べに行ってほしい。
(お)
『とんかつ藤乃木』
東京都小平市学園西町1丁目20−6